宇宙怪人と少年探偵団 原作:江戸川乱歩(アドベンチャーロード)

格付:C
  • 作品 : 宇宙怪人と少年探偵団
  • 番組 : アドベンチャーロード
  • 格付 : C+
  • 分類 : 推理
  • 初出 : 1989年7月31日~8月18日
  • 回数 : 全15回(各回15分)
  • 原作 : 江戸川乱歩
  • 脚色 : 大野哲郎
  • 音楽 : 桜田誠一
  • 演出 : 上野友夫
  • 主演 : 広川太一郎

ある日、東京・銀座の上空に空飛ぶ円盤が現れ、居合わせた多く人々を驚かせた。
しかしそれは怪異の始まりに過ぎなかった。
やがて、空飛ぶ円盤はニューヨークやモスクワなど世界のあちこちに出現し、さらには円盤から現れた有翼の蜥蜴人間(=宇宙怪人)が世界中の有名人を誘拐する事件まで起きる。
発明家の虎井博士など、宇宙怪人による地球侵略に警鐘を鳴らす者も出現し、世界中が大混乱に巻き込まれる。
人類はこのまま宇宙怪人になすすべなく侵略されてしまうのか。
対応に困った警視庁は、日本が誇る名探偵・明智小五郎と少年探偵団に、この難事件の解決を依頼するのだが。




江戸川乱歩さんの原作の少年探偵団シリーズの小説をラジオドラマ化した作品です。
原作は「宇宙怪人」と「電人M」の2作品で、第1話~第9話が「宇宙怪人」、第10話~第15話が「電人M」に相当します。
両作品とも宇宙人絡みのネタの作品ですので、ひとまとめにしたものと思われます。
名探偵・明智小五郎役はもちろん広川太一郎さん。
犯人役の羽佐間道夫さん(「犯人」とぼやかしても羽佐間さんが演じている時点で正体はバレバレなのですが)と併せて希代の名コンビと言っても過言ではありません。

最後の少年探偵団

少年探偵団シリーズは何度となくラジオドラマ化されていますが、「アドベンチャーロード」では1980年代後半に5作品(「妖怪博士と少年探偵団」、「魔人復活 第1部 青銅の魔人」、「魔人復活 第2部 地底の魔術王」、「透明怪人と黄金どくろの謎」、本作品)が制作されています。
これらのうち本作品は一番最後に制作された作品です。
アドベンチャーロードの後番組であるサウンド夢工房で、演出の上野友夫さんを始めとするほぼ同じスタッフで、「元祖江戸川乱歩の奇妙な物語」が制作されています。
これにも広川さんは出演されており、4篇のうち1篇である「屋根裏の散歩者」で明智小五郎を演じてはいますが、分量としてはわずか。
そのため本作品は広川さんがラジオで本格的に明智を演じた最後の作品なのだと思います。
広川さんの円熟した明智小五郎の演技を聴くだけでも価値があると思います。

いや、いつもどおりでしょ

さて、物語はいつものとおり東京に「世にも恐ろしい怪事件」が起こることからはじまります。
今回の事件はUFOと宇宙人。
東京の空にUFOが出現し、何千人もの人が目撃。
そして丹沢山中に墜落したUFOからは世にも恐ろしい怪物が…
例によって明智小五郎は「何か途方もない事件が起こる前触れかも知れない…」と呟くわけですが、正直これには「明智先生、あなた、どうせ“ヤツ”の仕業だって見当付いているんでしょう?」と突っ込みを入れたくなります。

いや、明らかに彼でしょ

特に本作品での“ヤツ”の振る舞いは、ほとんど単なる愉快犯です。
前半の「宇宙怪人」はまだしも世界中を舞台にした馬鹿みたいに大がかりなイベントととらえることができますが、後半の「電人M」は明智探偵一党をターゲットにした単なる悪戯の感が否めません。
こんなことをするヤツは日本はおろか世界でも彼しかいないと思うんですけど。
この「初期の少年探偵団作品における“ヤツ”は一応、目的を持って窃盗をしているのに対し、後期の作品における“ヤツ”は世間を騒がせること自体が目的としか見えない」ことから、「怪○二○面○(ほとんと伏せ字になっていない…)は二人いる」と唱える研究者もいるそうです。

無粋なツッコミはやめましょう

この説を下敷きにして作られたパスティーシュ作品が「怪人二十面相・伝」な訳ですが、これを踏まえて改めて本作品を聴いてみると、明智も分かって楽しんでいるのかも知れないという気もしてきます。
よって、この辺の疑問は大人しくスルーして楽しむが吉、だと思います。

雰囲気を楽しめばOK

ただし、本作品前半の「宇宙怪人」の謎解きは、証人とされた人たちが単に○○していただけというかなり乱暴なものです。
また「透明怪人と黄金どくろの謎」にあったパズル的な要素もありません。
そういう意味で典型的な後期の少年探偵団シリーズものですので、推理ものとしてはあまり期待はしない方が良いのは確かだと思います。
中西龍(なかにし・りょう)さんナレーションに象徴されるノスタルジックな雰囲気を楽しむ作品だと思います。

芸術的なマンネリズム

さて、スタッフとキャストは先に紹介にした「透明怪人と黄金どくろの謎」の記事をご覧下さい。
とにかくこの少年探偵団シリーズ5作品全てが、ほとんど同じスタッフ、キャストで制作されており、全体の雰囲気がきっちり統一されています。
その雰囲気を一言で言うと「ザ・ラジオ」という感じ。
正直言って、1980年代の当時ですら、少し古くささを感じるような、コテコテの演出でした。
そして中西龍さんの雰囲気たっぷりのナレーションや、長坂あかりさんの歌謡曲調の「怪人二十面相テーマ」がこれに拍車を掛けています。
そのノスタルジー感はもはや芸術の域に達しているといっても過言ではありません。
その意味でも一聴の価値があると思います。

各回のタイトル

最後におまけとして本作品の各回のタイトルを記すと以下のとおりです。
ノスタルジック感、満載でしょう?

  1. 黄昏の空に消え行く不気味な影
  2. 翼をつけたトカゲ男
  3. 美貌の天才バイオリニスト
  4. 闇にうごめくシルバー仮面
  5. 樫の木よ、魔法の言葉を
  6. 虎井博士の奇妙な館
  7. 超ウルトラ級の潜航艇
  8. 刻々迫る最後の危険
  9. 恐るべき悪の天才
  10. 月世界へおいでなさい
  11. 遠藤博士の大発明
  12. ああ、密室のガレージから
  13. 四角な窓と秘密な箱
  14. 不思議な電気の部屋
  15. さらば怪人二十面相

【アドベンチャーロードの少年探偵団シリーズ】

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