- 作品 : ほかの誰でもないアヤコ
- 番組 : FMシアター
- 格付 : B
- 分類 : 幻想(日本/シリアス)
- 初出 : 2016年9月17日
- 回数 : 全1回(50分)
- 作 : 鈴江俊郎
- 音楽 : 谷口尚久
- 演出 : 笠浦友愛
- 主演 : イモトアヤコ
気が付くと、空中に自分がいた。
何というドジ。
階段から盛大に落っこちたのだ。
ヤバい…
しかし、目覚めたらお花畑にいた。
助かったのか?
いや、目の前にいる「死神のお使い」と自称する男によれば、まだ、生死の狭間にいるらしい。
しかも、この男に、自分が生きる値打ちのある人間であることを納得させられないと本当に死んでしまうらしい。
しかも45分の間に。
マジか…
本ラジオドラマ「ほかの誰でもないアヤコ」は、お笑い芸人イモトアヤコさんを主演に据えたラジオドラマです。
意外と女優業に積極的
イモトアヤコさんといえば、日本テレビの「世界の果てまでイッテQ!」の「珍獣ハンターイモト」のコーナーで一躍お茶の間の人気者になったお笑い芸人さん。
幅広い出演者層をもつNHK-FMのラジオドラマでもお笑い芸人さんが主演する作品はなかなか珍しいのではないでしょうか。
ちなみにイモトさんは、イッテQでは「珍獣ハンター」だけではなく、「イッテQ登山部」などの活動もあり、番組のロケで世界中を飛び回る多忙な生活を何年も続けていますが、その中でも意外と精力的に女優としての活動も続けています。
TVドラマでは2010年の「99年の愛~JAPANESE AMERICANS~」が初出演で、2014年には「最高のおもてなし」で初主演。
合計6作品に出演されており、その他にも2016年には朗読劇「ラヴ・レターズ~2016 The Climax Special~」にも参加されています。
イッテQと同じノリ
で、そのイモトさんの演技なのですが…結構悪くないです。
もともとイッテQでのイモトさんのコーナーって、バラエティとは言いつつ、珍獣や登山それ自体よりも、トラブルが起きた時のイモトさんのリアクションや喜怒哀楽の表現自体が見せ場になっています。
「水曜どうでしょう」や「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」と同じような作りですね。
本作品は、ロケでのイモトさんのリアクションをそのままラジオドラマにしたよう作品ですので、いつものイッテQのままのノリで演技されているのが良かったのかもしれません。
女優イモトアヤコに期待
イッテQの番組中でも「自分には何にもない」と、突然ブレイクして勢いだけで続けてきたことに対する危機感を漏らす場面もあったりしました。
芸域を広げようと色々考えてのことだと思いますが、こんな地味なラジオドラマ番組のオファーまで受けるところをみると、意外と真剣に女優業に取り組んでいるのかもしれません。
実際、ロケの合間に台本を読んだりするのは大変でしょうね。
設定はありがち
さて、作品の内容は冒頭に書いたとおり、アクシデントで死にそうになった普通のアラサー女子アヤコのもとに、「死神の使い」が現れ、彼女の半生を振り返るというものです。
彼女が生き続けるに値するかを45分以内に決めないといけない、という設定ですが、この45分はほぼラジオドラマの残り時間となっているという仕掛けです。
生死の決定権を死神(性格には「死神の使い」)が持っているという設定は「死神の精度」を思い出させられますが、本作では死神の使いとアヤコが正対して過去を巻き戻しながら二人で議論して結論に至るスタイルです。
二兎追うものは…
ただ内容は…
どうなんでしょう、個人的には「二兎追うものは一兎も得ず」だったのではないかという印象を受けました。
本作品のアヤコはいわゆる「都合のいいオンナ」で、自己主張がない、と死神の使いに指摘を受けます。
本当にそうなのか、そうだとしても、だから生きる価値がないといえるのか。そうだとしたらこれからどう生きたらいいのか。
その辺についてのアヤコ自身の振り返りと気づきが本作品の最終テーマであると思うのですが、そこに導くのに「軍国主義」とか「憲法9条」とか必要でしょうか。
いえ「反戦」という要素を否定するつもりは全くないのですが、結局、アヤコの気づきは極めてプライベートなことであり、そこに社会問題を絡ませるのはいささか牽強付会。
料理の仕方はあったはず
確かに、眉間にしわを寄せてこわばった表情で叫ぶのばかりが正しい反戦ではないと思いますし、エンターテイメント性とテーマ性はやり方によっては十分両立できると思います。
しかし本作品の場合、せっかくのイモトさんの勢いのあるしゃべりを取り入れてエンタテイメント性を持たせているのに、反戦の持ち出し方があまりに唐突です。
「晴れたらいいね」や「僕たちの戦争」、「走れ歌鉄!」のようにうまくエンターテイメント作品に昇華できている作品もあります。
もう少しうまくやれたらもっと良かったのにというのが正直なところです。
好評だった様子
という訳で、個人的には(本作品のファンの皆様、ごめんなさい)釈然としないところが残った本作品。
しかし、結構、好評だったのか、10月10日に早くも再放送が決まったようです。
確かにイモトさんの元気の良い声を聴くだけでもファンには悪くない作品だと思います。
あと、ふと思ったのですが、演技をしているときのイモトさんの声って、同じイッテQに出演されている、いとうあさこさんにちょっと似ていると思いませんか?
思ったのは私だけ???
(補足)
谷口尚久さんが作曲された本作品の音楽が配信されています。
作品を聴いて気に入った方はこちらをご覧ください。
(外部リンク)https://itunes.apple.com/jp/album/nhk-fmshiata-hokano-shuidemonaiayako/id1156352705
(追記)2016年9月25日
「世界の果てまでイッテQ! 登山部アイガーSP」を見ての補記です。
本日、上記の番組でイモトアヤコさんがアイガーに登攀する様が放送されたわけですが、相変わらずスゴイ。
アイガーですよ。
さすがに例の北壁ではありませんでしたし、下山のヘリコプターはご愛敬ではありましたが、相変わらず「偉大なる一般人」としてよくやっていると思います。
ところで、この記事で紹介している「ほかの誰でもないアヤコ」ですが上でも書いた通り、10月10日の再放送が決まっています。
- 9月17日:「ほかの誰でもないアヤコ」初放送
- 9月25日:「登山部アイガーSP」放送
- 10月10日:「ほかの誰でもないアヤコ」再放送
…NHKスタッフ、狙いすぎです。
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