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ぼくらの七日間戦争 原作:宗田理(アドベンチャーロード)

  • 作品 : ぼくらの七日間戦争
  • 番組 : アドベンチャーロード
  • 格付 : B
  • 分類 : 少年(中高)
  • 初出 : 1985年12月2日~12月13日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 宗田理
  • 脚色 : 佐久間崇
  • 演出 : 香西久
  • 主演 : 橋満耕司

7月20日、中学1年1学期の修了式の日。
クラスの男子全員21名が学校から帰ってこなかった。
親や教師が集団誘拐かと大騒ぎをする中、「午後7時からFM放送を行う。ダイアルを88MHzにあわせろ。」という不審な電話がかかってくる。
大人たちが慌ててラジオのダイアルをあわせると、アントニオ猪木の入場テーマ「炎のファイター」に合わせて放送が始まった。
「皆さん、こんばんは。ただいまより解放区放送をお届けします。センコーの説教も親父の小言もお袋の愚痴も今日は休みだぜ。テストも宿題もついでに塾も今日は休みだぜ。それからテレビも漫画もおやつもビタミン剤も今日は休みだぜ。休んで何をするかって?…」



本作品「ぼくらの七日間戦争」は同名のジュブナイル小説を原作とするラジオドラマでNHK-FMの「アドベンチャーロード」で1985年12月に放送されました。

原作に最も近いメディアミックス

原作小説「ぼくらの七日間」は1985年4月の発刊。
その後、1988年に宮沢りえさんをヒロインとして映画化された(宮沢りえデビュー作)ものが有名ですし、2019年に同名のアニメ映画もつくられています。
ただ、前者は、①戦車(自衛隊の61式戦車のレプリカ)が登場する、②原作最大の事件である柿沼の誘拐事件が発生しない、など大幅な改編がなされた作品です。
また、後者に至ってはテーマ(大人への挑戦、ユーモラスな戦い)以外はほぼオリジナルの作品です。
そうした中、原作発刊後すぐにラジオドラマ化された本作品は、学生運動的な表現を含め一番、原作に近い作品となっています。

反抗は若者の特権

さて、先ほど「学生運動的な表現」と書きましたが、生徒たちが全学連をまねて、自分たちが立てこもる場所を「解放区」と称したり、規律や勉強を押しつけてくる大人たちへの反抗の物語であったりする面から、そのように称しました。
若者が大人に逆らうのは当然ですし、若者の存在意義の一つはそこにあると言っても過言ではないと思うので、どんどんやっちゃえ!と思いながら聞いていたのですが…

ノンポリ?

彼らには特段、世の中に対する明確な主張がありません。
少なくとも“Revolutionとノートに書き留めて”いそうな雰囲気はありません。
それどころか、例えば「屋上デモクラシー」であったようなプライベートな動機といったものも薄弱です。
「アゴラ69~僕らの詩(うた)~」にあったような全共闘世代に対する郷愁的なものも良くも悪くも全くなし。
彼らは特にビジョンもなく立てこもり、1週間であっさり解散するのです。
並行して起こる柿沼の誘拐事件が最大の盛り上がりなのですが、これも発生自体が偶発的なもの。

健全な子ども?

もちろん生産的なことを何ひとつしないこと自体が反抗なのかも知れませんが、親に逆らって自由になるのはいいとして、テレビや漫画やおやつ(今で言えばSNSやネットワークゲームでしょうか)から自由になりたいと本当にこども自身が思うのかな。
そこに何か原作者なりの「健全なこども像」がありそうで、何となくもやもや感が残りました。

エンタメ作品として

とはいえ、生徒の将来より自分の欲得やマスコミ対策を優先する大人たちの戯画的な描かれ方は面白いですし、大人が象徴する権威に対する痛烈な一撃を画策する様は爽快ではあります。
本作品はそういった観点から素直に楽しめば良い作品なのかも知れず、そうであればあのあっさりした結末も後腐れがなくて良いのかも知れません。

キャスト紹介

さて、本作品の主要なキャストはまず立てこもる生徒を演じた子役の皆さん。
橋満耕司さん、竹林潤一さん、川島千恵さんと言った方々です。
一方、大人たちを演じたのは主に東京放送劇団(当時のNHK専属劇団)の八木光生さん、川久保潔さんのほか、須永宏さん、島田果枝さん、田辺宏章さんなど。
そしてマドンナとも言える養護教諭の西脇由布子先生を「風の谷のナウシカ」のナウシカ役、「めぞん一刻」の音無響子役で有名な声優の島本須美さんが演じていらっしゃいます。



Hirokazu

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