声命線 作:桑原亮子(FMシアター)

格付:A
  • 作品 : 声命線
  • 番組 : FMシアター
  • 格付 : A
  • 分類 : サスペンス
  • 初出 : 2017年12月2日
  • 回数 : 全1回(50分)
  • 作  : 桑原亮子
  • 音楽 : 菅谷昌弘
  • 演出 : 佐々木正之
  • 主演 : 梅舟惟永

もう何日も眠れていない。
送ってもらった催眠導入剤も効き目がないようだ。
夫は夜勤に出かけ、家には自分一人きり。
今夜も、ただ漫然と趣味のアマチュア無線に耳を傾けていたのだが…
突然入ってきた緊急連絡。
相手の男性は山形県の月山に登山中に滑落し、身動きがとれないという。
しかし、この男性どこか不審。
警察に連絡を取ろうとしたら、あまり歓迎しないそぶりなのだ。


本作品「声命線」(せいめいせん)は桑原亮子さんによるオリジナル脚本のラジオドラマです。
桑原さんの作品としては同じFMシアターで2015年に放送された「沈黙とオルゴール」と、本作品と同じ2017年に放送された「冬の曳航」を紹介済みです。

共通する要素は”音”

このうち「沈黙とオルゴール」は後天性の難聴を取り上げた作品、本作品「声命線」は音だけでコミュニケーションしていくアマチュア無線を使った作品ということで、音だけで表現しなければいけないラジオドラマの特性をよく考えていらっしゃる方だなあ、とは思っていたのですが、ちょっと調べてみると桑原さんご自身が重度の感音性難聴をお持ちとのこと(詳細はこちら(外部サイト))。
「沈黙とオルゴール」はご自身の体験を踏まえた作品でもあったんですね。知らなかった…

小道具はアマチュア無線

さて、上で述べたように本作品はアマチュア無線を小道具に使った作品です。
アマチュア無線を通じて1対1で話し合っている内に、お互いの抱えている悩みや問題が浮かび上がってくるという構成で、先日ご紹介した「声の訪問者」と似た要素もある作品です。
ただ、「声の訪問者」が見知らぬ男女が出会う場面をつくるために「声の人材派遣会社」という特殊な設定を使う必要があったのに対して、本作品はアマチュア無線を使うことにより自然にお互いの状況をしらない者どうしがやりとりする場面を設定することができています。

アマチュア無線って?

ただ、それにしても「アマチュア無線」とは!
今の若い人ってアマチュア無線(いわゆるハム=HAM)という趣味自体を知らないのではないでしょうか。
わたしも「アマチュア無線って、最後に必ず『オーバー』って言うんだよね?」と思っていた程度のど素人なので、アマチュア無線に関する何かを語るのはおこがましいのですが、きっとアマチュア無線の醍醐味って見知らぬ人とつながる面白さだったのだと思います。
しかし、その意味でアマチュア無線は今やインターネット、そしてインターネット上のSNSにすっかり役割を肩代わりされてしまった感があります。
実際、調べてみると最盛期の1995年に日本に約135万局あったアマチュア無線局は、2017年現在で約43万局に激減してしまっているのだそうです。
1995年といえば連想されるのがウィンドウズ95。
携帯電話の普及が急速に進んだのも1990年代でした(iモードスタートは1999年)。
その結果、最近では周りでアマチュア無線をやっている人をすっかり聞かなくなってしまいました。

ラジオドラマとの共通点

すっかり時代に取り残されてしまった感があるアマチュア無線ですが、衰退ジャンルの趣味という意味では「ラジオドラマの視聴」といい勝負であり、こんなブログを書いている私も、これを読んでいるあなたも、ご同類かもしれません。
まあ一周回って新しいと言うこともあろうかと思います。
なんでも「アーカイブ化」されてしまう今のご時世、一度だけ電波に乗せてどこかに消えてしまうものなんて逆に貴重なのかもしれません。

無線越しのやり取り

さてさて、かなりそれてしまったので話をストーリーに戻します。
以上のようなシチュエーションで徐々にふたりの抱える事情がわかっていく様をとらえて、このブログでは「サスペンス」に分類させて頂きました。
ただ、わかっていく事情、特に女性側の事情があまりにコテコテというか、子を持つ親としては敏感に反応せざるを得ない内容で、どうにも後味が悪い。
もちろん安易にネタに使っているとは言わないのですが、どうにも素直に心にしみいるというわけにはいかず、微妙な格付けとさせて頂きました。
ただ、ふたりの事情が「母子」という一点で収斂していく様はなかなか見事な脚本だったと思います。

梅舟惟永さんと甲本雅裕さん

主役の藤平舞を演じているのは舞台女優の梅舟惟永(うめふね・ありえい)さん。
青春アドベンチャー「金魚姫」での、ねっとりとした演技が忘れられません。
また、もう一人の主役と言って良い遭難者・園部隼人を演じた甲本雅裕さんは、上で本作品と比較をした「声の訪問者」で主役を演じた方でもあります。
他にも8人の出演者がいる本作品ではありますが、冒頭と終盤を除いてストーリー進行のほとんどは梅舟さんと甲本さんのふたりだけで進みます。

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