山猫の夏 原作:船戸与一(アドベンチャーロード)

格付:AAA
  • 作品 : 山猫の夏
  • 番組 : アドベンチャーロード
  • 格付 : AAA-
  • 分類 : アクション(海外)
  • 初出 : 1985年9月2日~9月13日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 船戸与一
  • 脚色 : 田波靖男
  • 音楽 : 竹田由彦
  • 演出 : 峯岸透
  • 主演 : 原田芳雄

山猫がやって来たあの夜のことだけは忘れはすまい。

1982年11月19日、おれの働くレストラン「蜘蛛の巣」の奥のバー。
完璧なブラジル語を話す、その野獣のような日本人はいきなり金を渡し言い放ったのだ。
「今から俺はお前を雇う。」
なんで俺なんだ?
「俺にはブラジル人のわからねえ言葉を使える奴が必要なんだ。それも若くて希望のねえやつがな。」

山猫のような男を見るのは初めてだったし、あんな人物が存在することさえ、俺には信じられなかったのだ。




この2023年春、役所広司さんがカンヌ国際映画祭の男優賞を受賞されたというニュースで沸いています。

便乗したい!

当ブログとしても便乗して役所広司さんが出演されているオーディオドラマを紹介したいところです。
実際、アドベンチャーロード時代の1987年に「21世紀のユリシーズ」「夜のオデッセイア」の2作品に主演されており、「夜のオデッセイア」が未紹介なので丁度良いのですが…
残念ながら最終回しか音源を持っておらず果たせません。
音源をお持ちの方がいらっしゃいましたら是非お聞かせください。

船戸与一さんの出世作

という訳で今回は「夜のオデッセイア」と同じ船戸与一さん原作で、同じハードボイルドな冒険小説を原作とする「山猫の夏」を紹介することにしました(役所広司さんとはほぼ無関係ですね)。
本作品は、第3回日本冒険小説協会大賞(国内部門)や第6回吉川英治文学新人賞を受賞した船戸与一さんの出世作で、後の「神話の果て」、「伝説なき地」とあわせて南米3部作と呼ばれる代表作でもあります(後の2作とストーリー的なつながりはない)。

悪役登場

主人公は「山猫」と呼ばれる無頼の日本人。
舞台はブラジル北東部にある架空の街エクルウ。
1982年、日本からもサンパウロからも逃げ出してエクルウのバーの店員として燻っている「おれ」に前に野獣のようなこの男が現れたことにより、エクルウは嵐に巻き込まれていきます。

暴力とダンディズム

もともとエクルウはビーステルフェルト家とアンドラーデ家という2つの家が100年も抗争を繰り広げていた殺伐とした街でした。
そこにビースフェルテ家の令嬢とアンドラーテ家の跡継ぎが駆け落ちをするという仰天事件が発生。
令嬢を連れ戻す(ついでにアンデラーテの若君を連行or始末する)ためにビーステルフェルト家の当主に呼ばれたのが山猫なのでしたが…

暴力の連鎖

これ、呼ばない方が良かったんじゃないですかね。
むしろ激しくなる両家の抗争。増えていく死人の数。無法地帯と化す街。
初回から銃弾が飛び交うのは同じでも、最近青春アドベンチャーで放送された西部劇「ウィル」などは及びも付かないハード仕様。

原田芳雄さんなくして語れない

その一番の象徴は山猫を演じる原田芳雄さんでしょう。
アウトロー役を演じるときの存在感は圧倒的の一言。
アドベンチャーロード「檻」やFMアドベンチャー「密林よ熱き獣を誘え」でもその個性的な演技を披露されていた(はず…後者は聞いたことがないため)のですが、もう原田さんが話し始めるだけで原田ワールドに没入してしまいます。
替えの効かない俳優さんですよね。

「いや、やろう」

そんな原田さんも2011年7月に癌で他界。
丁度、東日本大震災発生時に収録中だった「飛ばせハイウェイ、飛ばせ人生」がNHK-FMオーディオドラマでの遺作になりました(2019年の「今日は一日“ありがとうFM50”三昧~オーディオドラマ編」にてその時の様子を主演の高橋和也さんが話してくれています)。

一聴の価値あり

というわけで、血と欲望と遺恨と裏切と硝煙にまみれた物語の行方は如何に。
そして山猫の本当の狙いとは何か。
いやもう碌でもない結末になるに決まっているのですが、そこはそれ、傑作と呼ばれる小説が原作です。
予想がつかない展開からきちっとしたエンディングまで一気に連れて行ってくれます。
正直、あまりにも「おれ」のモノローグが多いのと(ほとんど小説の地の文章的ではある)、やはりどこまでも荒んだ雰囲気なのが人を選ぶ作品ではありますが、ひとつの物語の類型としてこのようなハードな冒険ものを許容できるリスナーであれば聞く価値のある作品だと思います。

江幡蓮さんって?

さて、原田芳雄さんばかり語ってしまいましたが、本作品は語り手である「おれ」(作中で一度も名前は出てこない)の視点から語られる物語であり、台詞の量的には「おれ」を演じる江幡蓮(えばた・れん)さんも主役級です。
…なのですが、今ひとつどういう方かは分かりません。
1970年代、1980年代に俳優をされていた方のようですが…
ご存じの方がいらっしゃいましたらご教示ください。

懐かしいお声がずらり

その他も高木均さん、大塚周夫さん、藤岡重慶さん、玄田哲章さん、宮川洋一さんと、渋いながらも弱冠の昭和のアニメ臭さもある配役陣(そういえば「機動戦士ガンダム」でフラウ・ボゥ役の鵜るみ子さんもちょい役で出演されています)。
残念ながらその多くが鬼籍に入られたか、活動を休止されていますが、玄田哲章さんは2020年の「00-03 都より愛をこめて」に出演されるなどまだまだ現役です。




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