- 作品 : 魔術師
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : A-
- 分類 : 推理
- 初出 : 2012年2月6日~2月17日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : 江戸川乱歩
- 脚色 : 芳﨑洋子
- 演出 : 江澤俊彦
- 主演 : 篠井英介
休暇中の名探偵・明智小五郎は、信州で資産家の令嬢・妙子と出逢い好意を持つ。
所詮、身分違いの恋と諦めていた明智であったが、警視庁の浪越警部から至急帰京を促す連絡が入り、その中で妙子の名前が出てきたことに驚く。
浪越警部によれば東京の大資産家福田氏のもとに、差出人不明の犯行予告ともとれる不気味なメッセージが届けられていること。
そして、明智へ対処を依頼することを提案したのが福田氏の姪である妙子であるという。
明智は勇んで東京へ向かう。
しかしこれが「魔術師」と呼ばれる男による、陰惨な復讐劇のはじまりであった。
江戸川乱歩の代表作であり、戦前期の日本推理小説界の代表作でもある、明智小五郎シリーズの一作を原作としています。
少年探偵団の明智とは違う
明智小五郎といえば現在では乱歩が子供向けに書いた少年探偵団シリーズでの活躍の方が有名だと思います。
NHK-FMでもアドベンチャーロード時代に多数の少年探偵団シリーズがラジオドラマ化されています。
少年探偵団シリーズでの明智は何でもできるスマートなスーパーマンとして描かれていますが、大人向けの作品に出てくる明智は、悩み、迷い、失敗する、普通の人間として描かれています。
「陰惨な事件」のひとつ
少年探偵団シリーズの設定を借りた北村想さんの「怪人二十面相・伝」(こちらも青春アドベンチャー化されています)では、自分の余命が短いこと悟った明智が二十面相との思い出を次のように振り返っています。
君の師匠(=怪人二十面相)と同じ舞台に乗って活劇というやつを堪能できた。
私は陰惨な事件を多く扱ったからね。
二十面相のあの事件は私の探偵歴に残る一服の清涼剤だ。
本作はここでいう「陰惨な事件」の側の作品の一つです。
私は乱歩の作品では「孤島の鬼」(明智小五郎シリーズではありません)が好きなのですが、大人向きの乱歩を読んだことがある方はご存知かと思いますが、乱歩の大人向きの作品は「金田一耕助シリーズ」のルーツになるような横溝正史的な陰惨・怪奇な作品も多いのです。
人間的にもちょっと…
また、本作では明智自身も命の危険に見舞われるのですが、その窮地を他人の力を借りてやっと切り抜けたり、途中で数々の殺人を防げなかった割には、事件解決の際には自分の勝利を誇ったりして、明智の人間像も高潔な人格者や万能の超人とはいえないものです。
少年探偵団シリーズしか知らない方にはかなり異質な印象を持たれるかも知れませんが、これも乱歩の、そして明智の一側面だと思います。
引きがうまい
本作のラジオドラマとしての印象としては、ややナレーションが目立つ気がしましたが、推理系という性格上、仕方がない部分もあると思います。
逆に引き込まれるなあ、と思ったのが各回の終わり方。
次への期待が高まるところで終わり、良いタイミングで音楽が入ります。
ついつい次回を聞いてしまいます。
篠井英介vs広川太一郎
主役の明智小五郎役は2009年の「黒蜥蜴」、2010年の「黄金仮面」に引き続いて篠井英介さん。
NHKラジオの明智役といえば上記のFMの「少年探偵団シリーズ」のみならず、更に昔のAMのラジオドラマの時代から広川太一郎さんが有名でした。
私も随分昔に聞いたAMの「化人幻戯」が広川さんだったかすかな覚えがあります(具体的なことは忘れてしまいました)。
広川さんの明智はとにかくスマート。
格好いい明智です。
人間臭い明智
それに対して篠井さんは特技が日本舞踊の中性的なイメージの方ですので、広川さんの明智とはかなり雰囲気が違います。
恋をして悩み、迷い、怒り、間違え、そして最後には勝ち誇るウジウジした人間くさい明智です。
特に本作は後に明智夫人となる**さん(ネタばれ防止のため伏字にしました。知っている人には常識でしょうが)の初登場作品。
それは人間的な明智になりますって。
橋爪功さんのインパクト
一方、犯人の魔術師こと奥村源造役は橋爪功さん。
奥村源造役といえば、1978年のテレビ朝日版魔術師(浴室の美女)では、水戸黄門役で有名な西村晃さんが怪演された役です。
本作の橋爪さんも執念深く残虐な演技も良いのですが、明智たちに追い詰められていく際の人間くさい演技もさすがです。
橋爪さんといえばテレビ朝日の「京都迷宮案内」の主演で有名ですが、個人的にはNHK大河ドラマ「武田信玄」での真田幸隆役が印象的です。
幸隆といえば、戦国時代一の謀将真田昌幸の父にして、武田家中では外様ながら調略の手腕を買われて厚く遇された武将です。
NHKの新大型時代劇「真田太平記」で真田昌幸を演じた丹波哲郎もそうですが、やはり「真田」はこの位のくせ者の役者さんでないと務まりませんね。
【篠井版・明智小五郎シリーズ】
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