天使猫のいる部屋 原作:薄井ゆうじ(サウンド夢工房)

格付:B
  • 作品 : 天使猫のいる部屋
  • 番組 : サウンド夢工房
  • 格付 : B+
  • 分類 : 幻想(日本/シリアス)
  • 初出 : 1992年1月20日~1月31日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 薄井ゆうじ
  • 脚色 : 成田勝也
  • 演出 : 香西久
  • 主演 : 後藤敦

グラフィック・デザイナーの野見山は、ある日、奇妙な依頼を受ける。
CGで猫の手のグラフィックをつくって欲しいというのだ。
依頼主はかつて有名なゲームを連続して世に送り出し、天才と謳われたプログラマー“サム”。
野見山の作品の出来映えに満足したサムは、野見山をこの事業の共同制作者に指名する。
この事業、そう、サムはコンピューター上で黒猫に命を与え、世の中にペットとして提供しようというのだ。
ただのゲームではない、提供するのは命を持った本物と同じペットだ、サムはそう主張するのだが…



薄井ゆうじさんの小説をラジオドラマ化した作品です。
本作品の原作小説「天使猫のいる部屋」は1991年1月に刊行された作品で、1988年にデビューした薄井さんの初の長編小説でした。

先物買い

ちなみに、本作品は丁度その1年後にラジオドラマ化されています。
この時点では薄井さんはまだ2作目の長編小説を上梓(1991年12月)したばかり。
薄井さんは後に「サウンド夢工房」の後番組である「青春アドベンチャー」で多くの作品がラジオドラマ化されることになります。
例によってNHK-FMのラジオドラマスタッフの先読みの良さはなかなかのものです。
本ブログでもすでに「青の時間」と「星の感触」の記事をアップしています。

プロトタイプ?

なお、本作品とこの2作品は登場人物達の組み合わせがよく似ています。
専門的な技能を持つ世慣れた苦労人である主人公が、どこか浮世離れした特殊な力を持つ人間と知り合う。
そして、その特殊な人間には彼のことを心配している女性がいるという組み合わせ。
これが基本的なパターンです。
この「天使猫のいる部屋」が最も初期の作品ですので、後の作品の雛形であるとも言えましょう。

AI流行ってますよね

さて、本作品はコンピュータ上に疑似ペット(生命)を作ることをテーマとした作品です。
本作品が発表された1991~1992年ではそれなりに新鮮なテーマだったかも知れませんが、今では特段目を引くテーマではありません。
しかし改めて考えてみると、大ヒットした「たまごっち」が発売されたのが1996年、ニンテンドーDS用の「nintedogs」が発売されたのが2005年であることを考えると、本作品は的確に近未来の予測をしていたことになります。

SFというより…

本作品の序盤はこの人工生命のプログラムを中心にSF的な内容で進んでいきますが、**(ネタバレ防止のため伏せ字)が死んで以降は、少し趣が変わります。
**は本当に死んだのか、それとも何らかの形で生きているのか、後半は特に幻想的な内容になっています。
生命を人間が操ることの是非など、もともとのテーマはSF的ではあるのですが、結局、結末も理屈を提示するというより感性に訴える内容のものあったので、本ブログでの分類は「幻想(日本)」としています。

テアトル・エコー・トリオ

話は変わって、本作品の出演についてご紹介します。
メインキャストは、主役の野見山役が後藤敦さんで、サム役は銀河万丈さん、そして、ヒロインのさち子役が重田千穂子さんの「テアトル・エコー」トリオです(銀河万丈さんは現在は青二プロダクション所属)。
相変わらず銀河万丈さんは良い声をしてます。

サウンド夢工房の名コンビ

一方スタッフは脚色が成田勝也さんで、演出が香西久さんです。
お二人とも、主に本作品が放送されたラジオドラマ番組「サウンド夢工房」で活躍された方です。
「サウンド夢工房」はわずか2年間の短い番組でしたが、この2年間に成田さんは6本、香西さんに至っては名作「愛と青春のサンバイマン」を含む13本もの作品を担当されています。
「サウンド夢工房」の前番組である「アドベンチャーロード」と、後番組である「青春アドベンチャー」では私の知る範囲では、成田さんが1作品(武蔵野蹴球団)、香西さんも1作品(名探偵なんか怖くない)担当しているだけであることと比べると対照的です。
ただ「ふたりの部屋」や「カフェテラスのふたり」を中心に昔の番組のスタッフはよくわからないのでそちらで活躍されていたのかもしれません。

サウンド夢工房の特徴

ところで、この「サウンド夢工房」、作品本編の前後にあまり作品と関係のないポップスが流れるという構成上の特色があります。
この「天使猫のいる部屋」の時期で使われていた曲は、谷山浩子さんの「忘れられた部屋で」。
猫つながりとも言えなくはないのですが、基本的には作品とは関係ない曲です。
この構成のために「サウンド夢工房」の作品は、実質的にやや短めの放送時間になってしまっているのがちょっと残念です。

タイトルで勘違いしないように

最後に一言。
本作品、たしかに猫(名前は“スス”)が比較的頻繁にでてくる作品ですが、決して猫中心の、猫のかわいさを前面にだした作品ではありません。
猫好きの方は悪しからずご了解下さい。

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