鷲は舞い降りた 原作:ジャック・ヒギンズ(青春アドベンチャー)

格付:AAA
  • 作品 : 鷲は舞い降りた
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : AAA-
  • 分類 : アクション(海外)
  • 初出 : 2020年1月20日~1月31日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : ジャック・ヒギンズ
  • 脚色 : 池谷雅夫
  • 演出 : 吉田浩樹
  • 主演 : 東幹久

全員、掛け値なしに勇者といってよい。
しかし、マルタ、レニングラード、スターリングラード、そしてチャンネル諸島。
英雄としてあるいは反逆者として転戦するうちに300人いた部隊は15人にまで減ってしまった。
このまま懲罰部隊にいれば全滅も時間の問題だ。
だからといって、何だこの馬鹿げた作戦は。
イギリス本土に空挺降下しチャーチル首相を誘拐する?
こんなことが実行可能だとは思えない、いや仮に実行できたとしてどんな意味があるというのだ。馬鹿馬鹿しい。
馬鹿馬鹿しい…が、われわれはこの作戦を推進せざる得ない。
第三帝国の栄光を守るためではなく、大切な家族と得難い戦友を守るために。



2012年にこのブログを始めるにあたり最初の紹介作品に選んだのがボブ・ラングレー原作の「北壁の死闘」でした。
その記事の中で「鷲は舞い降りた」について言及したのは、「北壁の死闘」が「鷲は舞い降りた」と共通の要素が多い、言ってみれば「鷲は舞い降りたリスペクト作品」だったからなのですが、その時はこのブログで「鷲は舞い降りた」自体の記事を書く日が来るとは想像だにしていませんでした。

なぜ今、この作品が?

というのも、2010年代の青春アドベンチャーは、1980年・1990年代とは違って、軍人が活躍するようなハードな冒険もの、特に海外原作ものを放送することはほとんどなくなっていたからです。
その傾向は実は現在でもさほど変わっていないため、2020年初頭のこの時期に突然、この軍事冒険小説の金字塔がラジオドラマ化されたことには驚きを禁じえませんでした。
制作側の真意がどこにあるのかはわかりません。
ひょっとしたら、ともすれば戦争賛美、あるいはヒロイックなマッチョリズムの発露になりがちなこの種のテーマの作品の中で、本作品が意外なほど人道的・理想主義的な立場で描かれていることに制作側の何らかのメッセージが含まれているのかも知れません。
主人公達もナチスドイツの軍人やIRAのテロリストでありながら、基本的には反ファシズム的な立場に立っていますので(というかナチスに好意的ではいられない状況に置かれただけかもしれませんが)。

だってみんなヒーローだから

…などと物知り気に書いてみましたが、採用されたのはきっと単純に面白い作品だからなのでしょう。
上で「ヒロイックなマッチョリズム」を否定するようなニュアンスで書きましたが、本作品も十分にヒロイック。ヒロイックであるがゆえに面白い。
もうね、「漢」という字を書いて「おとこ」と読む感じですよ。
主人公の降下兵部隊・隊長クルト・シュタイナ中佐(演:東幹久さん)とその片腕ノイマン中尉(演:古河耕史さん)との上下関係を超えた友情。
重要な任務中でありながら民間人の少年を救うために命を懸けてしまうシュトルム軍曹(演:小山剛志さん)の男気。
家族を守るため、くだらないと知る作戦を遂行することに残り少ない命を燃やすラードル中佐(演:長森雅人さん)の苦悩。
タフでシニカルでリアリストだが、理想家で義侠心をも隠し持つIRAのテロリスト、リーアム・デヴリン(演:影山泰さん)。
彼らはナチスドイツの軍人やIRAのテロリストという一般的には悪く描かれるのが当然の立場の人間ですが、本作品における悪役の役割はハインリヒ・ヒムラー1人にすべて押し付けられているため、彼らは全然悪人ではなく、それぞれヒーローなわけです。
もうこれは男の子大興奮の作品にならざるを得ないわけです。

ではラジオドラマとしての出来は?

で、ラジオドラマ版を聞いてみた感想ですが…
第1話の最初の印象は「詰め込みすぎ」かな。
まず語りとモノローグが多くて複雑。
語りが銀河万丈さんで、これは「原作者ジャック・ヒギンズ」役でもあります。
原作者が取材内容を報告している、という体を取っている訳で、そういえば「スペース・マシン」における銀河万丈さんも全く同じ位置づけでしたし、「クリスマスの幽霊」の阪脩さんや、「北壁の死闘」の締めもこれでしたね。
これに加えて、シュタイナやラードル、デブリンのモノローグも挟まる凝った構成なのですが、正直、少々、消化不良になります。
だいたい全員、盛年の男性の声な訳で聴き分けにもちょっとした注意力が必要。
特にシュタイナ役の東幹久さんは雰囲気たっぷりのイケボではあるのですが、活舌がはっきりしているわけではないですしね。
また、政岡泰志さんがヒットラーから一兵士までいろいろなモブキャラをやりすぎ。
至る所で政岡さんの声が聞こえすぎです(わたしが「風かけ」シリーズを何度も聴いているので政岡さんの声が聞き分けやすいという面があるにしろ)。
また、ストーリー的にも序盤の詰め込み過ぎと比較して後半の展開はやや薄味。
というかなぜ作戦決行の1日前に侵入してのんきに演習なんてやっているのか(作戦ギリギリで降下すればよいような…)など、シナリオ上、気になる点もあります。

各回のタイトル

…でもまあそんなことは気にならない熱さがあります。
その熱さについては以下の各回タイトルから感じていただけると思います。

  1. チャーチル誘拐作戦
  2. 作戦準備
  3. ベルリンからの使者
  4. 友よ
  5. 逆風のシュタイナ
  6. イギリス上陸
  7. 緊急事態発生
  8. 戦闘開始
  9. 戦火の行方
  10. 最後の地

そしてやはり熱い出演陣

出演者は、まず主役のクルト・シュタイナ中佐を俳優の東幹久さん。
「風の向こうへ駆け抜けろ」、「蒼のファンファーレ」の緑川調教師もはまり役でしたが本作でもちょっと斜に構えたようなしゃべり方がぴったりで、東さん風のシュタイナが確立されていると感じます。
また、「蒼のファンファーレ」といえば「蒼のファンファーレ」で謎の風水師ミスターワンという怪しい役を演じていた影山泰さん。
ミスターワンも悪くなかったですけど、本作のリーアム・デヴリンは怪しさ抑え気味での演技が最高。
でも個人的にはラードル中佐の長森雅人さんがいい!
歴戦の勇者が苦悩するさまが堪りません!ってちょっとヤバい趣味か?

そして山崎たくみさん

そして本作品を語る上で外せないのが、ヒムラーを演じている山崎たくみさん。
演出方のイメージとしてはケイネス・エルメロイ(Fate/Zero)なのでしょうが、絶妙な配役だった「タイムライダーズ」のフォスターと比較すると、今回はテンションが高すぎ!そして演技が過剰すぎ!
各回終了前のキャスト紹介の時くらいのテンションで十分なのではないか!と思いながら聴いていたのですが、聴いているうちにこれもありかもしれないという気もしてきました。
なにせこの作品において「悪役」を一身に体現しているのがヒムラー。
実在の歴史上の人物をここまで悪くことは普通はできないと思うのですが、本作品では勘弁してもらいましょう。
普通の神経を持つ人間には背負いきれないほどの「悪」として描かれていますので非人間的なくらいに際立たせて丁度良いのかもしれません。
それにしてもこれ、ご存命だったらやっぱり塩沢兼人さんが演じていたのかな、と考えるとちょっと涙。
いえ、オールドファンの感傷です。
山崎さん素晴らしいです。


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