オルファクトグラム 原作:井上夢人(青春アドベンチャー)

格付:A
  • 作品 : オルファクトグラム
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A
  • 分類 : SF(日本)
  • 初出 : 2001年10月29日~11月9日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 井上夢人
  • 脚色 : ミラーカク子
  • 演出 : 松本順
  • 主演 : 草尾毅

最後に見た姉は、猿轡を噛まされながらも、何かを必死にぼくに訴えかけていた。
しかし、ぼくは、姉の気持ちを生かすことはできず、後頭部を強打され昏倒。
気が付いた時にはすでに姉は殺されていた。
しかも、失ったものは姉だけではない。
頭が強打された後遺症からか、一緒に嗅覚も失ったしまったのだ。
しかし、同時に、匂いを色として認識することのできる不思議な能力を手に入れた。
これは死んだ姉からの贈り物だ。
で、あるならば、この能力を使って何としても見つけなければならない、姉を殺した犯人を。


本ラジオドラマ「オルファクトグラム」は小説家・井上夢人(いのうえ・ゆめひと)さんによる小説をラジオドラマ化した作品です。
井上夢人さんは徳山諄一さんとコンビで「岡嶋二人」というペンネームで第28回の江戸川乱歩賞を受賞した方です。
ただし、その後、井上さんは新たに「井上夢人」名義で再デビューしており、本作品はその再デビュー後の単独名義の作品になります。

多彩な要素

ちなみに、本作品は、このラジオドラマと同時期の2001年度「このミステリーがすごい!」で第4位に入ったほか、翌2002年にはWOWOW開局10周年記念の「プライムサスペンス」としてTVドラマ化もされました(主演:高杉瑞穂さん)。
なお、再デビュー後の井上さんにはSF色が強くなったとの評もあるようです。
まさに本作品はSF要素の強い作品であり、本作品でのジャンル区分は「SF」としたのですが、上記の受賞履歴からもわかるとおり基本的なストーリーラインは犯人捜しですので、その意味ではミステリーです。
とはいえ、トリックが作品の面白さの主体という典型的なミステリーではなく、展開自体のドラマチックさがウリという面では(TVドラマのキャッチコピーのとおり)サスペンス作品ともいえ、多彩な要素を持つ作品です。

匂いを見る

さて、本作品の設定面における最大の特徴は、何と言っても主人公・片桐稔が持つことになった能力。
「オルファクトグラム」とは「嗅覚の検査結果の記録」的な意味なのだと思いますが、匂いを色として捉えるというのはとても斬新な設定。
人間は情報の大部分を視覚から得るという、ある意味とても偏った動物であり、例えば嗅覚や聴覚が発達している犬などが生きている世界を体感することは困難です。
この「オルファクトグラム」では、そこを逆手にとり、匂いの世界を人間にとっても最もなじみのある視覚で表現するという仕掛けをしており、上記のTVドラマ版ではCGを多用してこれを表現しました。

匂いを聴く

しかし、ラジオドラマでは嗅覚と同様、視覚もまたラジオドラマでは直接表現することはできません。
そのため、色を音(効果音)で表現しています。
つまり、原作どおり、匂いを色彩でとらえているという設定は生かしながら、同時に匂=色に応じた効果音を響かせることによって、感覚的にとらえられるように工夫をしているのです。
同様のことは、青春アドベンチャーで、本作品に先行して色をテーマとして取り扱った「虹を操る少年」(東野圭吾さん原作、1998年)でも行われたのですが、本作品ではより効果的に行われていると感じます。

ストーリーはやや拍子抜け

さて、話をストーリーに移しますと、本作品は主人公の稔がふたりの人物、すなわち姉を殺した犯人と、突然失踪してしまったバンド仲間のミッキーを、新たに獲得した「匂いを色で見ることができる」という超能力?で探していく話です。
というと複雑なストーリーも想像されますが、ミッキーの探索の方はほぼ脇道で、中盤からはほとんど犯人捜しの方だけの一本道です。
「ミッキーはどうしちゃったんだろう」と思っていたら、最終回で突然顛末がわかったりして、この辺は少し拍子抜けでした。
また、第六回の終盤に突然、犯人の独白が始まったり、その犯人の犯行動機に全く心に響く要素がなかったり(単なる○○○○キラー?)、刑事があっさりと尾行を諦めちゃったり(逆に犯人に尾行されるという大失態!)、最後の犯人への反撃方法の前振りがバレバレだったり(そんなに都合よく○が集まるのか?)、色々と言いたいこともあります。

効果・演出が効果的

しかし先に述べたように、効果・演出がよくでており、犯人登場シーンにかかる曲が(ベタだけど)効果的だったりして、楽しく聞くことができました。
それにしても、この匂いを色で把握できる超能力?って獲得できたとしても嬉しいのかな?
人間本来の嗅覚はなくなってしまうみたいだし、中盤からは○覚まで弱くなっていく。
これでは食べ物もおいしくないだろうし、日常生活にだって不自由しそうです。

声優の草尾毅さん主演

最後に出演者を紹介しますと、本作品の主人公である片桐稔を演じるのは声優の草尾毅さん。
「ロードス島戦記」のパーン、「ドラゴンボール」のトランクス、「SLAM DUNK」の桜木花道など、一世を風靡された人気声優さんでした。
青春アドベンチャーでは「Meg」、「トリガー」、「太陽の簒奪者」などにも出演されていますが、主演はこの「オルファクトグラム」だけだと思います。


■乱歩賞受賞作家の小説を原作とする作品
日本のミステリー界の登竜門である江戸川乱歩賞。
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