
オリガ・モリソヴナの反語法 原作:米原万里(青春アドベンチャー)
オリガ・モルソヴナとの出会いは、1960年代のチェコの首都プラハにあったソビエト学校でのこと。私、弘世志摩(ひろせ・しま)はこの学校に通う小学生だった。オリガは、老齢ながらダンス教師として卓越した技術を持つと評判だった。しかしそれ以上に彼女を有名にしていたのは、ただでさえ罵り言葉の宝庫と言われるロシア語を駆使し、罵詈雑言を浴びせかける天才だったこと。その最も特徴的な表現方法は反語法。彼女にかかると「美の極致!」という言葉さえも、圧倒的な皮肉へと変わるのだ。しかし、オリガの過去に何か謎のようなものが見え隠れすることは小学生であった私にも分かった。そして1992年。大人になった私はモスクワへと飛ぶ。永年の疑問だったオリガの過去を知るために。そこで待っていたのは、悲劇の現代史を生きた3人の女性の物語だった。