- 作品 : 人喰い大熊と火縄銃の少女
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : AA+
- 分類 : アクション(日本)
- 初出 : 2015年7月13日~7月24日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 作 : オカモト國ヒコ
- 音楽 : 澁江夏奈
- 演出 : 小見山佳典
- 主演 : 川口覚
自分はなぜ、あの少女を助けたいと思ったのだろう。
流れ流れて辿り着いた最果ての寒村。
ボロ小屋の前で、全身から声を引き絞るようにして叫んでいたあの少女を。
「お願いします。あの熊を撃ち殺して欲しいんです。」
そう、彼女は、熊に全滅させられた村の唯一の生き残りだった。
彼女とともに熊を追った男は自分のほかに3人。
武士として死ぬことができなかった巡査、変わり者だと村中から蔑まれていた熊撃ちの達人、混血ゆえに自分の存在意義を証明しなればいけなかった「森の民」の少年。
確かに少女と3人の男たちには、あの怪物を追わねばならない理由があった。
しかしチンピラで部外者の自分は彼らとは違う。そんな義理はない。
あんな怪物と戦わなければいけない理由はなかった。
いや、自分は本当に彼らとは違うのか。
そうか、自分を含めてこの5人はみな世間からつまはじきにされた流れ者だったのかも知れない。
青春アドベンチャーのオリジナル長編
NHK-FMのラジオドラマ番組「青春アドベンチャー」では、大体年間15作品ほど新作が制作されるのですが、そのほとんどは原作がある作品で、1話完結のオムニバス形式の作品を除けば、オリジナルの長編作品は年間1本程度です。
そのため青春アドベンチャーの顔であった藤井青銅さんを除けば、2作品以上のオリジナル作品が採用された脚本家さんはごくわずかです。
オカモト國ヒコさん2作品目
最近では「ニコイナ食堂」で樋口ミユさんがこの「2作採用脚本家クラブ」に加入されましたが、「泥の子と狭い家の物語~魔女と私の七〇日間戦争~」に続いて本作「人喰い熊と火縄銃の少女」をもってオカモト國ヒコさんも2作目の作品が採用されました。
もともとオカモトさんは、原作付の作品では、「僕たちの戦争」、「プリンセス・トヨトミ」となかなか気持ちの良い脚色をされていたのですが、「泥の子~」以降、傑作「砂漠の王子とタンムズの樹」(原作:足立明さん)の脚色を経て本作品と、私の中ではすっかり「今、青春アドベンチャーでもっとも楽しみな脚本家」の地位を確立しつつあります。
本作品も、悲壮感いっぱいのストーリー、緊張感たっぷりの展開のなかに、適度にロールプレイングゲーム的なミーハーな要素もあり、なかなかの冒険エンターテイメント作品になっています。
ヒグマvs人間
さて、本作品は人喰い熊に人間が立ち向かう話です。
人喰い熊といえば、やはり大正時代に実際にヒグマが人を大量に殺害した「三毛別羆事件」と、これを題材にした吉村明さんの小説「羆嵐」でしょう。
「羆嵐」は何度もラジオドラマ化されています。
個人的には矢口高雄さんの「マタギ」や、「釣りキチ三平」とのクロスオーバー作品「阿仁の三四郎」(釣りキチ三平第56巻収録)も印象深い。
パーティ制のバトル
本作品はこれらの作品にみられる「人食い熊vsプロの猟師」という図式に加えて、RPG的なパーティ制の役割分担による戦いが描かれます。
索敵・牽制役を果たすワシリ、パーティのコントロールと仕留めを担当する源三に加えて、高岡というRPGにおける「盾役」(最前線に立って敢えて敵の攻撃を受け止め味方の攻撃のタイミング作る役)までいます。
また、一見、あまり役に立ちそうもない可憐な少女(凛)とチンピラ(五平)もいるのですが、「お姫様」と「うっかり八兵衛」が混じっているのも、ある意味、パーティのお約束ではあります(本当に役に立たないかは別ですし)。
リアリティ
また、刀で熊を止める、額に銃弾が当たっても熊が死なないなどかなり荒唐無稽な描写もありますが、一方で、例えばパーティーに犬が同行しない、火縄銃が切り札の武器として描写されているなど、一見、非現実的に見えるけど実は正しい描写もあり、きちんと取材している様子もうかがえます。
ちなみに、犬がいないという点については集団で熊を追うマタギは必ずしも犬を使わないそうですし(犬がいればいたで「牙王物語」の再来みたいで面白かったとは思いますが)、火縄銃は飛距離と精度では近代的な銃に劣るものの近距離での威力は同等以上なのだそうです。
何はともあれ、最後やや駆け足に終わるのが残念ではありますが、タイトルにも含まれている「火縄銃」の「火」を文明の象徴とし作品のテーマに収斂させるシナリオ上の工夫や、安易な自然崇拝に終わらないテーマも好感が持てます。
もう少し伏線が欲しかった
ただ、エンディング間近の「インタビュアーの告白」は少し唐突で不自然に感じました(なぜこんなに長い間探さなかったの?)。
終盤であの告白があるのであれば、もう少し事前に伏線を張っていただいた方が良かったような…
むしろ「似ていない」ことも考え合わせると、ひょっとして彼女の語った内容は真実ではなく「老人」を慰めるためのとっさの作り話なのかとも考えましたが、それであれば彼女の態度が不誠実に感じられてしまいます。
この辺が、視聴後感に微妙に影響したようにも感じられます。
ただ、全体としてはとても良い雰囲気の作品でした。
澁江夏奈さんの音楽が良い
そしてこの雰囲気づくりに貢献しているのが澁江夏奈さんのオリジナルの劇伴!
制作統括兼演出の小見山佳典さんは、「僕たちの宇宙船」、「あなたがいる場所」、「ニコイナ食堂」、そして本作品と4作品続けて澁江夏奈さんのオリジナル音楽を付けています。
そして音響効果なども
今までの作品も良かったのですが、技術(西田俊和さん、佐伯悠さん)、 音響効果(石川恭男さん)のご努力と相まって、本作品では特に効果的に作品全体のムードを盛り上げていると思います。
正直、こんな短い作品にいちいちオリジナルの音楽なんて作っていられないでしょうし、予算枠の範囲でどこに力を入れるかは色々な考え方があろうかと思いますが、やはりオリジナル音楽はいいですよね。
川口覚さん初主演
話は変わって、本作品の出演者を説明しますと、まず主役の五平役が俳優の川口覚さん。
「星を掘れ!」でも主役をされていますが、あちらは(青春アドベンチャー作品「海に降る」のスピンアウト作品ではありますが)単発ドラマ枠だったので、本作品が青春アドベンチャー初主演だと思います。
線の細いポスドク役だった「星を掘れ!」とは全く違うチンピラ役で、さすがに全く違う演技ですね。
ヒロインや脇役もすばらしい
また、ヒロインの凛を演じるのは東宝芸能所属の女優の吉田まどかさん(18歳)。
可憐な容姿(であるはず)に似合わない凄みのある声(役がそういう役ですし)で印象的です。
その他、第5話や第8話・第9話に堂々たる見せ場のある巡査・高岡を演じる佐川和正さん、もったいぶって登場した割には第4話で大失態をかましてしまうベテラン猟師・源三役の金井良信さん、そして高岡とともに人間の矜持を示す活躍を示す「森の民」(アイヌを連想させるが作品中では明示されない)の少年ワシリ役の花戸祐介さんあたりがメインのキャスト。
また、神尾晋一郎さんも隠れた主要キャストなのですが、この配役は最終回まで紹介されないので…
そして篠田三郎さんが効いている
そして、本作品のキャストとして忘れていけないのは、ナレーション役の篠田三郎さん。
篠田三郎さんですよ!
これがまた、ドスの効いた低音で渋いこと渋いこと。
以下のオカモトさんのブログを見ると、篠田さんご自身も楽しんでやっていたと想像できますが、篠田さんの出演が作品全体の雰囲気や質、格といったものを、一段引き上げているように感じます。
(外部リンク)http://okaq215.blog.fc2.com/blog-entry-125.html
是非こちらの記事も
ところで、上記のブログの最後でオカモトさんが「誰か、絵のうまい人、これ漫画にしませんか。」と書いています。
「この作品、どんな漫画家さんが絵を描いたら面白いだろう?」
なんだか想像力を刺激されるお題です。
勝手ながら、私なりのおすすめ漫画家を検討して別記事にしてみましたので、そちらも是非ご覧ください。
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