晴れたらいいね 原作:藤岡陽子(青春アドベンチャー)

格付:AA
  • 作品 : 晴れたらいいね
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : AA
  • 分類 : タイムトラベル
  • 初出 : 2016年2月29日~3月11日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 藤岡陽子
  • 脚色 : 山谷典子
  • 音楽 : 川田瑠夏
  • 演出 : 藤井靖
  • 主演 : 原田樹里

それは昏睡を続ける95歳の患者、雪野サエの病室に着いた時のことだった。
突然の地震。
慌てた24歳の看護師・高橋紗穂(たかはし・さほ)が気が付くと、そこは太平洋戦争中のフィリピン・マニラだった。
驚く紗穂だが、自分の体が自分のものではなく、若き日の従軍看護婦・雪野サエの体であることにも驚く。
これは悪夢か。
でも、夢にしては覚める気配がない。
まさかタイムスリップ?
とにかく、日々を生き抜くために、「紗穂」は「サエ」として生活を始めるのだが…



このラジオドラマ「晴れたらいいね」は、藤岡陽子さんによる同名の小説を原作とする作品です。
原作者の藤岡さんは元報知新聞の記者だそうですが、同時に看護師資格も持っていらっしゃるそうです。
「戦争」+「看護師(看護婦)」という組み合わせは、まさに藤岡さんのバックボーンを踏まえた作品だとわかります。

あの名曲との関係

なお、DREAMS COME TRUEさんの有名なポップス「晴れたらいいね」とは関係ありません…といいたいところだったのですが、実は関係なくもなく…
この辺は、実際に聴いての(読んでの)お楽しみです。

青春アドベンチャーの一大勢力

さて、青春アドベンチャーでは数々のタイムトラベルものが放送されています。
近年の作品だけでも、過去に行く形の「ニコイナ食堂」や逆に未来に行く「スペース・マシン」など。
記憶を持ったまま人生を繰り返す(タイムリープ)ものとしては「リテイク・シックスティーン」(←本当にリプレイしているかは微妙ですが)がありますし、本作品と類似する、過去に存在した他人の体に入る形の作品としては「小袖日記」が印象的ですね。
調べてみると青春アドベンチャー四半世紀の歴史で、タイムトラベルものは、この「晴れたらいいね」で17作品目になることがわかりました。

類似する舞台の作品

遡る時代を太平洋戦争期に限っても、「僕たちの戦争」、「珊瑚の島の夢」、「ほろびた国の旅」があります。
本作品は、他人の体に入るという点で「僕たちの戦争」と、南方が舞台という点と最初は自分が夢を見ているのだと思う点で「珊瑚の島の夢」と類似点があります。

戦場のリアル

さて、南方といえば、激戦が行われている、まさにその現場であり、戦局の悪化とともに、主人公の「紗穂」=「サエ」も過酷な撤退行を体験することになります。
彼女は従軍看護婦(もともとは日赤の看護婦だが軍属)としてフィリピンにいる設定ですので、自ら銃を持つことはありませんが、これほど真面目に戦地の「リアル」を描いた作品は、青春アドベンチャーでは過去になかったのではないかと思います。
いうまでもなくここでいう「リアル」とは「英雄的な活躍」とか「奇跡的な脱出」ではなく、「傷病者を置き去りにして自分たちだけ逃げてきた」とか「やっと捕まえたコオロギは貴重な栄養源」とか「服が汚れすぎて変な色になっている」とか「風呂に入れないので臭くて仕方がない」とか「栄養状態が悪すぎて月経がない」とかそういったリアルです。

意外と爽やか

それでもこの作品が過度に暗い話になっていないのは、やはり主人公の「紗穂」=「サエ」の現代っ子らしい明るい性格と、それを演じる原田樹里(はらだ・きり)さんの爽やかな演技のお蔭だと思います。
原田樹里さんは、演劇集団キャラメルボックスに所属し、「ひろくてすてきな宇宙じゃないか」、「カレッジ・オブ・ザ・ウイング」などでは主役も演じている代表的な女優さんのようです。
青春アドベンチャーでは過去には「髑髏城の花嫁」にも出演されていました(ヘンリエッタ役)。

キャラメルボックスと青春アドベンチャー

青春アドベンチャーとキャラメルボックスとの縁は深く、上川隆也さん(天使のリールなど)、大内厚雄さん(エドモンたちの島など)、細見大輔さん(いまはむかし~竹取異聞など)、多田直人さん(小惑星2162DSの冒険など)、坂口理恵さん(白狐魔記など)など折々の多くの作品にかかわってきました。
あたしの嫌いな私の声」や「サンタクロースが歌ってくれた」のようにキャラメルボックス色のとても強い作品もありました。

看護婦たちの群像

その他の登場人物としては、やはりサエの従軍看護婦仲間たちが中心になります。
たくさんいるはずの看護婦たちですが、徐々にドラマの進行は、サエの親友で大人しい藤原美津(演:ハマカワフミエさん)、お嬢様口調が特徴的な岩倉(演:深谷美歩さん)、台湾出身の進藤(演:今泉舞さん)あたりに絞られてきます。
これに、妙に考え方が柔軟でリベラルな佐治軍医(演:石橋徹郎さん。留学経験があるとか裏設定がありそう。それにしてもいつもながらいい声。)、頑固だが看護婦としての責任感がとても強い菅野婦長(演:石村みかさん)あたりを加えたのが主要キャストです。
音楽の川田瑠夏さんのツイートによれば、作中の歌は実際に看護婦役の演者さんたちが歌っているとか。
実際、作品を象徴するとても良いシーンです。

川田瑠香さんの音楽

音楽といえば、川田瑠夏さんは、青春アドベンチャーでも数少ない3作品もの劇伴を担当された(2016年3月時点)方です。
本作品でも、南條由起さん(公式ページはこちら←外部リンク)のヴァイオリン、ヴィオラの演奏を得てとても良い雰囲気をつくりだしています。

現代の視点から断罪?

さて、冒頭に述べたように、本作品は一種のタイムスリップものですが、タイムスリップを生かした複雑な仕掛けがあるわけではなく、それを期待した方には期待外れの作品かもしれません。
しかし、タイムスリップという要素を使うことによって、作品中に現代人の視点を違和感なく持ちこむことができています。
これは逆に言うと歴史上の出来事を現代人の視点から断罪することにもなりかねないやり方ではあります。
しかし、作品中の時代の人物の口から現代的な批判を語らせるよりは、よほどフェアなやり方だと思います。
また、細かい話かもしれませんが、当時の人たちが持っていなかったはずの概念を平気で話すことに、どうして違和感が感じられてしまうことがあります(「鷲の歌」における「自由」など)。
それを回避する意味でも、タイムスリップは良いやり方だと思います。

さぞかし…

それにしても、美津や岩倉は「昭和」の次の元号が「平成」に決まった時にどう思ったんでしょうね。


コメント

  1. コン より:

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    久々にコメント書きます。ブログのデザインも一新されましたね!

    この作品を聴いて感動したところは紗穂が現代に戻ってきて写真を見ながらみんなが無事日本に戻ってきたことを確かめるシーンでした。また、親友藤原美津の形見ですが、以前の雪野じゃないと気付きながらもそんな雪野も大好きと受け入れてくれるところは本当に感動しました。驚いたのは紗穂と過ごした時間が現代に繋がっているところでしたね。
    戦争の惨劇がよく描かれた作品だと思いますし、戦争の惨禍の中でも全力を尽くして生きていく姿、そして仲間を大切にするところに感銘を受けました。面白かったです!

  2. Hirokazu より:

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    コンさま

    ご無沙汰しております。
    お元気でしたか。

    コメント、ありがとうございます。
    本作品、「戦争もの」にしてはとても地味な内容(基本的に看護士が逃げるだけ)なのですが、人気投票してみると意外と上位(2016年の第6位)に入りました。
    色々とよくない方向に世の中が動いているようにも感じられる昨今ですが、このような作品が受け入れられていることに、少し胸をなでおろすような思いもします。

    ブログのデザインは、スマホでも見やすいようにレスポンシブルデザインにしてみました。
    効果はいまのところ全くなく、むしろアクセス数は少なくなっています(涙)
    長期的にでよいので効果が表れるとよいのですが。

    それでは。

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