夢巻 原作:田丸雅智(青春アドベンチャー)

格付:A
  • 作品 : 夢巻
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A+
  • 分類 : 幻想(日本/ライト)
  • 初出 : 2016年8月22日~8月26日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 田丸雅智
  • 脚色 : ふじきみつ彦
  • 演出 : 景山潮
  • 主演 : マギー

長年の親友・村上に指定されたバーにやってきた堀川。
最近、管理職になったばかりで何かと多忙の堀川を村上が気遣って、とっておきの店を紹介してくれたのだ。
しかし店に一歩、足を踏み入れた堀川は目の前の光景に驚いてしまった。
よだれ、鼻水、涙…
村上が穴という穴から液体を出しながら、至福の表情で、葉巻の様なものを吸っていたからだ。
村上は煙草すらやらなかったはずだ。
一体どうしたのだ。
狼狽する堀川に対して、村上が説明を始める。
彼が吸っているのは葉巻ではなく「夢巻」であること。
そして、「夢巻」は、特殊な処置をした紙で燃やして吸うことにより、その紙に込められた思いを追体験できるものであるということを。



「夢巻」、意外といいじゃないですか。
いえね、このブログで何度も書いている通り、私、青春アドベンチャーではしっかりとした原作が付いた硬派な冒険ものをラジオドラマにして欲しいと常々思っている訳です。
そのため、「不思議屋シリーズ」や「ライフシリーズ」など、青春アドベンチャーで時々放送されるオムニバス形式の1話15分の短編作品集には、あまり高い評価を付けないことが多いのです。
もちろんオムニバス作品のファンを否定するつもりではなく、そういう作品もあっても良いと思っています。
あくまで個人の趣味嗜好の問題。

最終回に注目

ではありますが、この夢巻はなかなかイイ!
特に、第5回の「星を探して」はなかなか気に入りました。
「曜日をカスタマイズできる世界」というだけでは単なるトンデモ設定のファンタジーですが、「星曜日」(せいようび)という発想が何だか宮沢賢治チックでとても素敵じゃないですか。
この回だけなら格付けもAAにしたいくらいです。

その他の回も多彩

その他の回も、部下がいつの間にか別人に入れ替わっている「白石」(第2回)、大根で人を切る”大根剣”の争いを描く「大根侍」(第3回)、紙に押した印影が逃げ出す「印鑑騒動」(第4回)となかなかバラエティーに富んだお話。
原作者の田丸さんは「星新一の孫弟子」という何とも微妙なキャッチフレーズで売り出されているようですが、あまり星新一くささは感じられず、むしろもっとファンタジー寄りのお話が多いように感じました。

不思議だけど違和感はない

また、考えてみると、本作品の奇妙な世界観は「不思議屋シリーズ」にも似た印象も受けます。
しかし、脚本家の競作である「不思議屋シリーズ」と違って、ショートショートを得意とする田丸さんが一貫したシリーズとして書いたからか、とても聞きやすい作品という印象を持ちました。
聞きやすいという意味では、夢巻を吸い終わってからバーで「堀川」と「村上」がさりげなく作者の意図を伝えるセリフ(例:第2回であれば「誰もが自分は他人と替えのきく存在であることを潜在的に恐れているのでは」)が入るなど、親切設計であることも聞きやすい原因であると思います。
青春アドベンチャー初登場の脚本家、ふじきみつ彦さんは、これからも注目ですね。

連絡短編形式の良作

実はこの作品、第1話は「村上」と「堀川」の過去を追体験する作品であり、これを聴いた段階では過去の体験をノスタルジックに追体験する回が続くのだと思っていました。
しかし、第2話で体験する内容は過去に合った現実の出来事ではなく、誰かの思いを拡大・再構築した内容であり、夢巻の効果は明らかにファンタジー方向に振れていきます。
この辺では個人的にはあまり嬉しくないなあ、と思っていたのですが、拒否反応を示すほどではない良作が続いた後に、「星を探して」で締まったので、なかなか良い視聴後感が残りました。
確かに名刺だって手帳だって、色々な思いがこもっているんですよねえ。
同じような構成(キーとなる場所・人に戻ってくる形式のオムニバス)を取る「なぞタクシーに乗って…」や「神南の母(ママ)の備忘録(メモワール)」、あるいは「僕たちはもう帰りたい」と比較しても一番のお気に入りです。

マギー(おっさんの方)

さて、本作品の主役である「堀川」を演じるのは俳優のマギー(男性)さん。
ハーフのモデルのマギー(女性)さんではありませんし、ましてや「マギー四郎」さんや「マギー審司」さんではありませんよ。
マギーさんは青春アドベンチャーではすでに「ロズウェルなんか知らない」や「プリセス・トヨトミ」などでのユーモラスな演技が印象的でしたが、今回はついに主演。
もともとは明治大学の演劇サークルのメンバーで結成された演劇集団「ジョビジョバ」のリーダーで、現在ではテレビドラマや映画など多方面で活躍されています。

蟹江一平さんも好演

また、もう一人の主役ともいうべき「村上」を演じたのは蟹江一平さん。
蟹江敬三さんを父に持つ俳優さんで、青春アドベンチャーでは「ゼンダ城の虜」、「ゼンダ城の虜~完結編・ヘンツォ伯爵」で主演されています。
本作品、夢巻を吸って不思議な世界に入っていくのは基本的には「堀川」なのですが、第3回のみ「村上」が吸う立場になりこの回のみ、蟹江さん主演と言っても良いと思います。

ほかの出演者も面白い

その他、お笑いコンビ「ラバーガールズ」のふたり(大水洋介さん・飛永翼さん。どういう縁で声がかかったのでしょうかね?)が出演されていたり、相変らず小林勝也さんの声は渋かったり、全般的にユーモラスでありつつ安心して聴けるキャスティングです。
本作品、NHK本局の制作ではなくNHK松山局の制作なのですが、意外とやるな松山局。

ところで、これ大丈夫なの?

それにしても一つだけ疑問が残ります。
「穴という穴から液体を出しながら至福の表情」とか「特殊な処置をした紙を燃やして吸う」とか、これって改めてみると完全にヤバいものなのでは?
堀川!、村上! 大丈夫か?騙されていないか?
マスター(演:ジェフ・ゲダート)!これって本当に安全なのですか!?
「だいじょ~ぶ~ お楽し~み~ください~」(byマスター)

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