- 作品 : A-10奪還チーム出動せよ
- 番組 : アドベンチャーロード
- 格付 : AAA
- 分類 : アクション(海外)
- 初出 : 1987年10月19日~10月30日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : スティーブン・L・トンプスン
- 脚色 : 佐々木守
- 演出 : 笹原紀昭
- 主演 : 樋浦勉
発 在ポツダム米国軍事連絡部
宛 各米国空軍基地
各基地人事担当者に伝えられたし。
至急、自動車の運転に練達した職業軍人を求む。
条件は、ロシア語とドイツ語に堪能なこと。
任地は、ドイツ民主共和国内ポツダム軍事連絡部。
任務は、東ドイツ政府の不法な干渉によって東ドイツ国内に撃墜又は強制着陸をさせられた当軍の航空機及びパイロットを、東ドイツ政府の手に落ちる前に回収すること。
なお、回収に当たっては東ドイツ人民警察及び東ドイツ駐留ソビエト連邦軍による武力妨害が予想される。
本任務の遂行には大きな危険を伴うことを承知せられたい。
一級の冒険小説
スティーブン・L・トンプスン原作の傑作冒険小説を原作とするラジオドラマです。
この作品を聞き大興奮して、「奪還チームシリーズ」の続編小説(「サムソン奪還指令」・「鉄血作戦を阻止せよ」)や同じ原作者の「ワイルド・ブルー」(確か全3巻)を買ったのは懐かしい思い出です。
このスティーブン・L・トンプスンという作家、一般的にはあまり有名ではありません。
実際、上記の5冊を呼んでも、この「A-10奪還チーム出動せよ」を超える作品はなかったように記憶しますし、2009年にハヤカワ文庫で再刊されたのもこの第1作だけでした。
しかし、少なくともこの「A-10奪還チーム出動せよ」は間違いなく傑作。
しかも、特に日本の読者に愛されたシリーズらしく、第3作目「鉄血作戦を阻止せよ」は日本の読者のために書き下ろされた作品なのだそうです。
ラジオドラマとしての出来
そして、本作品、ラジオドラマとしても完成度が高い!
簡単にいってしまえばカーアクションものなのですが、前半は主人公のマックス・モス一等軍曹の過去の東ドイツとの因縁を絡めて静かに事件が進行します。
そして、その前半に溜まりに溜まったエネルギーが後半に爆発して、息をつかせぬ追跡劇が繰り広げられるのです。
ピンチに次ぐピンチ
シュタヘル、ミューラー、コシュカと次々に現れる難敵に、機転と自動車の運転技術だけで立ち向かうマックス。
果たして彼は墜落した実験機A-10F(※)の軍事機密を無事に持ち帰ることが出来るのか。
そして、父親エリック・モスとの確執や、幼なじみの少女ヨハンナとの関係はどうなるのか。
(※) 本作品のA-10は通常の地上攻撃機ではなく、「ジーザス・ボックス」なる最先端の装備を実験するための特殊な機体
ヒキが秀逸
そういったストーリー上の楽しさのみならず、本作品が素晴らしいのは毎回の終わりが良いこと。
「成層圏ファイター」の記事でも書きましたが、次回を聴きたくなるような終わり方は大切です。
その点で本作品は、ドラムのリズムが小気味いいエンディングテーマが流れるだけで、もう盛り上がらざるを得ない。
特に作品全体の折り返しとなる第5回の終わり方は秀逸。
荷物ばかりが増えて敵中に孤立無援となってしまったマックスが、ある場所を尋ねる場面。
- 「お母様。」と話しかける初登場のヒロイン
- BGMに乗せて来宮良子さんのナレーション
- それが終わるや否やエンディングテーマ
- そのまま「今週の出演」(いつもの「ただ今の出演」ではない)
という流れはまさに完璧。
アドベンチャーロードは青春アドベンチャーと同じで月曜日から金曜日までの放送でしたが、ここまでされたら3日後の月曜日が待ち遠しいに決まっているじゃないですか、まったくもう!(意味不明)。
父と子
…少し落ち着きましょう。
この作品は単純なアクション作品ですが、同時に主人公マックス・モスの成長の物語でもあります。
頑固な父との確執は本作品では和解には至りませんが、それでも最後にはほんの少しだけマックスが成長した様子が窺えます。
「怪人二十面相・伝」の記事でも書いたのですが、自分が大人になって再聴すると印象が違って聞こえるシーンというものは確かにあるもので、私にとっては本作品の最後の父・エリック・モスの言葉がそれに当たります。
昔聴いたときは、頑固な親父という印象がとても強かったのですが、今では彼の言説にも一定の説得力を感じます。
ただ、確かにこんなに自分の意見を押しつけてくる親父が煩わしいのは間違いありませんが。
実を言いますと…
さて、本作品の出演者に話しを移しますと、まず主人公のマックス役を演じているのは、俳優の樋浦勉(ひうら・べん)さん。
洋画の吹き替えも多く担当されている方で、青春アドベンチャー系列の番組では「魔弾の射手」や「砂漠の歌姫」などにも出演されていました。
実は私は本作品放送当時、「樋浦勉」さんと「磯部勉」(いそべ・つとむ)さんを混同していたのですが、それは内緒です。
東欧女性の品の良さ
その他、ヒロインのヨハンナ・コッホ役の岩崎良美さん(後年の「哲ねこ七つの冒険」では母親役)、その母親のギゼラ・コッホ役の増山江威子さん(ルパン三世の峰不二子役)といった女性陣もイイ!
「プラハの春」や「また、桜の国で」でも感じましたが東欧の女性って何でこんなに魅力的なのでしょう。
悪役も素敵
そしてそして、悪役も素敵!
人民警察軍事諜報部長カール・シュタッヘル役の大塚周夫さん(脱獄山脈、封神演義、家族ホテル)と、東ドイツ駐留ソ連軍コシュカ大佐役の飯塚昭三(スターライト・だんでい)さんという二大悪役が夢の共演。
ちなみにこのふたり、言ってみればシュタッヘルの上役がコシュカという関係にあるのですが、大塚さんが飯塚さんの前ではちゃんと小物に聞こえる演技をしているのが印象的です。
またコシュカのさらに上役のチャイトフ将軍を演じるのが八木光生さんなのですが、チャイトフの前では今度は飯塚さんが小物に聞こえる演技をしている。
さらに八木さんはシュタッヘルの部下の役も兼ねており、そのときはちゃんと部下らしい言葉遣い。
この辺のベテラン悪役陣の演技はさすがです。
脇役もかっこいいぞ
他にもシュタッヘルの部下のミュラー役の丸岡奨詞さん(最近でも「ヤッさん」や「髑髏城の花嫁」、「バスパニック」に出演)も渋いし、ウィルスン役の銀河万丈さん(ごくらくちんみ)は相変わらずいい声だし、前半しか出ないちょい役(コリアチン)ながらキャプテンハーロック役で有名な井上真樹夫さん(カラフルなど)もでている!
ちなみにこの記事は2015年1月15日に亡くなられた大塚周夫さんの追悼の意味を込めた記事でもあります。
大塚周夫さんと大塚明夫さん(王の眠る丘、星を掘れ!)との親子共演は結局、青春アドベンチャーでは実現されなかったようですが、本作品で大塚周夫さんは井上真樹夫さんと新旧・石川五右衞門(ルパン三世)共演を実現しています。
何より忘れてならないのは!
そして本作の声の出演と言えばナレーションの来宮良子さんも外せない!
来宮さんが独特の低音でナレーションをするだけで、気分は大映ドラマ!
「スケバン刑事」!「ヤヌスの鏡」!「このこ誰の子?」!「プロゴルファー祈子」!
はあはあ…
もう一度落ち着かないと…
色々懐かしい
来宮さん以外にも川久保潔さん、関根信昭さんなど東京放送劇団出身の方々がずらり。
もう懐かしさに涙がちょちょぎれそうな(この表現も古いですなあ)メンバーです。
ただ、かなりの方々が鬼籍に入られていることが寂しい限りです。
また、懐かしいと言えば昔のNHKらしく、製品名「フォード・フェアモント」は普通名詞の「最新式のフォードアセダン」(微妙に似ているのがおかしい)に変換されているのも懐かしいところです。
黄金コンビ
スタッフは、アドベンチャーロード期からサウンド夢工房期に掛けて、「ウィンブルドン」、「空色勾玉」、「黄昏のベルリン」など多くの傑作を担当した、脚色:佐々木守さん、演出:笹原紀昭さんのコンビ。
この作品が上出来なのも納得です。
なお、「脚本データベース」によれば、この作品の一部の回の脚本が、国立国会図書館と川崎市市民ミュージアムにあるようです。
機会があったら見てみたいところです。
(外部リンク:脚本データベース)http://db.nkac.or.jp/top.htm
【笹原紀昭演出の他の作品】
アドベンチャーロード期を中心に多くの傑作アクション作品を演出された笹原紀昭さん。
演出作品はこちらに一覧を作っています。
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