肥後の石工 原作:今西祐行(アドベンチャーロード)

格付:AA
  • 作品 : 肥後の石工
  • 番組 : アドベンチャーロード
  • 格付 : AA-
  • 分類 : 歴史時代(日本)
  • 初出 : 1987年12月14日~12月25日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 今西祐行
  • 脚色 : 高谷信之
  • 演出 : 笹原紀昭
  • 主演 : 園田裕久

天保10年(1839年)秋深く。
石工頭、岩永三五郎は薩摩藩に依頼された石橋を無事に完成させ、故郷・肥後への帰途にあった。
しかし、事件は工事が終わってから始まった。
ひたひたと追跡してくる怪しい影。
自分は命を狙われているのか。心当たりは…ある。
完成させた橋には中央の石をひとつ取り外すだけで簡単に崩壊させることができる特殊な仕掛けを施してある。当然、戦になった場合を想定したものだ。
追っ手を差し向けたのは秘密を守りたい薩摩藩か。
死にたくない。
しかし道を外れ山を越えて一安心したのもつかの間、追跡してきた侍は大胆にも直接、宿の部屋に三五郎を訪ねてきた。
覚悟を決めるしかないのか。




本作品「肥後の石工」は、現在放送している青春アドベンチャーの前々番組であるアドベンチャーロードで1987年に放送された時代劇ラジオドラマです。

数少ない時代劇だが

アドベンチャーロードで制作された歴史もの・時代ものは、本作品のほかには「カムイの剣 パート2」と「おろしや國酔夢譚」くらいしかないのですが、特に本作品は児童文学作家、今西祐行さんによる児童文学作品が原作という点で異色です。

児童文学だからといって…

ただ、聞いていて感じるのは、民主主義も科学文明もない江戸時代に生きる貧しい下層民の生活や、身分制度下における庶民の苦悩や希望そして生きるための努力をまじめに描いており、子供向きだから手加減している風は全くありません。
アドベンチャーロードは児童文学ながら立派にSFしている「最後の惑星」を発掘していますが、こういった良い原作を紹介して頂けるのもラジオドラマを聴く醍醐味のひとつだと感じます。

4人の主人公

さて、本作品の主人公・岩永三五郎は作品タイトルのとおり肥後(今の熊本)生まれの石工。
薩摩藩の秘密に触れたことにより命を狙われますが辛くも難を逃れ故郷に帰り着きます。
命を狙われたことについて彼自身に責任は全くないのですが、他の人々を犠牲にして自分だけが生き残ってしまったという負い目は彼を苦しめます。
そして「やり直すことができるなら今度は人のためになる、人を渡す橋を架けたい」と決心し庶民の生活のために困難な架橋に挑むことを決意します。
物語はこの三五郎を中心に、三五郎の命を狙った侍(徳之島の仁)、三五郎のせいで父親を失った里(さと)と吉(きち)の姉弟をあわせた4人を中心に進んでいきます。

庶民が橋を架けるだけ

とはいえ結局は橋をひとつ架けるだけの話。
例えば青春アドベンチャー時代に制作された「天下城」(2017年)や「獅子の城塞」(2014年)は同じ石工でも城の石垣を築く石工の話で、ストーリーは戦争と密接に絡まるのですが、本作品は橋の工事に終始し、作品タイトルと同様にとても地味です。
ただ、毎回丁度続きが気になるところで終わるで脚本と、小林清志さんのナレーションからエンディングテーマ曲にシームレスにつながっていく演出(「A-10奪還チーム出動せよ」などもそうでした)が心地よく一気に聞きたくなる作品になっています。
この選曲はやはり伊藤守恵さんなのだと思うのですが、「おろしや國酔夢譚」とは違い時代劇感は全くないけど、とてもわくわくする選曲です。

渋いぞ、おじさん陣

主役の岩永三五郎を演じるのは俳優の園田裕久さん。
本作品放送時50歳の、特にきらびやかな経歴があるわけではない渋い俳優さんを主役に据えているあたりが逆に格好良い。
また、薩摩弁?が印象的な徳之島の仁を演じている谷村好一さんはなんと鹿児島県奄美大島のご出身。
徳之島方言は奄美語(奄美方言)の一部らしいのでほぼネイティブスピーカーと言っても過言ではないでしょう。どおりで流ちょうだと思った。
とにかく方言がこの作品の雰囲気に与える影響はとても大きいので谷村さんの貢献は大ですね。

可憐だ…

そして、孤児の姉弟を演じるのは玉川紗己子さんと松岡章夫さんのおふたり。
松岡さんの来歴はわからないのですが、玉川紗己子(現芸名:玉川砂記子)さんは子役時代から多くのラジオドラマ、テレビドラマに出演され、後には声優としても有名になった方です。
「機動戦士ガンダム」でシャア・アズナブルを演じた池田秀一さんの奥様でもあるのですが、この里、なんか可憐なんですよね…
ちなみに旦那さんの方もアドベンチャーロードでは「最後の惑星」や「ウィンブルドン」に出演されています。

お願い

さて、以上ご紹介してきた「肥後の石工」なのですが、三五郎が生き方を決心する一方、里や吉が出奔してしまう肝心の第3回・第4回の音源がありません。大事な回なのですが…
もしお手元にありお聞かせいただける方がいらっしゃいましたら是非ご連絡ください。
よろしくお願いいたします。


【笹原紀昭演出の他の作品】
アドベンチャーロード期を中心に多くの傑作アクション作品を演出された笹原紀昭さん。
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