アゴラ69 ~僕らの詩(うた)~ 作:吉村ゆう(青春アドベンチャー)

格付:A
  • 作品 : アゴラ69 ~僕らの詩(うた)~
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A-
  • 分類 : タイムトラベル
  • 初出 : 2021年4月5日~4月16日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 作  : 吉村ゆう
  • 音楽 : 大崎剛
  • 演出 : 前田悠希
  • 主演 : 醍醐虎汰朗

そこそこの大学を卒業し、大手不動産会社に勤務。
歌手になる夢を諦めてサラリーマンになった中島悠大(ゆうだい)だったが、最近仕事に身が入らない。
しかも歌を止めた後も心のよりどころだった新宿のライブハウス「パワー」が閉店すると聞いて一層意気消沈。
「パワー」で管をまいて古いコンパクトステレオから流れてくる音楽を聴きながら眠りこけてしまった彼だが、しかし目を覚ますとなぜかそこは街角のゴミ捨て場だった。
周りを見わたして目に入る風景も、新宿には違いないが、街並みは全く別物。
風にあおられた新聞紙に描かれていたトップ記事は「東大安田講堂の陥落」。




本作品「アゴラ69 ~僕らの詩(うた)~」は、劇団東京ハイビームを主宰し、日本放送作家協会理事を勤めるシナリオライターの吉村ゆうさんによるオリジナル脚本のラジオドラマです。

もう少し工夫が欲しい

内容はタイムトラベルもの、というよりタイムスリップもの。
実は本作品が放送された2021年は年初からタイムトラベル要素が入った作品が連発された年です。
現代パートの比重の大きさから本ブログでは他のジャンルに分類した作品も含めると、「輪廻転Payうた絵巻」(1月)、「負け犬たちのミッドナイト・バス」(2月)、「谷川俊太郎の詩と旅する ことのはワンダーランド」(3月)、そして本作品と毎月、タイムトラベル要素がある作品が放送されました。
この時期は劇作家によるオリジナル脚本作品が続いた時期でもあるのですが、エンターテインメント作品をつくろうとしたらみんなタイムトラベルになってしまった、って少し安易に過ぎませんかね、劇作家のみなさま…

フォークゲリラの時代

ただし本作品、タイムスリップ先が1969年というのがやや特殊。
脚本を書かれた吉村ゆうさんは2001年に終戦直後のラジオ界を描いた「ニッポン・ラジオ・デイズ」で放送文化基金賞・企画賞を受賞しているので、舞台が近現代の日本ということは違和感がないのですが、近現代のタイムスリップ先としては戦時中や終戦直後(晴れたらいいね僕たちの戦争ニコイナ食堂など)が定番であるなか、本作品は学生運動の時代が舞台なのです。
作中で主人公がタイムスリップ先で若き日の祖父に出会う描写があるように、学生運動が盛んだったのはもう50年も前です。
具体的に、いわゆる70年安保闘争が盛り上がった東大安田講堂事件があったのが1969年。
1972年のあさま山荘事件で連合赤軍が世論の支持を決定的に失い学生運動や安保闘争自体が下火になるわけですが、1969年5月に新宿西口駅前広場を中心に繰り広げられたフォークゲリラ活動とそれに対する当局の弾圧行動をどう「総括」すべきかはまだあまり議論されていないところだと思います。
そのため、太平洋戦争などと違って歴史的な評価が一定程度固まっているような印象はまだなく、やはり舞台としては微妙だと感じます。

若者個人の物語

ただ、本作品は政治的、社会的な問題がメインテーマではありません。
フォークゲリラをあくまでノスタルジックに捉え、若者個人の人生の問題として帰着させている点で本作品は1960年代的というよりセカイ系以降の2000年代的な作品です。
この辺、良い悪いは別問題とするとしても、結末のつけ方にも大きな影響を与えているところであり、喰い足りなさを感じる向きもあるのではないかと思います。
個人的にはこれでよいと思うのですが、一点、すべての音楽がFM又はデジタルのクリアーな音で展開されることには、1960年代の物語として何となく違和感を感じずにはおれませんでした。
まあ私自身この時代を知らない世代ではあるのですけどね。

60年代のヒット曲

さて、そんな本作品を象徴する曲は岡林信康さんの「友よ」や由紀さおりさんの「夜明けのスキャット」。
他にも多くの60年代のヒット曲で彩られていますので、各回のエンディングで流された曲だけですが一覧にしてみました。
当時を知る方にとっては懐かしいラインナップなのでしょうね。

  1. 「夜が明けたら」浅川マキ
  2. 「昭和ブルース」天地茂
  3. (恐らくオリジナル)
  4. 「禁じられた恋」森山良子
  5. 「雨に濡れた慕情」ちあきなおみ
  6. 「涙の季節」ピンキーとキラーズ
  7. 「青い鳥」ザ・タイガース
  8. 「悲しくてやりきれない」ザ・フォーク・クルセダーズ
  9. 「わすれたいのに」モコ・ビーバー・オリーブ
  10. (恐らくオリジナル)

ちなみに浅川マキさんは「歌詞」を「歌詩」と書くのだそうです。
本作品のタイトルはこれを意識したものなのでしょうか。

小柳ルミ子さん出演

さて、本作品で主役の中島悠大を演じたのは俳優の醍醐虎汰朗さんで、ヒロインのマキを演じたのは女優の高月彩良さん(2018年FMシアター「いざ行かむ 短歌甲子園へ」主演)。
作品の性格上、意外と歌のシーンが多い本作品ですので、おふたりとも歌うシーンが頻繁にあります。
その他、「パワー」オーナー加藤の若き日を演じた長村航希さん(劇団四季の「ライオンキング」のヤングシンバ歴あり)やその恋人・真理子を演じた北香那さんが主要な配役なのですが、実はちょっとした役で70年代にはアイドルで女優でもあった小柳ルミ子さんが出演されています。
そういえば小柳さん、1969年には何をしていたのだろうと思って調べたところ、宝塚音楽学校在学中で、翌1970年に首席で卒業するも初舞台後に退団し歌手デビューしたのだそうです。




コメント

タイトルとURLをコピーしました