家守綺譚 原作:梨木香歩(青春アドベンチャー)

格付:A
  • 作品 : 家守綺譚
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A+
  • 分類 : 幻想(日本/ライト)
  • 初出 : 2005年2月28日~3月11日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 梨木香歩
  • 脚色 : 丸山智子
  • 演出 : 木村明広、藤井靖
  • 主演 : 高橋和也

駆け出し作家の綿貫は、夭折した親友・高堂の父親から意外な申し出を受ける。
空き屋になってしまう高堂の家に家守(=管理人)として住んで欲しいというのだ。
経済的に助かること、死んだ高堂が喜ぶであろうという父親の言葉、そして、この草深い家でなら書きたいものが書けるのではないかという期待から、綿貫はこの申し出を受けること決める。
こうして、家守である綿貫と、死んだはずの高堂、拾った犬のゴロー、そして様々な不思議なものたちとの生活が始まった。



梨木香歩さんの小説を原作とするラジオドラマです。
梨木さんに関しては、「西の魔女が死んだ」がラジオ深夜便・深夜小劇場で、「沼地のある森を抜けて」(フリオのために)がFMシアターで、それぞれNHKの手によりラジオドラマ化されています。

他の番組でも採用

本作品「家守綺譚」も、この記事で紹介する青春アドベンチャー版のラジオドラマのほか、ラジオ第1の「ラジオ文芸館」(朗読:中村淳平アナ)やFMの「ポップスライブラリー」(朗読:俳優の佐々木蔵之介さん)などでは朗読対象として採用されているようです。
NHKではお馴染みの作家さんと言えると思います。

名古屋局に良作多し

なお、本作品の制作はNHK名古屋局。
名古屋局制作作品としては「新・動物園物語」などの脚本家競作の短編集が目立つのですが、「オーデュボンの祈り」(伊坂幸太郎さん原作)、「ロズウェルなんか知らない」(篠田節子さん原作)、古くは「銀河番外地、運び屋サム」(高千穂遥さん原作)など人気作家の原作を積極的に採用する側面もあります。

身近で自然な怪異

本作品は、近代の日本(ドラマ中では明示されていないが公式ホームページによればおよそ百年前)を舞台にして、ひとりの青年が出会う身近な怪異を描いていく作品です。
怪異と言っても、「ミヨリの森」や「幻想郵便局」のようなあからさまな怪異ではありません。
いや、あからさまではあるのですが、日常生活に大きな影響を及ぼすような“事件性”がないこと(高堂の死を除いては、ですが)、綿貫の周囲の人間達 -隣家のおばさん、近くの寺の和尚、後輩の編集者・山内など - が「ここはそういう土地柄」という風に、不思議な現象をあたかも季節ごとの風物であるかのように自然と受け入れていること等から、違和感なく、すっと受け入れられる作品になっています。

落ち着いた雰囲気が心地よい

この手の作品(現代を舞台にした、ちょっと不思議な作品)は、青春アドベンチャーでは割と良くあり、例えば「鏡の偽乙女~薄紅雪華紋様」などもそうだと思うのですが、個人的にはあまり好きなジャンルの作品ではありません。
そんな私でも、静謐で落ち着いた不思議な雰囲気が心地よいと感じられる作品でした。
なお、一応、最終回で、高堂の現在のあり様がわかったり、綿貫に作家としての進展があるなど、一応のエンディングが待っています。
しかし、作品の性質上、大きな事件が起きるわけではありませんし、脚本と音楽と俳優さんの演技の絶妙なバランスをただ楽しめばよい作品だと思います。

ところで「家守」とは?

なお、本作品の「家守」は「いえもり」と読みます。
歴史的には日本の江戸時代において、不在家主から家屋敷を預かりその維持管理をする管理人を「家守」と呼びました。
現代日本の都市政策、特に中心市街地の活性化を考える場合に、この近世の家守制度を現代に蘇らせて、中心市街地で大量に発生している空き屋を管理、有効活用することが提言されています。
この場合の読み方は一般的に「やもり」であり、作中でも登場する両生類と同じです。

高橋和也さん出演作に外れなし

さて、主人公の綿貫役を演じているのは元男闘呼組で俳優の高橋和也さんです。
高橋さんは多くの青春アドベンチャー作品に出演されていますが、特筆すべきは主役級の配役の多さ。
本作品のほか、「赤と黒」シリーズ、「プラハの春」シリーズが主役、「ラジオ・キラー」も重要な役(犯人役)でした。
高橋さんは少ししゃがれた声の方で、最初に聴いた時は、新米文士である綿貫には合わないようにも感じたのですが、聴いているうちに馴染んできたのが不思議です。

超常連の今井朋彦さん

一方の高堂役は、青春アドベンチャーでは超お馴染みの今井朋彦さん。
主演した「尾張春風伝」など、今井さんも出演作品を挙げるときりがなくらいの青春アドベンチャーの常連です。
ただし、例えば2012年・2013年の作品で見てもわかるのですが、「ピエタ」「二分間の冒険」「シュレミールと小さな潜水艦」「エイレーネーの瞳」など、重要な役ながら主役ではない作品が多いのが意外です。

丸山さん脚本作も外れなし

最後に本作品を脚色しているのは丸山智子さん。
吉本新喜劇なども手がける脚本家さんだそうで、確かに「不思議屋薬品店」の丸山さんの作品も結構笑える作品だった覚えがあります。
青春アドベンチャーでは、長編では本作品を含めて2作品しか担当していません。
しかし、もう1作はスポーツ物の傑作「DIVE!!」ですし、本作品も気持ちの良い出来です。
是非、今後も青春アドベンチャーにご参加頂きたいものです。


【30周年記念全作品アンケート】
2022年に当ブログが独自に実施した青春アドベンチャー30周年記念・全466作品アンケートにおいて、本作品が8票を獲得して15位タイとなりました。
リスナーの感想等の詳細はこちらをご覧ください。
また、同アンケートの出演者編で本作品に出演している今井朋彦さんが5票を獲得して8位になりました。詳細はこちらをご覧ください。



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