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トリガー 原作:霞田志郎(青春アドベンチャー)

  • 作品 : トリガー
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : AA-
  • 分類 : SF(その他)
  • 初出 : 1999年9月13日~9月24日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 霞田志郎
  • 脚色 : 長川千佳子
  • 音楽 : 真友
  • 演出 : 保科義久
  • 主演 : 堀江由衣

人類が宇宙に進出してから50年経った2088年。
「雪女のキス」と呼ばれる謎の疫病により地球上の人類は絶滅し、火星基地にわずか1万人あまりが生き残るのみとなっていた。
疫病が蔓延する地球には戻れず、かといって火星で人口を増やそうにも基地のキャパシティはこれ以上の人口増加を許さない。
人類は全ての構成員をモールという巨大コンピューターに常時接続することにより実現した管理社会で辛うじて命脈を長らえているが、先細りは明らかだった。
この世界に暮らすケイは大学生。
基地を作り上げたトオルの孫娘であるはずのケイには人に言えない、そして政府にも言えないある秘密を抱えていた…



本作品「トリガー」は、SF作家であり推理小説家でもある霞田志郎さんによるSF小説「Trigger 凶星の歌」をラジオドラマ化した作品です。
ちなみに霞田志郎さんは太田忠司という別ペンネームも持っており、どちらかというと太田忠司名義の作品が多い方のようです。

舞台は火星

さて、本作品は未来の火星を舞台にしたSF作品です。
地球から最も近い惑星である火星はフィクションの舞台となりやすく、NHK-FMの帯ドラマでも「最後の惑星」や「昔、火星のあった場所」などが火星関連の作品です(後者は少し怪しいが)。
ただ、本作品の場合、未来の火星といっても火星の地下に建造された人口都市が舞台ですので、真空・無重力の空間が出てくるわけではなく、宇宙船が出てくるわけでもありません。
一部のギミックとして未来的な装置が描写されていますが、基本的には地球上で展開される通常の冒険ものと変わりありません。
そのため本ブログでの分類は「SF(宇宙)」ではなく「SF(その他)」とさせて頂きました。

敢えて書いていないこと

…などとシレッと書きましたが、実はここまでの作品紹介には大きな嘘があります。
ただこれ以上詳しく説明しようとすると本作品の核心部分を明かす必要がでてしまうため、舞台設定についての紹介はここまでとします。
敢えて知りたいという方に対しては、各回の冒頭で流される以下のナレーション自体が大きなヒントになっているということだけ言及しておきましょう。

西暦2088年。人類が移住先を求めて宇宙へ飛び出してから50年。その間に原因不明の疫病に襲われた地球は死の星と化した。生き残った1万人あまりの人類は、ある惑星の地下に潜り生きている。そこは火星と呼ばれる惑星だった。

主役とヒロイン役は有名アニメ声優

さて、本作品の特徴を挙げるならば、まずはその出演者でしょう。
主人公のケイとその相手方のケンを演じるのは、ともに声優の堀江由衣さん(「ラブひな」の成瀬川なる)と草尾毅さん(「ロードス島戦記」のパーン)。
本作品の結末には原作タイトルのとおり「歌」が関係しており、実際にケイが歌うシーンが何度もあることが歌手でもある堀江さんの起用理由でしょう。

その他のキャストも声優

そして堀江さんと草尾さんだけではなく、ルシア捜査官役の川村万梨阿さん(「トップをねらえ!」のユング・フロイト)、バルカ役の檜山修之さん(「機動戦士ガンダムMS06小隊」のシロー・アマダ)、ジャック役の林延年さん(現:神奈延年さん、「剣風戦記ベルセルク」のガッツ)、トオル役の森川智之さん(「剣風戦記ベルセルク」のグリフィス)、そしてギョーム長官役を演じる超ベテランの青野武さん(「宇宙戦艦ヤマト」の真田志郎)まで、アニメでお名前を聞く声優さんがずらり。
ちなみに青野さんは「迷宮百年の睡魔」にも出演されています。
個人的には草尾さんと神奈さんの声質が似ている様に感じ、少し混乱しました。
それはともかく、舞台役者を使うことが多い青春アドベンチャーではあまり見ないキャストではありますが、保科義久さん演出作品らしいといえばらしいところです。
そして、この出演陣に加えて、コテコテのアクションシーンや、派手な音楽、メリハリのついた音響効果も併せて、どことなくB級アニメっぽいというのが、まず最初の感想でした。

SFらしい展開

しかし、第2回でレイ・ブラッドベリの古典的S小説「火星年代記」が引き合いに出され、この世界に謎があることが示されてから俄に面白くなっていきます。
50年前に何があったのか。
ケイの祖父トオルが犯したという「人類に対する裏切り」とは何なのか。
何かを隠している様子のケイの母親モリエの真意は何か。
正直、この「実は○○だった」というオチはSF作品では割とありがちで、古くは「○の○○」の衝撃のラストシーン(ヤバい、ネタバレギリギリだ)等が思い出されますし、例えば小川一水さんの「天冥の標Ⅷ ジャイアントアーク」で示された顛末の方が、個人的にはしっくりときます。
しかし、本作品もいかにもSFっぽい良い結末です。

人類は一度絶滅しかけていた

ちなみに本作品において人類の総数は1万人あまりに減少してしまっています。
「ほぼ絶滅寸前じゃん」と思うのですが、実は近年の研究で人類は過去に1万人以下まで減少したことが実際にあったらしいことがわかってきたそうです。
ミトコンドリアDNA等の研究成果らしいのですが、現生人類は20万年前に生まれたにしては遺伝子の多様性が小さく、どうも一度100万人程度まで増えたあと、7万年ほど前に一度絶滅寸前まで数を減らしたようです。
主な原因はインドネシア・スマトラ島のトバ火山の噴火らしいのですが、この絶滅の危機を乗り越え、今や75億人を超えている。
まさに事実は小説よりも奇なりですね。

【保科義久演出の他の作品】
紹介作品数が多いため、専用の記事を設けています。
名作、迷作、様々取りそろっています。
こちらを是非、ご覧ください。

Hirokazu

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