僕たちの戦争 原作:荻原浩(青春アドベンチャー)

格付:A
  • 作品 : 僕たちの戦争
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A
  • 分類 : タイムトラベル
  • 初出 : 2007年1月29日~2月8日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 荻原浩
  • 脚色 : オカモト國ヒコ
  • 演出 : 佃尚能
  • 主演 : 伊藤隆大

2001年9月。
フリーターの尾島健太とその恋人の鴨志田ミナミは今度の夏に旅行に行く約束をした。
しかし、それは果たすのがとても困難な約束になってしまう。
サーフィン中に大波にのまれた健太は、1944年の世界へとタイムスリップしてしまったのだ。
一方、1944年9月。
アメリカとの戦いに勇躍飛び込まんとしていた予科練の飛行機乗り・石庭吾一は、来るべき日米決戦から遠ざけられてしまう。
訓練中に海に墜落した吾一は、2001年の世界へとタイムスリップしてしまったのだ。
お互いの立場が入れ替わってしまった二人の若者は、それぞれ元に時代へ戻る道を探し始めるが…



荻原浩さんの小説を原作としたラジオドラマで、いわゆる「タイムスリップもの」の一作です。
荻原さんの作品は2017年現在、青春アドベンチャーで3作品取り上げられているのですが、そのうち2作品がなぜか2007年放送です(もう1作品は2017年の「金魚姫」)。
この2作品は制作局が違う(本作品「僕たちの戦争」は大阪局、もう一作である「押入れのちよ」は本局)のでおそらく偶然だと思いますが、不思議です。
なお、荻原さんは本作品放送の約9年後に直木賞を受賞されることになります。

青春アドベンチャーの一大勢力

さて、青春アドベンチャーではタイムスリップ又はタイムトラベルの要素を採り入れた作品がかなり多く取り上げられています。
今までに紹介した作品の中でも「わたしの彼はポアンカレー」、「蒲生邸事件」、「珊瑚の島の夢」がこれにあたります。
この他に、その名も「タイムスリップ○○」と名付けられた鯨統一郎さん原作・原案の一連のシリーズ(第1作は「タイムスリップ明治維新」)や、タイムトラベルSFの古典「夏への扉」なども青春アドベンチャーで放送されています。
2007年についていえば、本作品のほかにタイムスリップシリーズの第4作品の「タイムスリップ川中島」と、タイム「スリップ」ではありませんが「冷凍人間の復活」が広い意味でこのジャンルに該当します。

必ずしもSF的でない作品も

タイムスリップといえば典型的なSFの要素ではあるのですが、あまりにポピュラーな要素すぎて必ずしもSF的ではない作品もあります。
この場合、作品ジャンル(作品ジャンルについてはこの記事をご参照下さい)を無理に「SF系」にするのをためらわれることも多く、その場合、「幻想系」などを使ったりしていました。
しかし、どうもしっくり来ないことと、比較的多くの作品が該当しそうなので、この際「タイムスリップ」としてジャンルを新設することにしました(その後タイムトラベルに改名)。

現代と太平洋戦争期の交換タイムスリップ

さて、本作品は上記の紹介文のとおり、太平洋戦争期を舞台にしたタイムスリップもので、その点で「珊瑚の島の夢」と同じです。
戦争を描く作品であればそれなりに重い内容になるのは当然ですが、本作の特に前半はあまり悲壮な感じを受ける作品ではありません。
例えば現代にタイムスリップして、現代社会に戸惑う軍人の主人公・吾一の台詞はこんな調子です。
「やはりここは地獄ッ。鬼畜米英に一矢も報わず無駄死にした人間が陥る”アメリカ地獄”なのだッ!」
ちょっと荒木飛呂彦さんの「ジョジョの奇妙な冒険」にも通じるような台詞回しですよね。

序盤は話があまり動かない

その他、序盤は、タイムスリップ自体を除けば大きな事件が起きず、タイムスリップものによくある、時代が異なることによる常識や意識のギャップが作品の主な内容であり、正直、少し退屈な感じです。
そもそも、過去の歴史の知識がある健太は比較的素直に状況を飲み込むことができますが、未来を知らない吾一は健太の部屋にあった「日本史年表みるみる暗記術」を読むまでは自分がタイムスリップしたことすらハッキリと理解していません。
しかし、物語の中盤で自分がタイムスリップをしたことに吾一が気がつき、一方で健太を取り巻く太平洋戦争の戦局が悪化して行くに従って徐々に話が動き始めます。

バランスが取れた描かれ方

とはいえ、公式ホームページで演出の佃さんが書いているとおり、本作はあくまで自分の常識が全く通じない世界に放り込まれるという状況を通して戦争とは何かを考えるファンタジーです。
そのため、昔の日本を妙に賛美することもなく、逆に一方的に否定をするわけでもありません。
また、戦争を「世界の運命が~」的な大スペクタルに仕立てることもなく、逆にいわゆる「セカイ系」のように戦争を無理矢理個人的な問題に帰結させることもありません。
とてもバランスの取れた描き方をしていると感じました。
最終的に健太が叫ぶ「そんなことをしたら歴史が狂っちまう。日本が戦争に勝つとか負けるとかそんな小さな問題じゃない。」というセリフも素直に受け止められる展開でした。
また、物語の結末も(このような表現が適当かわかりませんが)爽やかなエンディングだったと思います。

一人二役

出演は主人公の健太と吾一の二役を伊藤隆大さん。
そしてヒロインのミナミ役は黒川芽以さん。
黒川さんは「珊瑚の島の夢」や「G戦場ヘヴンズドア」などの作品にも出演経験があります。
とても手慣れた出演陣で聴いていて安心感がありました。

オカモト國ヒコさん脚色

なお、本作の脚色担当のオカモト國ヒコさんは、NHK-FMのラジオドラマではおなじみの脚本家さんです。
2013年には青春アドベンチャーでは初めてオリジナル脚本の長編「泥の子と狭い家の物語」を担当。
その後、2015年には名作「人喰い大熊と火縄銃の少女」も担当され、青春アドベンチャーでは珍しいオリジナル長編2作品の脚本家さんになられました。

先行するテレビドラマ版

最後にこの作品なのですが、2005年にTVドラマ化もされているようです。
青春アドベンチャーは有名になる前の作品を「先物買い」するのがとても上手い番組だと思います。
青春アドベンチャーで取り上げられたのちに、TVドラマ化・映画化・アニメ化・漫画化された例は枚挙に暇がありません。
しかしこの作品は既にTVドラマ化されていた作品を、後日敢えて青春アドベンチャーが取り上げた数少ない作品です。
本作は大阪局の制作ですが。この作品への強い思いが感じられる作品チョイスです。


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