つばき、時跳び 原作:梶尾真治(青春アドベンチャー)
趣味で書いた小説がコンテストの優秀作になったのを切っ掛けに、俺はサラリーマンを辞め、作家になった。といっても、駆け出しの新人作家に生活力なんて、ある訳がない。今は、死んだじいさんの使っていた家を親から借りてただで住まわせてもらっている。戦後に廃屋同然だったのを買い取ったというだけあり、いつ建てられたのかも分からないほど古びたわが家。しかし、庭に肥後椿が咲き誇るこの家で、ちゃぶ台に向かって原稿を打つ生活を、実は俺は結構気に入っている。ただひとつ気になることがある。先日、母が急に「その家には女の幽霊がでる」と言い出したのだ。何でもその幽霊は女性にしか見えず、新しくこの家に嫁に来た代々の女性は、この幽霊を見てはじめて「あなたもこの家の嫁になったのねえ」などと言われるらしい。そういうことは早く言って欲しい…?そういえば、あそこに見えるのは何だ…