想い出あずかります 原作:吉野万理子(FMシアター)

格付:AA
  • 作品 : 想い出あずかります
  • 番組 : FMシアター
  • 格付 : AA
  • 分類 : 幻想(日本/ライト)
  • 初出 : 2011年11月26日
  • 回数 : 全1回(50分)
  • 原作 : 吉野万理子
  • 脚本 : 吉野万理子
  • 音楽 : 森悠也
  • 演出 : 小見山佳典
  • 出演 : 鶴田真由

二十歳の誕生日を前に、海辺の街に帰省した里華(りか)。
親への挨拶もそこそこに出かけて行ったのは、波打ち際に建つ「想い出質屋」だった。
この店の店長は普通の人とは違う不思議な人。
この店は想い出を預かる代わりにお金を貸す不思議な店。
しかし、人は二十歳を過ぎると、この店に行けなくなってしまう。
最後のチャンスに店を訪れた里華は、中学3年生で初めて訪れてからの想い出を店長さんと語りあうのだった。



本ラジオドラマ「想い出あずかります」は、NHK-FMのラジオドラマ番組FMシアターで、全1回・50分で放送されたラジオドラマです。

原作者自身による脚色

原作は吉野万理子さんの同名の小説。
それを吉野さんご自身がラジオドラマ用に脚色されています。
これは「青春アドベンチャー」で放送された「恋愛映画は選ばない」(2013年)と同じパターンです。
吉野さんはもともと脚本家出身なのでお手のものなのかもしれませんが、さすがに原作者ご自身の脚色というだけあって、FMシアターの50分枠にぴったりとあった脚本になっています。
原作は読んだことはないのですが、本作品の良さの一つは、中だるみがなく、かつ、駆け足でもない、この脚色にあると感じました。

普通の「不思議な話」

さて、本作品は冒頭の粗筋でわかるとおり、現代日本を舞台にしつつ、そこに不思議な要素を絡めたファンタジー作品です。
カッコよく言えば「マジックリアリズム」というジャンル名になるのでしょうか?
いずれにしろこのような「大人のおとぎ話」的な作品は、青春アドベンチャーでの「不思議屋シリーズ」や「家守綺譚」、「ウォーターマン」、最近では「金魚姫」や「予言村の転校生」の例を挙げるまでもなく、NHK-FMのラジオドラマの定番ジャンルです。
ただし、個人的な感想で恐縮ですが、正直、私、この手の作品があまり好きではありません。
評価する人が多い「家守綺譚」も個人的にはそこそこ程度。
本作品は「金魚姫」のような興味を惹かれる独特の暗さや毒はありませんし、「ウォーターマン」のようなストーリー展開上の仕掛けもない。

脚色、音楽、そして朝倉あきさん

しかし、なぜか本作品は気持ちよく聴くことができました。
その理由の一つは先に述べたとおり原作者ご自身の手による、よくまとまった脚色。
これに良くマッチした森悠也さんの優しい音楽も外せません。
そしてやはり実質的な主演といえる朝倉あきさんの演技が大きいと思います。
この記事をアップした2017年10月の新作「風の向こうへ駆け抜けろ」にも主演されている朝倉さんですが、私、「幻想郵便局」(2012年)の記事で「朝倉さん、特に「上手い!」という感じではないのですが」などと失礼なことを書いてしまっています。
しかし、本作品では無機質な鶴田真由さんの演技との比較になるからか、十分に上手いと感じます。

優しいだけが癒しではない

そして作品内容についても「大人のおとぎ話」にありながら、「不思議な存在に優しく癒される」だけの作品ではない。
「想い出質屋」の店長は、想い出を預かることによって人の記憶を消去します。
お客が質屋に持ってくる想い出は、消去しても良いと考える想い出、つまり嫌な想い出ばかりなのですが、店長は必ずしもお客を思いやって想い出を消去しているわけではない。

戦うことでは癒されない

というのも、店長は「みんなが持っている当たり前の気持ち」を理解することができないのです。
その店長に対して初対面から「嫌な想い出も良い想い出もすべてがその人を形作っている。嫌な想い出でも捨てるべきではない」と主張する里華。
この種の作品のありがちな展開だと「人生はそんな単純なものではなく、時に忘れていいこともあるんだ~」、「それが癒しだ~」的なゆるい結論になりそうですが、そうはならない。
かといって、里華の主張を全面的に肯定して「人生は戦いだ~」「逃げちゃだめだ~」的なマッチョリズムを押し付けるわけでもない。
むしろ優しさに包まれて癒されたのは店長のほうではないか。
その辺がこの作品を私が好ましく感じた理由なのではないかと思います。

鶴田真由さんの雰囲気

出演者については、上で書いたように、朝倉あきさんと鶴田真由さんのダブル主演といって良い作品だと思います。
鶴田真由さんについては、上で「無機質な」と書きましたが、この記事アップの2カ月ほど前に放送された「異人たちとの夏」(FMシアター)でもそうだったのですが、役柄上、あえて少し浮世離れした雰囲気作りをされているのだと思います。
その他、里華の友人・芽依(めい)役の山下真琴さん(「移動都市」など)、里華の彼氏・雪成(ゆきなり)役の佐藤ユウヤさんなどが主要なキャストです。

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