襲大鳳 羽州ぼろ鳶組 原作:今村翔吾(青春アドベンチャー)

格付:AAA
  • 作品 : 襲大鳳 羽州ぼろ鳶組
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : AAA-
  • 分類 : 歴史時代(日本)
  • 初出 : 2024年3月25日~4月12日
  • 回数 : 全15回(各回15分)
  • 原作 : 今村翔吾
  • 脚色 : 丸尾聡
  • 演出 : 真銅健嗣
  • 主演 : 筧利夫

親父は冴えない火消だった。
二つ名は「鉄鯢(てつけい)」。
「鉄」で「鯢(さんしょううお)」だなんて鈍くさい親父にお似合いだ。
それに引き換え、あの人、伊神甚兵衛様はまぶしかった。
「大物喰い」「鳳(おおとり)」「日ノ本一の火消」。
初めは大げさと思われた「炎聖」の称号でさえもやがて誰もが相応しいと認めるようになった。
それなのに最後の最後、救ったのは親父、救われたのは伊神様だった。
火付犯に堕ちた伊神様の心を救い、業火の中、最後まで命を救うことを諦めなかった親父。
「火消はどんな命でも救う。」「己より優れた火消がいれば任す。」
ふたりの死後、頭(かしら)になった自分の口から出るセリフはいつしか親父と寸分たがわぬものになっていた。
しかし、今また起こる怪火。そして死んだはずの伊神様の影。
伊神様は生きているのか、そして再び復讐を始めたというのか。
だとしたら親父の犠牲は何だったのか。
いや、俺は親父を信じる。伊神様を信じる。人の強さを信じる。
親父の最期の言葉はこうだったではないか。
「人の強さは人の弱さを知ることだ。それを喰らって人は強くなる。行け源吾、決して諦めるな。」


火喰鳥 羽州ぼろ鳶組」からスタートした「羽州ぼろ鳶組シリーズ」のオーディオドラマ化もついに第7弾を迎えました。

遂にシーズン1クライマックス

原作小説「火喰鳥 羽州ぼろ鳶組」は今村翔吾さんのデビュー作で2017年3月の発刊ですが、青春アドベンチャーではいち早く翌2018年にオーディオドラマ化。
その後、今村さんは2022年に「塞王の盾」で直木賞を受賞され、押しも押されぬ人気作家になったのですが、この期間、並行してぼろ鳶組のオーディオドラマ化も進み、この度「シーズン1」のクライマックスというべきこの「襲大鳳」に辿り着きました。
ここまで全75話は青春アドベンチャーでは最長
前身番組まで含めても、1980年代に広川太一郎さんが明智小五郎を務めた少年探偵団シリーズと並ぶ話数となります。

痛快娯楽時代劇

さて、本シリーズは江戸時代の中期(田沼意次の時代)を舞台に、方角火消・新庄藩火消組頭取、松永源吾をはじめとする火消たちが活躍するアクション時代劇です。
基本的には災害救助ものなのですが、火付け(放火)を絡めることにより一種のクライムサスペンスあるいはミステリー的な側面を持ち、さらに幕府内での権力闘争などの政治劇の要素もあります。
ただ前作まででも60話もありますので、ここでストーリーの全体像を追うのはもう無理!
という訳では放送開始前に「ぼろ鳶組シリーズ」全体をまとめた記事を作成しましたので是非そちらをご覧ください。

ふたつの仲間

さて、実は主人公源吾にとって身内ともいえるクラスターは二つあります。
ひとつは言うまでもなく新庄藩火消組(こちらの記事にて紹介)。
もうひとつは作中で「黄金(こがね)の世代」と呼ばれる火消の同期達(こちらの記事にて紹介)。
後者のメンバーは今では各組の頭クラスとなっており、普段から密接なつながりがある訳ではないのですが、一朝ことあるごとに組を超えて団結します(あまり団結しないメンバーもいますが…)。

同期の絆はやや薄味

この2つのクラスターの観点から「襲大鳳」より前の作品をざっくり分けると、新庄藩メンバーのウエイトが高い話が「火喰鳥」「鬼煙管」「夢胡蝶」「玉麒麟」「双風神」。
黄金の世代メンバーのウエイトが高い話が「夜哭烏」「九紋龍」「菩薩花」「狐花火」「黄金雛」になります(オーディオドラマ化されていない作品の概要はこちらの記事にて)。
「襲大鳳」はクライマックスですので両方の要素があるのですが、敢えていうなら後者の要素が強い作品です。

駆け足もやむを得ず

ただ後者の作品群のうち「九紋龍」「狐花火」「黄金雛」がオーディオドラマ化から漏れているためどうしても「同期の絆」の部分がオーディオドラマ版では追い切れていない傾向が強いのです。
特に源吾の若かりし日を描いた「黄金雛」が漏れているのが痛い。
一方、本作品はシリーズでは初の全15回と今までの1.5倍量なのですが、そもそも原作が(上)(下)2巻セットなのに加え「黄金雛」の要素も一部加えたので全般的にかなり駆け足。
全20回でもよかったのではないかと思うのですが、一方で第1作「火喰鳥」のスピード感を取り戻した感もあり、これはこれでよかったのかも知れません。

変わらないキャスト

さて、本作品のキャストは主役松永源吾役の筧利夫さん始め、いつも通りの方々。
登場人物の多い本作品で、ほとんどのキャストが続投しているのは嬉しいですね。
キャストの詳細は、これもこちらの別企画で是非ご確認ください。
ただ、クライマックスだけに原作では関西組以外のほとんどのキャラが登場するのですが、オーディオドラマ版では一部のキャストが省略されています。
窪塚俊介さんの柊与市とか篠井英介さんの詠兵馬とかももう一度聞きたかった…
ただ、金児憲史さんが2代目平蔵と団五郎役を兼任していたり、陰山泰さんが田沼意次と大音謙八を兼ねていたり、ほんの少しの出演時間のために宇梶剛士さん(辰一)をキャストしているのをみると、これでもギリギリ可能な限り多くのキャラ、キャスト起用している状況なのかもしれません。

役の年齢と役者の年齢

それにしても本作品のキャストは役の設定年齢より上の年齢の役者さんが演じているのが多いことに特徴があります。
そもそも主人公の松永源吾は30代ですが、筧利夫さんは61歳(スタート時点では54歳だったのですが)です。
同じ年齢でも江戸時代の人間の方が寿命が短い分、老成していたとは思いますが、かなり極端な年の差。
このようなキャスティングは役者の顔が映ってしまうTVドラマや映画では実現が難しく、声だけのオーディオドラマだからこそ成立する形態だと思います。
加えて通常のTVドラマや映画は、客寄せできる若手の人気役者(時には役者ですらないアイドル)をキャスティングしないと採算的に番組が成立しないのだと思います。
顔の映らないアニメですら人気の若手声優を使って客寄せする傾向が見られます。
恐らくオーディオドラマはTVドラマやアニメほどの制作費がかかっていないこと、そもそもNHKであること等のお蔭で、良くも悪くも興行としての成立性をシビアに求められていないからこその奇跡のキャスティングなのだと思います。
ただ漣次とか伊神甚兵衛とかはさすがにもう少し若い声の方でもよかったのではないかと思います。

1年に1本だとどうしても…

キャスティングと言えば、本シリーズでは折下左門を演じる青山勝さんがナレーションを担当(個人的には「火喰鳥」のみ担当した山本龍二さんも好きだった)しているのですが、このナレーションのボリュームが多め。
守り人シリーズ」もそうだったのですが、丸尾聡さんの脚色はアクション系のオーディオドラマでも割とナレーションが多い傾向にあるのですが、特にこの「襲大鳳」はナレーションが気になりました。
ただ本シリーズは1年に1本というインターバルの空くペースで制作せざるを得なかったことから、初見のリスナーに説明するためにある程度、ナレーションが多いのは仕方がないと思います。
また本作についてはキャラクターが多く、ストーリーがツメツメなこともあって原因だと思います。
となるやはりもう少し長めに作って頂きたかった…というのは今更ですね。

シーズン2は?

それにしても遂にぼろ鳶組のオーディオドラマ化も終了なのでしょうか。
小川貴司さんの新之助も、大沢健さんの星十郎も、前田一世さんの勘九郎(今作、大活躍でしたね)も、シライケイタさんの日名塚要人(今作での一番のお気に入り)も、そして筧利夫さんの源吾も、この先もう聴くことができないと思うと悲しくて仕方ありません。
でも楽しい時もいつかは必ず終わりが来るもの。
青春アドベンチャースタッフの皆様には是非このシリーズを超える傑作を今後も作っていって欲しいと思います。
…でもシーズン2があってもいいんですよ。


■ぼろ鳶組シリーズ一覧
松永源吾とぼろ鳶組は今日も火事と戦う、ただ江戸の街を守り、人々の命を救うために。

  1. 火喰鳥 羽州ぼろ鳶組
  2. 夜哭烏 羽州ぼろ鳶組
  3. 鬼煙管 羽州ぼろ鳶組
  4. 菩薩花 羽州ぼろ鳶組
  5. 夢胡蝶~羽州ぼろ鳶組
  6. 玉麒麟 羽州ぼろ鳶組
  7. 襲大鳳 羽州ぼろ鳶組
  8. お互いの呼び方で解説する新庄藩火消組
  9. 通称・異称で紹介する江戸の火消たち
  10. オーディオドラマ化から漏れた作品を補完する

■約260年に及ぶ江戸時代
当ブログで紹介した江戸時代を舞台にした作品が、細かく見るとどの時代設定を背景としているのか?
この作品とこの作品はどちらが先?
実は同時期を描いている意外な作品とは?
詳しくはこちらをご覧ください。


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