不思議屋百貨店 作:北阪昌人ほか(青春アドベンチャー)

格付:B
  • 作品 : 不思議屋百貨店
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : B
  • 分類 : 多ジャンル(競作)
  • 初出 : 1999年11月22日~12月3日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 作  : (下表のとおり)
  • 演出 : 藤井靖
  • 主演 : 千葉哲也、中島ひろ子

本日は不思議屋百貨店へようこそおいで下さいました。
手前どもでは皆様方に人生の不思議なひとときを過ごしていただくための、様々な商品をご用意してお待ち申し上げております。
おっと、今日もちょっと変わったものをお求めのお客様がいらしたようです…



この「不思議屋百貨店」は1999年から2007年に掛けて合計8作品が作られることになる脚本家競作のオリジナル短篇作品集「不思議屋シリーズ」の記念すべき第1作です。
上に書いた各回冒頭の決まり文句は、少しずつ形をかえながら、名声優・永井一郎さんの声とともに「不思議シリーズ」のお約束として受け継がれていくことになります。
この「不思議屋シリーズ」、各作品の主演は各作品ごとに変わる男女1対の俳優さん(本作でいえば千葉哲也さんと中島ひろ子さん)だと思うのですが、シリーズ全作品に同じ立ち位置(案内人)で出演されてる永井さんは「シリーズ全体の主演」と言えると思います。

不思議屋第1作は藤井靖演出

本作品はまた、現在、青春アドベンチャーにおいて主力演出家として活躍されている藤井靖さんの青春アドベンチャーにおけるデビュー作でもあります。
藤井さんの青春アドベンチャーにおける演出作品は、1999年11月の本作品から2017年11月末の「天下城」までで43作品あり、2012年以降は年5作品以上のハイペースで担当をされています。
このペースは1990年代に異常な量の作品を演出されていた川口泰典さんには及びませんが、共同演出が多かった川口さんと比較すると、藤井さんは単独名義の作品がほとんど(共同なのは木村明広さんと演出されている「家守綺譚」と「風神秘抄」だけ)ですので、川口さんに劣らないハイペースだと思います。
でもなぜか不思議屋シリーズで担当されたのは、この「不思議屋百貨店」だけなんですけどね。

第1作目でフォーマットは確立

さて、シリーズのフォーマットは、この第1作でほとんど完成しています。
フォーマットとは、まず出演者は男女1名ずつと永井一郎さんの3名。
そして、各回が1話で完結するオリジナル脚本のショートドラマです。
ただ、後のシリーズでは、1名1作品のことが多いのに対して、本作品では基本的に1名2作品ずつ(北阪昌人さん、井出真理さん、高木美津子さん。森治美さん)で、藤井青銅さんとミラーカク子さんだけが1作品ずつです。
なお、脚本は本作品では青春アドベンチャーでは実績のある方々が務めていらっしゃいますが、後の作品は新人の登竜門的な位置づけになり、実績のない脚本家を登用することも増えていきました。

各回の内容

各回のタイトル、脚本家、ジャンル、格付け、内容及び一言は以下のとおりです。

◆第1話 「月に着がえて」(北阪昌人)

分類 : 幻想(日本)
格付 : B+
「今夜閉店してから翌朝開店するまで間だけこのデパートを買いたい」女性の真意は?


う~ん、ドキドキしますなあ。そして意外と詩的だ。シリーズの第1作として悪くない。

◆第2話 「ビールは二人で」(井出真理)

分類 : 日常
格付 : C+
結婚式の引き出物を選びに不思議屋百貨店にやってきたふたり。でもすれ違ってばかり。


日常の些細な一コマを描いた作品。問題も何となく解決してしまう、まさに日常系。

◆第3話 「シェフ」(森治美)

分類 : 職業
格付 : B-
シェフが出会った女性は極端な偏食家。美味しいものを知らないなんて損している?


全然「不思議」ではないし、「百貨店」が主な舞台であるわけでもない。

◆第4話 「AからFまで」(高木美津子)

分類 : コメディ
格付 : B-
女に誕生日プレゼントは何がいいと聞いたら「下着」とのこと。これは大変だ。


「AからFまで」下着のサイズともうひとつ。永井さんの推薦は「ガーター付き網タイツ」。

◆第5話 「懐かしのメロディー」(藤井青銅)

分類 : コメディ
格付 : B-
買った皿をその場で割る客。あるメロディを思い出すために必要な行為だというのだが。


藤井青銅さんも不思議屋で書いていたんだ!藤井さんらしいコテコテのオチ。

◆第6話 「ワイン」(北阪昌人)

分類 : グルメ
格付 : A-
友人を偲ぶためにワインを買った帰り道。同じワインを探している女性に出会った。


ワインが小道具だが典型的な日常もの。この頃、ユーゴが戦場だった時期なんだよなあ。

◆第7話 「あの頃の背中」(井出真理)

分類 : 日常
格付 : B+
悪阻の気分転換で入った百貨店。画材屋で20歳の自分が描かれている絵を見つけた。


劇的な展開になりそうでならない。落ち着いた大人向きの作品。

◆第8話 「にぎやかな仏像」(高木美津子)

分類 : 幻想(日本)
格付 : C+
買い物で発散しようと訪れた百貨店。見つけたのはわがままで毒舌な仏像…だった!


仏像の正体は少し唐突ではないか?急に「お○い○ゃん」にしてもあまり感動は…

◆第9話 「約束」 (ミラーカク子)

分類 : 恋愛
格付 : B
あの時からなるべく避けていた場所。肩を叩いてきたのは、あんなに憎んでいたはずの彼。


誤解とその氷解。これほど普通の「ドラマ」らしい作品もないかも。

◆第10話 「贈り物」 (森治美)

分類 : 職業
格付 : B-
百貨店のクリスマスセール。定年の大先輩のため成功させようと張り切る若手社員だが。


催事のアイデアもトラブルを乗り越えるアイデアも、何となくイマイチなのが残念。

大人向けの良質なドラマ

日常生活や仕事をテーマにした作品が多く、「不思議屋」の名前にも関わらず、非現実的な出来事が起きない回が大部分を占めます。
そして後の不思議屋シリーズで散見される、子供向け?の幼稚な作品は見受けられません。
「不思議屋」シリーズで最も「普通のドラマ」色が強い作品と言えるでしょう。

演技もプレーンで好感が持てる

その雰囲気をより強固にしているのが、千葉哲也さん(タランの白鳥)・中島ひろ子さん(ふたり)の出演者のおふたり。
おふたりの、とにかくクセのない声と個性を殺したしゃべり方が、本作品を自然に聴ける、聞きやすい作品にしています。
特に千葉さんは、後年の青春アドベンチャー「タランの白鳥」や「白狐魔記 蒙古の波」、「らせん階段」で、かなりクセの強い演技・ナレーションを披露していますので、本作品は意図的にアクを抑えたのだと思います。
さすがです。


【30周年記念全作品アンケート】
2022年に当ブログが独自に実施した青春アドベンチャー30周年記念・全466作品アンケートの出演者編において、本作品に出演している永井一郎さんが5票を獲得し8位になりました。
リスナーの感想等の詳細はこちらをご覧ください。


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