Categories: 格付:AAA

血と黄金 原作:田中光二(FMアドベンチャー)

  • 作品 : 血と黄金
  • 番組 : FMアドベンチャー
  • 格付 : AAA-
  • 分類 : アクション(海外)
  • 初出 : 1984年9月3日~9月21日
  • 回数 : 全15回(各回10分)
  • 原作 : 田中光二
  • 脚色 : 田波靖男
  • 演出 : 花房実
  • 主演 : 田島令子

テレビ番組の打ち上げの席で、テレビレポーター・風早真希は、映画プロデューサー・葛木鉄太郎から声を掛けられる。
若くして映画界に旋風を巻き起こしていた葛木は、メキシコの麻薬事情を報じた真希のレポートに感動したという。
確かに、ある事情から、あのレポートは真希にとっても特別に力の籠ったものだった。
そして葛木は真希にある提案をする。
世界最大の麻薬密造地帯である「黄金の三角地帯」。
すなわちタイ、ビルマ、ラオス国境の山岳地帯における麻薬生産の実態をリポートするロケに同行して欲しいというのだ…



ガチガチの冒険もの

角川小説賞を受賞した田中光二さんの代表作「血と黄金」を原作とするラジオドラマです。
田中光二さん原作のラジオドラマはすでに「幽霊海戦」を紹介済みですが、「幽霊海戦」が架空戦記の色が濃い、ある意味、荒唐無稽な作品であったのに対し、「血と黄金」は「黄金の三角地帯」(ゴールデントライアングル)という実在の闇世界を舞台にした本格的な冒険小説です。
これぞまさに「FMアドベンチャー」というべきガチガチの冒険ものなのです。
FMアドベンチャーの作品は、残念ながら今となっては聴くことがほとんど不可能な作品も多いのですが、是非、いつか全作品を聴いてみたいものです。

「黄金の三角地帯」の今

ところで、この「黄金の三角地帯」、昔は随分と有名だったのに、最近はあまり聞かなくなった気がします。
そのため、少しネットで調べてみたところ、関係国の経済成長や取締りの強化により、「黄金の三角地帯」の一部では今では麻薬生産が減少する傾向にあるそうです。
考えてみれば、この作品が放送されてから現在までの30年間は東南アジア・東アジアが奇跡的な経済成長を果たした30年でもありました。
昔はひたすら貧しく、怪しいビジネスが抜鈎していた「後進国」も、「発展途上国」を経て、今では「先進国」の仲間入りをしつつあります。

悲劇は終わらない

すっかり隔世の感がありますが、それでも現在も「黄金の三角地帯」が世界有数の麻薬密造地域であることには変わりはありません。
また、現在でも、中東のアフガニスタン・パキスタン・イラン国境付近の「黄金の三日月地帯」(ゴールデンクレセント)では引き続き麻薬生産が横行しているようです。
本作品で描かれたような悲劇はまだまだ過去のものとはなっていないのかも知れません。

女性主人公

さて、本作品は東南アジアを舞台に、女性(風早真希)を主人公とした冒険小説です。
同様の作品としては、アドベンチャーロード時代の「謀殺の弾丸特急」(1987年)や「遥かなる虎跡」(1989年)を思い出しますが、後者は明るくコミカルな作品でありかなり毛色が異なります。
そのため、より本作品に近いのは「謀殺の弾丸特急」ですが、女主人公の凄惨な過去や、どんどんと深みにはまっていく展開を見ると、本作品はもはや冒険小説というより、ある種ハードボイルド小説といえるほど硬派でシリアスな作品です。
青春アドベンチャー系列の番組で、女性が主人公の硬派な作品といえば、1997年の「顔に降りかかる雨」(桐野夏生さん原作)が思い出されますが、それより10年以上前に、それ以上のハードな作品が制作されていた訳です。

脚本家の功績

本作品、10分番組ならではの慌ただしさや、説明調のモノローグの多さなど、やや気になる点もあるのですが、緊張感が全編を通して持続する作品で、このようなハードな冒険ものが大好きな私としては、とても好感が持てる作品です。
加えて、作中でヘロインの撲滅方法として提案されるものが、なかなか論理的・科学的であったり、実際のカンボジア・シャン州の状況をうまく取り入れているなどなかなかリアリティが感じられ、是非聞いていただきたい作品になっています。
この辺、加山雄三さん主演の「若大将シリーズ」、植木等さん主演の「ニッポン無責任時代」、さらには「太陽にほえろ」などのTVドラマ、「人形劇三国志」、「アニメ三銃士」、「忍たま乱太郎」まで様々なジャンルで活躍された名脚本家・田波靖男さん(別名義で梅野かおる・大井みなみ)さんの手腕によるところも大きいと思います。

意外とアニメ色の濃い配役

さて、本作品の主役である真希を演じるのは田島令子さん。
田島さんは多くのテレビドラマに出演された女優さんですが、声優としては松本零士さん作品の「クイーン・エメラルダス」役が有名でしょうか。
その他にも、「おしおきだべ~」の「ヤッターマン」のドクロベエ役や「ぶらり途中下車の旅」のナレーションで有名な滝口順平さん、「きかんしゃトーマス」のトップハムハット卿役で有名な納谷六朗さん、「アルプスの少女ハイジ」のクララや、「魔女っ子メグちゃん」のメグ、「未来少年コナン」のモンスリーなどを演じた吉田理保子さんなどといった渋い面々が集結していました。

その他の脇役

また、これらのベテラン声優に加え、アニメの2枚目役で有名な関俊彦さん(イーシャの舟)や井上和彦さん(魔法の王国売ります)なども脇役として出演されており、意外とアニメ色の強い配役です。
ただ、真希の脇を固める男性二人、葛木と早乙女は、森本レオさんと岡本富士太さんという俳優の方が担当されているのですけどね。
森本レオさんといえばアドベンチャーロード時代の「摩天楼の身代金」がとても印象深い。
どこかでもう一度通しで聞いてみたいものですが、叶わぬ夢なのでしょうか。

Hirokazu

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