玉麒麟 羽州ぼろ鳶組 原作:今村翔吾(青春アドベンチャー)

格付:AA
  • 作品 : 玉麒麟 羽州ぼろ鳶組
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : AA+
  • 分類 : 歴史時代(日本)
  • 初出 : 2023年6月5日~6月16日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 今村翔吾
  • 脚色 : 丸尾聡
  • 演出 : 真銅健嗣
  • 主演 : 筧利夫

「あーあ、また深雪さまにしかられてしまう」
頭取の愛妻の能面のような顔を思い浮かべ鳥越新之助は苦笑した。
しかしつぶやくや否や、新之助の心中に浮かんだ深雪の顔は笑顔に変わった。
「新之助さんがそんなことをするはずがないですよ」
そう、組のみなは決して私のことを疑わないだろう。
お頭も、先生も、武蔵さんも、寅次郎さんも、彦弥さんも、みな力になってくれるだろう。それでも…
今は逃げなければならない。
小さな命と真実を守るために。
江戸の全てを敵にまわしたとしても。


前作からわずか8カ月!
青春アドベンチャーに早くも「ぼろ鳶組」が返ってきました!
2018年からオーディオドラマ化がスタートした本シリーズ。
夏又は秋にかけて年1作制作されること五度。
今年は初夏の6月に登場です。

クライマックスに向けて加速?

近年の作品では「白狐魔記」と同じ6作品目。
年2作ずつ制作された「白狐魔記」と比べてスローペースでしたがここにきていよいよクライマックスに向けて走り始めたのか。
ぼろ鳶組ファンとしては先が楽しみで仕方ありません。

タイトルでわかる

さて、今回の「玉麒麟」は新庄藩火消組(ぼろ鳶組)の頭取並・鳥越新之助の主役回。
新之助は火消番附上の通称「襤褸鳶(ぼろとび)」とは別に剣士としての異名「新庄の麒麟児」を持っていますので、ファンの皆様はタイトルを見た瞬間に今回の主役がわかる仕掛けです(作中の通称については別記事にまとめました。是非ご覧ください)。

人気の理由

原作者の今村翔吾さんによると鳥越新之助はこの作品の中でも一番人気のあるキャラクターとか。
普段はへらへらした若者ですが、お頭・源吾の薫陶を受け、亡き父・鳥越蔵之介の思いに気付いた後は火消としても急成長中。
剣を取っては府下十傑に選ばれるほどの腕前、そして一度聴いたこと・見たものを決して忘れない記憶力の持ち主など、気になる属性もたくさん持っています。
しかし彼の最大の持ち味は場の空気を明るくする軽やかさ、そしてすべての根底にある優しさ。
これはファン(特に女性ファン)が付くのも当然ですよね。
本作品はそんな新之助の魅力が満載の回なのです。

みんな知っている

さて本作ではその火消への思い、弱いものへの優しさ故に巻き込まれた事件で新之助は江戸の火消し全てから追われることになります。
冒頭の粗筋のようにもちろんぼろ鳶組の仲間たち(ぼろ鳶組メンバーについてはこちらの記事にてご参照ください)は新之助を信じるのですが、幕府上層部から謎の圧力がかかり身動きが取れません。
孤立無援で剣を揮う新之助ですが、彼の本質を理解しているのはぼろ鳶組メンバーだけではなかったのです…

原作との相違

ここから先はやはり聴いてのお楽しみでしょう。
新之助の逃避行(実は女連れ!)がどのような結末を迎えるのか。
本作は原作で「夢胡蝶」と「玉麒麟」の間にあった「狐花火」をとばしていることもあって原作と違うところが結構多い。
ただし大きな流れでは違いはありません。
原作のファンの方はちょっとした違いを楽しみつつ、安心して新之助の忍法・猿蓑…ではなく秘剣・転(まろばし)をご堪能下さい。

キャストは続投

さて、出演陣はいつものとおり。
お頭「火喰鳥」こと松永源吾を演じる筧利夫さんを始めとして役柄にあった声と演技のみなさまが続投されています。
第4作「菩薩花」以来の出演となる、よ組の頭「蝗(いなご)の秋仁(しゅうじん)」役の坂西良太さんあたりがきちんと続投しているのが最高です。

最強の町火消

そして、原作第3巻「九紋龍」が飛ばされたことによって長らく出番がなかった「に組」の辰一がついに登場!
寅次郎の膂力と彦弥の身軽さをあわせもつ、身体能力最強の「東の関脇」。
配下に対して絶対的な支配力を持ち、管轄に他の火消が入ることを極端に嫌う孤高の火消です。
この暴君を演じるのは若いころに元暴走族の幹部だったことでも知られる宇梶剛士さん。
宇梶さんの辰一は経歴や見た目を含めての起用だと思います。
ただ個人的には心優しい昆布漁師を演じたFMシアター「礼文バージンロード」を先に聞いていたこともあって、どこか暖かみのある辰一になっているように感じました。
なお、本作以前に寅次郎が辰一に負けた話や辰一vs新之助が2回戦目という設定になっていることから「九紋龍」など飛ばされた話は描かれていないけどあったことになっているようです。

省略要素

実は青春アドベンチャー版ぼろ鳶組は、尺の都合からか重要な要素がいくつか省略されていました。
代表的なものを3つ挙げると以下のとおり。

  1. に組の辰一
  2. 千羽一家
  3. 御連枝・戸沢正親

このうち今回、辰一が登場したのですが(第2部まで続くとすれば)千羽一家は今後の展開上、恐らく不可欠になるものと思います。
どのように処理していくのか楽しみです。

こんな日が来るとは

そして今回の事実上の主役である鳥越新之助を演じる小山貴司さんももちろん続投。
公式ホームページの写真が小山さんを中心として出演者のみなさんが囲んでいる形になっていて感慨深いです。

(公式ホームページ・外部リンク)
https://www.nhk.jp/p/rs/X4X6N1XG8Z/blog/bl/pA1EPjlLrA/bp/pVXADyO9m4/

私は第1作「火喰鳥」を聴いた後に原作を読んで、「夜哭烏」放送時にはもう「玉麒麟」も読了済みで、「夜哭烏」の粗筋を新之助視点で書いたのですが、このころにはこのシリーズがこんなに続き、小山さんが主役を張るときが来ることを現実的な未来として予想することはできませんでした。
なお、今回、格付けをぼろ鳶組では比較的低めのAA+としたのですが本作がつまらないわけでは全くありません。
ただ内容があまりにも新之助全振りなので、「鬼煙管」の長谷川平蔵、「夢胡蝶」の花菊・時里のような印象の強いゲスト主役も欲しかったところ。
ぜいたくな悩みですね。
新之助ファンならもちろんAAAです。

最多回数

さて、シリーズ合計とはいえ青春アドベンチャーで6作品・60回といえば、作品数では「白狐魔記」、回数でいえば「封神演義」や「おいしいコーヒーのいれ方」などの数少ない作品しか到達しなかった領域。
作品数ではおいコーの10作品という高い壁があるのですが、「ぼろ鳶組」の60回は回数でいえば、この先は人跡未踏の地です(アドベンチャーロード時代のアレは除く)。
詳しくはこちらの記事をご覧いただきたいのですが、どこまでいくのか。
原作の内容が担保されていることと、毎回(全員にとってハッピーエンドではないかもしれないけど)必ず気持ちの良い終わり方をするので安心して聴くことができます。
楽しみです。


■ぼろ鳶組シリーズ一覧
松永源吾とぼろ鳶組は今日も火事と戦う、ただ江戸の街を守り、人々の命を救うために。

  1. 火喰鳥 羽州ぼろ鳶組
  2. 夜哭烏 羽州ぼろ鳶組
  3. 鬼煙管 羽州ぼろ鳶組
  4. 菩薩花 羽州ぼろ鳶組
  5. 夢胡蝶~羽州ぼろ鳶組
  6. 玉麒麟 羽州ぼろ鳶組(本作品)
  7. 襲大鳳 羽州ぼろ鳶組
  8. お互いの呼び方で解説する新庄藩火消組
  9. 通称・異称で紹介する江戸の火消たち
  10. オーディオドラマ化から漏れた作品を補完する

【2023年リスナー人気投票上位作品】
当ブログ主催の2023年青春アドベンチャー・人気アンケートで、当作品が第2位の得票を得ました。
詳しくは別記事をご参照ください。


■約260年に及ぶ江戸時代
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