- 作品 : 鬼の橋
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : A
- 分類 : 伝奇(日本)
- 初出 : 1999年8月30日~9月10日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : 伊藤遊
- 脚色 : 山本雄史
- 音楽 : 菅野由弘
- 演出 : 江澤俊彦
- 主演 : 多賀基史
平安時代前期。
貴族である小野岑守(おの・の・みねもり)の息子である少年・小野篁(おの・の・たかむら)は一緒に遊んでいた異母妹を不慮の事故で亡くしてしまう。
深く悲しんだ篁であったが、妹が死んだ井戸の底へ赴いたところ、そこが異世界への入り口であることに気がつく。
篁が辿り着いた異世界は鬼が徘徊する死者の国であり、先年死んだはずの征夷大将軍・坂上田村麻呂が人々の霊を鬼から守っていた。
田村麻呂の助言により妹を捜すことを諦めて地上に戻った篁だが、それ以降、鬼を巡る事件に巻き込まれていくことになる。
伊藤遊さんの児童文学を原作とするラジオドラマです。
原作は「福音館創作童話シリーズ」から出版されていますが、344ページの大作であり「童話」と言うより「児童文学」といった方がイメージにあっている作品です。
小野篁とは?
主人公は小野篁。
平安時代を代表する詩人にして、歴史に名を残す有能な文官でもありますが、それだけではなく、夜ごと井戸から冥府に降って閻魔大王の右腕を務めたという奇怪な伝説の持ち主でもあります。
この伝説を下敷きとして、少年・篁の成長物語として再構築したのが本作品です。
「歴史上有名なあの人の若き日の冒険」という形式は「魔岩伝説」と同じです。
しかし、「魔岩伝説」が青年時代の「遠山の金さん」が主人公であり、色々な意味で大人向けの作品であるのに対して、本作品は主人公が少年であることもあり、児童文学らしい健全な成長物語になっています。
採用する作品の時代が偏っている
さて、話は少し逸れます。
一般論ですが、日本の歴史を題材にしたフィクションといえば、大部分が戦国時代以降、特に、戦国時代、江戸時代の一部、幕末に偏っているのが、現状かと思います。
このような状況の中で、青春アドベンチャーでは、それ以外の時代を舞台とした作品も意外と取り上げており、これは青春アドベンチャーの特徴の一つだと思います。
古代、中世、江戸時代は多い
例えば、古代(又は古代類似の異世界)を舞台としたとしては「空色勾玉」、「645~大化の改新・青春記~」、「ドラマ古事記」、「いまはむかし~竹取異聞」など。
中世を舞台とした作品としては、本作品のほか「風神秘抄」、「夢源氏剣祭文」、「白狐魔記 源平の風」など(2018年には「夜露姫」も制作されました)。
また、一般的な傾向と同様に、江戸時代を舞台とした作品も結構多く、「蜩ノ記」、「魔岩伝説」、「碧眼の反逆児・天草四郎」、「尾張春風伝」、「風になった男」、「しゃばけ」、「おろしや国酔夢譚」、「肥後の石工」、「獅子の城塞」、「鷲の歌」などが思いつきます。
戦国時代や幕末は少なめ
しかし、典型的な幕末ものや戦国時代ものは、タイムトラベルに関連したSFっぽいものが何作か思いつくほかには、「武揚伝」と「霧隠れ雲隠れ」くらいしか見当たらず、もう少しあっても良い気がします。
特に幕末ものも十分、若年層向けのエンターテイメント作品になりうると証明した「るろうに剣心」以降、漫画の世界ではそれなりの幕末ものが発表されています。
正直、「るろうに剣心」フォロワーの作品でまともな出来のものはほとんど無いので、漫画原作はあまりお薦めできないのですが、いっそのこと、大家の小説家の作品を取り上げるのも面白いかも知れません。
司馬遼太郎さんとかどうでしょう
例えば、今更ではあるのですが、「峠」とか「花神」(ともに司馬遼太郎さん)はどうでしょう?
変な話ですが、今、司馬遼太郎さんって微妙に忘れられ始めている気がします。
この時期に取り上げると、意外と新鮮だと思います。
2013年になぜか突然、山田正紀さん(ツングース特命隊)を取り上げたのと同じノリでお願いしたいところです。
少年陰陽師
例によって盛大に脱線してしまいました。
話を本作品に戻します。
作品中で、冥府から戻ってきた篁は、五条橋の近くで阿子那(あこな)という少女と、非天丸(ひてんまる)という大男に出会い、鬼に関する事件に巻き込まれていきます。
篁はもともと貴族階級の人間でホームレスに多少の偏見があることに加え、妹の非業の死のせいで鬼に強い恨みを持っています。
そのため、平静な心ではいられず、二人にも苛立ちながら対応するのですが、やがて自分の中にある弱さや闇に気がつきます。
そして、終盤に起きる事件を通じて、自分の課題に向き合っていきます。
邪悪な鬼、死んだ妹、死後も戦い続ける運命にある将軍、孤児で浮浪児の娘、人間になりたい鬼…と、何だか悲劇的な終わりが予想される要素が満載の作品なのですが、意外と後味の良いエンディングでした。
独特な音楽、独特の雰囲気
本作品は青春アドベンチャーでは少数派に属するオリジナル音楽の作品です。
音楽のご担当は現代音楽作曲家の菅野由弘(よしひろ)さん。
本作品と同様に平安時代を舞台としたNHK大河ドラマ「炎立つ」(1993年)でも音楽を担当されていました。
音楽は全般的に雅楽風で統一され、一種独特の雰囲気を醸し出しています。
しかし、個人的な感想なのですが、効果音やナレーションも含めて、なぜだか昔のラジオドラマという印象を受けてしまいました。
ナレーションの広川さんの声がそのようなイメージを喚起するのかも知れませんが、何となく不思議な感じです。
多賀基史さん
出演者は主役の篁役が多賀基史さん。
俳優の方のようですが来歴がいまひとつわかりませんでした。
青春アドベンチャーでは名作(迷作?)「渚にて」でも主演されていますが、その他には、検索しても「タスマニア物語」くらいしか出てきません。
1977年生まれのようなので放送時点で22歳だったようです。
懐かしいナレーションの声
また、本作のナレーションは懐かしの広川太一郎さん。
NHKのラジオドラマでは何と言っても江戸川乱歩の「明智小五郎」役。
その他、ロジャー・ムーア(ムーン・レイカー)やマイケル・ホイ(Mr.Boo)の吹き替え、フジテレビの競馬中継の司会、宇宙戦艦ヤマトの古代守、名探偵ホームズ(宮崎駿版)のホームズなど、懐かしい番組が次々に思い浮かびます。
あの頃は、お茶の間で広川さんの声を知らない人はいないくらいの方でした。
2008年に亡くなられているのは本当に残念です。
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