エンジェルス・エッグ 原作:村山由佳(青春アドベンチャー)

格付:AA
  • 作品 : エンジェルス・エッグ
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : AA
  • 分類 : 恋愛
  • 初出 : 1994年4月18日~4月29日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 村山由佳
  • 脚色 : 湯本香樹実
  • 演出 : 千葉守
  • 主演 : 萩原聖人

朝、7時50分の満員電車。
ハインラインの「夏への扉」を持ったその女性は、端正で清潔で少し悲しそうで…
そう、美術室にあった石膏のアリエス像に似ていた。
彼女に二度目に会ったのは父の入院している病院。
父が自分の世界に閉じこもっていた場所。
白衣を着た彼女は、そんな悲しみの場所の中でも一層、寂しげで儚げで、僕は彼女を守りたいと思っていたんだ。



村山由佳さん原作の恋愛小説「天使の卵-エンジェルス・エッグ」をラジオドラマ化した作品です。
青春アドベンチャーで村山由佳さんといえば、番組屈指の長期シリーズとなった「おいしいコーヒーのいれ方」シリーズ(通称「おいコー」)です。
おいコーのラジオドラマ化がスタートしたのは1997年ですので、本作品「エンジェルス・エッグ」はその3年前の作品ということになります。
そして、本作品を演出しているのは、おいコー前期の演出を担当した千葉守さんであることを考えると、恐らく本作品の成功を踏まえて、おいコーのラジオドラマ化が踏み切られたのだと思います。

予想どおりの悲劇

さて、本作品は青春アドベンチャーでも数少ない正攻法の恋愛ドラマです。
しかも「おいコー」のように明るい要素もなく、静謐というか、繊細というか…
はっきり言うと、心に傷を持っていたり、あるいは心を病んでいたりする人間達ばかりが登場し、彼らに悪意はなくとも、結局悲劇的な展開になってしまう作品です。
そもそも主人公達が「美大志望の浪人生」と「精神科医」で、ふたりの接点が「精神病の患者」(恐らく鬱病)というあたりからして、鬱展開が予想できます。

純粋なラブストーリー

ちなみに、この作品の脚本を書いているのは湯本香樹実さん。
ファンタジックな作品の印象が強い湯本さんですが、「なるほど村山さん+湯本さんだとこういう作品になるのか」というような、張り詰めた、でもどこか現実味の薄い純粋なラブストーリーになっています。
また、ヒロイン・春妃の囁くような声が耳元で聞こえるのはラジオドラマならでは演出ですし、伊藤守恵さんの選曲も湯本さんのシナリオの持つ雰囲気や、登場人物達の痛い台詞を際だたせています。

鬱展開もたまに良し

総合的に、(やや)大人向けの純粋なラブストーリーになっており、映画やテレビドラマにはよくあるものの、青春アドベンチャーでは他にない作品になっています。
映画やテレビドラマでよくある種類の作品を敢えて青春アドベンチャーでやる意味があるのか、という議論はあるでしょうし、あまりに悲劇を狙いすぎた展開にはいささか辟易する部分もあるのですが、たまには良いのではないでしょうか?

後日、映画化もされた

さて、「映画やテレビドラマにはよくある」と書きましたが、実際、「天使の卵-エンジェルス・エッグ」も青春アドベンチャー化の12年後に映画化されています。
映画版の出演者は市原隼人さん、小西真奈美さん、沢尻エリカさんといった方々だった訳ですが、この青春アドベンチャー版の出演者はどんな感じだったのでしょうか。

主演は萩原聖人さん

まず、主役の一本槍歩太(いっぽんやり・あゆた)を演じたのは、演技派として有名な俳優の萩原聖人さん。
青春アドベンチャーでは「蒲生邸事件」(1999年)にも出演されています。
「萩原聖人」+「NHK」+「声の出演」といえば、「冬のソナタ」などのペ・ヨンジュンの吹き替えが有名ですが、本作品でも陰のある青年・歩太を繊細かつ瑞々しく演じており、とても役にあった演技だと感じました。

演技力の勝利

本作品は「冬のソナタ」(2003年)の10年近く前に制作された作品であり、この当時から萩原さんの声の演技が素晴らしかったことが分かります。
現実の萩原さんは、芸能界屈指の麻雀打ちであり、どちらかというと歩太やチュンサン(冬のソナタ)よりも、別作品で彼が演じた「カイジ」(逆境無頼カイジ)や「アカギ」(闘牌伝説アカギ ~闇に舞い降りた天才~)に近い方なのかも知れませんが、さすがに演技派らしく違和感のない演技です。

ヒロインは洞口依子さん

一方、ヒロインの五堂春妃(ごどう・はるひ)を演じるのは、TVドラマ「愛という名のものとに」や「ふぞろいの林檎たちⅣ」などで人気を得た女優の洞口依子さん。
萩原さんと洞口さんといえば当時、TVドラマの主役でもおかしくない豪華なコンビでした。
その他、脇役陣は渋谷琴乃さん、内山森彦さん、石田太郎さん、長沢大さんなど、青春アドベンチャーではお馴染みの面々で、とても安心して聴ける配役です。

原作を壊さないストーリー

さて、NHK-FMのラジオドラマで原作のある作品の場合、放送時間の都合上、全般にストーリーや細かい会話は端折りながら進むことが通常です。
しかし、ストーリー展開やテーマ自体が大幅に変わってしまう様な改変、翻案はあまり行われません(色々な作品にメディアミックスされたが一番原作に近かったのがラジオドラマと言うことが良くある)。

だけど、おまけ要素もあり

本作品もこの伝統?に則り、概ね原作準拠の展開が続きますが、終盤は一部、オリジナルのシーンがあり、そこまでひたすら嫌な奴だった長谷川医師が心情を吐露するシーンがあったりします。
原作を既読の方でも楽しめる程度の追加だと思いますので、安心してお聴き下さい。



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