ヨコハマ・ジャスミンホテル 作:吉田小夏(青春アドベンチャー)

格付:B
  • 作品 : ヨコハマ・ジャスミンホテル
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : B+
  • 分類 : サスペンス
  • 初出 : 2021年5月10日~5月21日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 作  : 吉田小夏
  • 音楽 : 川田瑠夏
  • 演出 : 藤井靖
  • 主演 : 平埜生成

関東大震災から3年後の横浜。
客と揉めて洋食屋を追い出された清水桂吉(けいきち)が転がり込んだのは、本牧にあるジャスミンホテルというチャブ屋、すなわち外国人相手の娼館だった。
コックの見習いとして働く桂吉だが、トラブルに巻き込まれながらも横浜に拘る桂吉には横浜でないといけない理由があった。
それは人探し。
サファイアの指輪を持つ女とルビーのついた懐中時計を持つ男を探すために桂吉は横浜に来たのだ。
異人ではないけど青い瞳を持つふたりを。


本作品「ヨコハマ・ジャスミンホテル」は大正末期の横浜を舞台にしたラジオドラマです。
関東大震災と言えば真っ先に思い浮かぶのは壊滅した東京の風景なのですが、神奈川県や伊豆半島などの被害も大きく、横浜も甚大な被害があったのだそうです。
私も山下公園が関東大震災のがれきで出来ていたとは知りませんでした…

国際都市ヨコハマの表と裏

それはともかく、主人公・桂吉は料理人だった父に死に別れ、そんな復興途上の横浜にやってきたばかりの青年なのですが、落ち着いたホテルがよりにもよってチャブ屋と呼ばれる娼館。
田舎から出てきたばかりの青年にとってはむろんドキドキものなのですが、チャブ屋というのは単なる売春宿ではなく、ジャズで踊ることを目的とするダンスホールでもあり、「日本のムーラン・ルージュ」(ムーラン・ルージュをモデルとしたと思われるキャバレーが舞台の作品はこちら)なる洒落た呼び方もあることからもわかるように、横浜のある種の文化を体現する場所でもあります。
もちろん清廉潔白なだけの文化ではなく売春やアヘン売買などの負の側面もちらつく展開。
そして桂吉自身、血気盛んな若者という一面とは違う、19年前に起きた何らかの事件の影を背負っている側面もあるのですが…

物語は正統派

物語自体は異国情緒たっぷり(なぜか「嘘か真か」に続いて2作品連続のロシア推し…)ではありますが、退廃的な大正期の横浜文化を背景として割と淡々と進んでいき、大きな事件は起きません。
桂吉の人探しを縦糸に、娼館の人間模様を描きつつ、シンプルな結末に辿り着く展開。
落ち着いた品の良い作品に仕上がっていますがアドベンチャー度はやや薄く、ジャンルを「サスペンス」に分類するのにもやや迷う作品でした。

藤岡さんの雰囲気が生きている

さて、主役の清水桂吉を演じたのは俳優の平埜生成さん。
2018年の「カムパネルラ」に次いで2作品目の主演ですね。
また、桂吉の探索の対象となる男女を演じたのは藤岡正明さんと石川由衣さん。
夢みるゴシック」シリーズの主役ペアです。
石川さんは子役時代の「しゃばけ」(2002年)から継続的に青春アドベンチャーに出演されている常連さんですし、藤岡さんも近年「暁のハルモニア」(2018年)以降、頻繁に出演されている方。
藤岡さんは舞台っぽい少し気取ったしゃべり方と特徴的な声(映像のないラジオドラマは声と話し方に個性があることがとても重要!)なのですが、少し退廃的で厭世的な本作品の役はそれらの中でもとくに印象的でした。
そろそろ藤岡さん単独主演作を聞きたい気がします。

石川さんと綿引さんの歌声

また本作は歌も印象的な作品。
青春アドベンチャーで「歌わされる率」が異常に高い石川由依さん(最近では「時めがね金沢うた絵巻」)ですが、本作でも(子守歌ではありますが)歌っています。
そして何より綿引さやかさんの歌がパワフル。
さすが「レ・ミゼラブル」にも出演された本職のミュージカル女優です。


(補足)
当ブログで実施した2021年青春アドベンチャーリスナーアンケートで当作品が得票数第3位に輝きました。
詳しくは別記事をご参照ください。





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