失われた地平線 原作:ジェームズ・ヒルトン(青春アドベンチャー)

格付:A
  • 作品 : 失われた地平線
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A-
  • 分類 : 冒険(秘境漂流)
  • 初出 : 2009年7月13日~7月24日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : ジェームズ・ヒルトン
  • 脚色 : 谷登志雄
  • 演出 : 保科義久
  • 主演 : 森田順平

1932年、私、ラザフォードは、上海事変で混乱する上海から客船で脱出を果たした。
そして船内でオックスフォード大学時代の大先輩ヒュー・コンウェイと出会った。
しかしインドで外交官をしていたはずのコンウェイは記憶を失い、なぜ自分が船に乗っているのかもわからない腑抜けた状態であった。
私はコンウェイ先輩の身を心配し世話を続けた。
すると、コンウェイ先輩は徐々に記憶を取り戻すとともに、驚くべき大冒険の思い出を話し出した。
飛行機の事故でチベット奥地に不時着した先輩はシャングリラという不思議な土地にたどり着いたというのだ…



1933年にイギリスで出版されたジェームズ・ヒルトンの代表作を原作としたラジオドラマです。

青春アドベンチャー名物、古典作品

青春アドベンチャーは現代の流行作家の作品を原作とすることが多く、ライトノベルや漫画といった「柔らかい」分野からも素材を集めていますが、一方で世界の古典から題材を持ってくることもあります。
これは前身番組であるサウンド夢工房、アドベンチャーロードの時代にはあまりなかった青春アドベンチャー独自の傾向です。

そうそうたる古典作品群

番組の性格上、ある程度「アドベンチャー」ぽい作品に限られるのですが、ジュール・ベルヌ(アドリア海の復讐)、アレクサンドル・デュマ(三銃士モンテ・クリスト伯)、ブラム・ストーカー(吸血鬼ドラキュラ)、アーサー・コナン・ドイル(ロスト・ワールド)、スタンダール(赤と黒)など錚々たる古典が青春アドベンチャー化されています。
理想郷の代名詞として「シャングリラ」という言葉を聞いたことがある方は多いかと思いますが、その元ネタはこの小説なのだそうで、本作の原作も歴とした古典小説です。

シャングリラへの旅

冒頭の紹介文のとおり、本作はサンフランシスコへと向かう船上から始まり、時々そこに戻りながら、コンウェイのシャングリラへの旅とそこでの滞在、そしてシャングリラを出てから船にたどり着くまでの冒険譚が語られます。
そして船上で経緯を話し終えたコンウェイのその後の行動で物語は終わります。
コンウェイがシャングリラにたどり着くまでの行動は主体的な選択の結果というよりも、状況に流された側面が強く、冒険物語としての緊張感やコンウェイの人間的な魅力をあまり感じることができず、序盤の展開は少々退屈に感じました。

作品のメッセージ

しかし、シャングリラに滞在し、シャングリラの正体とその存在理由が明らかになるあたりから、タイトルにもなっている本作品のメッセージ「人類はめざすべき地平線を見失っている」が明確になってきます。
そして、大僧正の思いとコンウェイの迷いという中心軸に加えて、各登場人物たちがそれぞれ異なる考え方を鮮明にしはじめ、一気に面白くなりました。
さらに終盤のシャングリラから出て以降は正統的な冒険物語になり、これも楽しめる内容でした。
結末はある程度予想された内容ではありましたが、さすがに古典らしく上手くまとまったエンディングです。

主演は森田順平さん

主人公のコンウェイ役は森田順平さん、後半ぐっと存在感が増す副領事のマリンソン役は寿大聡(じゅだいさとし)さん。
寿大さんは「蜩ノ記」でもちょっと似た役(血気にはやる若者)を演じています。
また、「ブルボンの封印」、「ダブル・キャスト」などで青春アドベンチャーでは常連の、広瀬彩さんがヒロイン役を務めています。

久米明さんが健在

あとやはり特筆すべきなのは大僧正役の久米明さん。
久米さんといえば個人的には何といっても往年の名番組「野生の王国」のナレーターが思い浮かびます。
そういえば「野生の王国」の久米さんのナレーションは、北海道テレビの名物番組「水曜どうでしょう」内で大泉洋さんがよくマネをしていました。なかなかうまかった。
ラジオドラマではアドベンチャーロード時代の名作「妖精作戦」のジルベスター博士役が印象的です。
この「博士」役から20年以上。
今でもまだ現役なのは喜ばしい限りです。

谷登志雄さん…脚色?

本作品、翻訳と脚色はともに谷登志雄さんになっています。
原作小説を確認すると、新潮文庫版(翻訳:増野正衛)も河井文庫版(翻訳:池央耿)も訳者は谷さんではありません。
ひょっとして本青春アドベンチャー用に訳も起こしたのでしょうか?

【保科義久さん演出の他の作品】
紹介作品数が多いため、専用の記事を設けています。
名作、迷作、様々取りそろっています。
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