- 作品 : 四捨五入殺人事件
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : C+
- 分類 : 推理
- 初出 : 2022年4月11日~4月15日
- 回数 : 全5回(各回15分)
- 原作 : 井上ひさし
- 脚色 : 井出真理
- 音楽 : 和田貴史
- 演出 : 吉田浩樹
- 主演 : 加藤諒
僕、若手作家の藤川武臣は編集者の荒木さんから東北・五ツ郷市へ講演に行って欲しいとの依頼を受ける。
というのも文壇の大御所・石上克二が一緒に講演をするというのだ。
石上は文朝文学賞の選考委員をしている。
文学賞が欲しければ今のうちに親しくなった方がいいとのことなのだが、何のことはない、体よくわがままオヤジのお世話係を押し付けられた格好だ。
初めての講演と石上先生のお世話で神経をすり減らした僕は、講演終了後ようやく観光課の用意した宿、インターネットも使えない山奥の鬼哭(おになき)温泉郷に辿り着いた。
しかし、そこで僕を待っていたのは暴風雨による橋の決壊、集落の孤立、そして殺人事件だった。
本作品「四捨五入殺人事件」は昭和・平成を代表する小説家にして脚本家、直木賞と谷崎潤一郎賞と菊池寛賞と日本SF大賞と星雲賞と岸田國士戯曲賞をすべて受賞している井上ひさしさんの小説を原作とするラジオドラマです。
井上ひさしさんといえば
当ブログで紹介した井上ひさしさんの原作作品としては「ふたりの部屋」時代の「十二人の手紙」がありますが、セリフの総てを手紙文で構成するという凝った良作でした。
一方、本作品の原作小説「四捨五入殺人事件」も井上ひさしさんの代表作「吉里吉里人」の習作と言うべき要素を持つ少し変わった性格の作品のようです。
期待せざるを得ない
また本作品を脚色したのはラジオドラマの脚本に手慣れた井出真理さん。
青春アドベンチャーではコテコテの冒険ものこそ関わっていないものの「ザ・ワンダーボーイ」「ウォーターマン」などの快作を手がけています。
これだけ条件が揃うと良作を期待せざるを得ないところですが…
推理モノとしては不十分
あくまで個人的な感想ではありますが、残念ながら十分に期待通りではありませんでした。
まず本作品はいわゆるクローズド・サークルといわれるジャンル(閉鎖的な状況、限られた登場人物間で事件が起こるタイプ)の推理作品なのですが、場面展開の緊張感や謎解きの面白さといったエンタメ作品として必須の要素があまり感じられなかったこと。
いくらなんでも事件の最後の真相判明は雑だと思います。
問題提起としてもピンとこない
また、その謎解き(犯人探し)とも関係するのですが、タイトルの由来にもなっている日本の農業問題というテーマがいまひとつピンとこないつくりになっていること。
原作小説は雑誌掲載が1975年、単行本発刊が1984年という古い作品ですが、農業問題については現代の社会情勢に合うように修正はされています。
ただそれがゆえに農業と工業、農村住民と都市住民を対比させたうえで日本農業の抱える問題を描いた切迫さは薄くなっているように感じました。
こうなったら…
ラジオドラマ化して欲しい作品として紹介した小説「蒼茫の大地、滅ぶ」で書いた東北の長い苦難の歴史を考えれば、地方vs中央をクローズアップしても面白かったのではないかと思いました(事故を起こした「東京」電力の発電所はなぜ「東北」にあったのかという意味で今日的でもありますし)。
まあ全5回で収束できるテーマではありませんね。
いっそのこと「吉里吉里人」をこそラジオドラマ化すべくなのかも知れません。
補足させてください
なお、本ブログにおける格付けが低いのは、前記の理由から私が本作品に対して事前に不必要なまでに期待していたからだと思います。
一般的な作品の出来自体は別に悪くありません。
本ブログの評価はそういった個人的な事情込みのものとご理解ください。
加藤諒さん本年2作目
さて本作品で主役の藤川を演じたのは俳優の加藤諒さん。
2022年第1弾の青春アドベンチャーであった「柳生非情剣」で柳生宗冬を演じてからわずか3カ月での再登板です。
本作では加藤諒さんのビジュアルから容易に連想できるコミカルな演技で「柳生非情剣」以上に加藤諒さんらしい役です。
また、大御所作家石上を演じた影山泰さんも役にぴったり。
陰山さんといえば「鷲は舞い降りた」のリーアム・デブリンですが、本作でも石上の大物感、スケベおやじ感を無理なく両立されており、さすがです。
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