本作品「『日本の川を旅する』から カヌー野郎のロンリーツアー」は、日本のリバーカヤックツーリングのパイオニア・野田知佑さんの代表作「日本の川を旅する」をラジオドラマ風に構成した作品です。
野田さんは椎名誠さんやC・W・ニコルさんとも親しく、カヌーなどに関する著作も多い、その筋では有名な方なのだそうです。
なお、本作品も「ラジオドラマ風の構成」といっても、ノンフェクションである野田さんの原作本の雰囲気を生かし、過度な演出はしていません。
本作品は「脚色」のクレジットがなく、「くらうちひとし」さん(恐らく倉内均さん)が「構成」として紹介されているのですが、それが頷ける作品です。
さて、本作品は、NHK-FMのノンフェクション的なドラマの中でも出色の出来だと思います。
というのも、本作品のような紀行文的な要素が強い作品はやはり読者・リスナーに「行ってみたい! やってみたい!」と思わせてこそ、出来が良い作品といえると思うのですが、その点で、本作品はすばらしい。
私のようなインドア派の人間ですら、「カヌーで川下りっていいんじゃない?」と思わせられる魅力のある作品です。
組み立て式のカヌーとわずかな道具だけを持ち込んで川を下る。
時には川に潜って魚を取り、時には鳥の声に耳を澄ませる。
行きあった田舎の人々と自然な交流が生まれ、そして時には自然と人間との関係についての深い思索に沈む。
川ごとに違う景色、違う人情。
こちらのページ(外部リンク)によれば、NHKはこの作品のためにカヌーのロール音や川の音を録音したそうな。
気合が入っている。
特に第8回の球磨川、第10回の四万十川などは切実に行ってみたいと思いました。
まあ実際にはカヌーで漕ぎ出すことはできないのでしょうけど。
さて、本作品は1回ごとに一つの川を下っていく様子が描かれます。
各回で取り上げた川とそれについての一言は以下のとおりです。
概ね北から南に移っていきます。
いずれの回も、川下りの途中で出会った地元の人々との交流が描かれ、彼らは当然ながら各々の方言で語りかけてきます。
この辺も雰囲気がでて、とても良いつくりです。
なお、作中、特に中盤(要は日本の中心に近い位置の川の回)で、川の汚染やダム問題がしきりに取り上げられます。
考えてみれば、本作品の原作が出版され、ラジオドラマ作品が放送された1980年代初頭は、日本の川が最も汚れ、一方で生態系の保存にはまだ関心が低かった時代。
今は少しは水質も良くなったのではないかと思いますが、本質的な問題はあまり解決していないようにも感じます。
2015年現在77歳の野田さんが、今、同じ川を下ったらどんな紀行文を書いてくれるのでしょうか(追記に注)。
最後に、出演者を紹介すると、本作品で野田さんを演じるのは早世された俳優の草野大悟さん(世紀の大冒険レース、脱獄山脈)。
その他、今福将雄さん(ぼくは勉強ができない)、山谷初男さん、今井和子さん、千石規子さんなど、実に渋い面々です。
「ふたりの部屋」は以前紹介した「さらば国分寺書店のオババ」などエッセイ風の作品も多かったようですが、この種の作品、わたしはあまり得意ではありません。
ただ本作品は俳優陣の落ち着いた演技といい、本格的な効果音といい、パッと目を(耳と?)引く派手さはありませんが、なかなかの良作だと思います。
※2020/3/30追記
本作品の原作者である野田友佑さんが27日、84歳で亡くなられたそうです。
ご冥福をお祈り申し上げます。
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A louely travel of a canoemanかぬ