- 作品 : 阪堺電車177号の追憶
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : A-
- 分類 : 日常
- 初出 : 2020年4月6日~4月17日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : 山本巧次
- 脚色 : 山本雄史
- 音楽 : 小林洋平
- 演出 : 渡邊良雄、松本仁志
- 主演 : 徳井優
大阪市南部と堺市を結ぶ阪堺電気鉄道、通称「阪堺電車」は大阪唯一の路面電車、いわゆる「チン電」や。
その中でも、わし117号は最も古い車両。
毎日線路の上を走り続けて87年、ベテラン中のベテランや。
そやけど、そのわしにもついにお迎えがきたんや。
けど不思議と残念な気はおこらんな。
今まで乗せてきたお客さんは何百万人、いやそれ以上や。
そう思たら誇らしいわ。ありがたいこっちゃ。
そやけど、これまでいろんな時代に、いろんなことが起きたわな…
2017年の「UFOはもう来ない」、2018年の「時砂の王」、2019年の「高天原探題」と、ここ数年、春先の青春アドベンチャーではNHK大阪局がSFラジオドラマを制作するのが通例でした。
本作品「阪堺電車177号の追憶」もハヤカワ文庫JAから発刊されている小説を大阪局がラジオドラマ化した作品ですので、一見、今年もSFかと思えるのですが…さにあらず。
SF要素は欠片もない作品です。
SFでもなくファンタジーとも違う
上記のあらすじのとおり、擬人化した電車が主人公ですので、それではファンタジー作品なのかというと、これもまた違う。
確かに一応、徳井優さんが演じる177号が主人公ではあるのですが、177号が登場人物として積極的に各話のストーリーに絡むことはない(何せ電車ですので…)ので、徳井さんの位置づけは事実上「ナレーター」です。
本作品、基本的には2回30分で1話の連作短編なのですが、その各話の内容は端的にいうと「ちょっといい話」、言い換えれば「人情物」に分類される作品と言って良いでしょう。
少しだけミステリー仕立て
そのため本ブログでのジャンルも「日常」としたのですが…
単なる日常が描写される作品でもないのです。
まず各話ともちょっとした謎解きが入っている。
例えば、最初の舞台となる昭和8年を舞台とする話(第1回~第2回前半)では「質屋の欄干に干されている手ぬぐいの色を利用した通信の秘密」。
例えば、第3話ともいうべき昭和34年の話(第4回~第5回)では「小学生が拾った財布を届けなかった理由」。
各話のつながりが面白い
また、第2話ともいうべき戦時中の話(第2回後半から第3回)で一応解決したと思っていた話が大阪万博を舞台にした第4話(第6回)で真相が明かされたうえで次のドラマが追加されるなど。
他にも、各話ごとに少しずつ登場人物たちが年齢と立場を変えて再登場してくるのが面白い。
上に書いたように、第4話は第2話の主役ふたりが再登場する話ですし、その他にも、あの回の登場人物の娘がとか、あの回で子供だった登場人物が大人になって…というのが頻発します。
これはボーっとしていると遠慮なく先に進んでしまうラジオドラマではかなり危険なやり方で、実際、聴いていて分かりづらい側面もあるのですが、やはり連続して聴いていると楽しい趣向ですよね。
青春アドベンチャーの過去の作品でいうと「ウォーターマン」とか「ラジオの前で」ほど意外な展開ではなかったものの、最終回の締めへとつながる展開は綺麗だと思います。
共通するキャラクターと演者
なお、回をまたいで登場した登場人物とそれを演じた役者さんを一覧表にすると以下のとおりです。
時代の移り変わりとともに同一の登場人物でも演者が変わっています。
また、昭和8年を描いた第1話(第1回・第2回)とバブル期を描いた第5話(第7回・第8回)は他の回と重複する登場人物はいませんが、第1話登場の井ノ口(演:野田晋一さん)の娘である雛子が、その後のこの作品の縦糸になっている関係にあります。
話数 | 2話 | 3話 | 4話 | 6話 | 7話 |
---|---|---|---|---|---|
放送回 | 3回 | 4・5回 | 6回 | 9回 | 10回 |
年代 | 戦時中 | 昭和34年 | 昭和45年 | 平成24年 | 令和2年 |
上西(井ノ口)雛子 | 谷村美月 | - | 谷村美月 | 宮田圭子 | 宮田圭子 |
中崎(北田)信子 | 柊子 | - | 柊子 | - | - |
榎本章一 | - | 永沼伊久也 | - | - | 小松健悦 |
榎本(寺内)奈津子 | - | 久保史緒里 | - | - | 麻生えりか |
池山典郎 | - | 二宮輝生 | 中村凜太郎 | - | 田中孝史 |
主演は一応、徳井優さん
さて、主役の177号を演じたのは、「神南の母(ママ)の備忘録(メモワール)」以来2度目の青春アドベンチャー主演となる俳優の徳井優さん。
もちろん大阪市出身。
徳井さんと言えば「引越しのサカイ」のCMキャラクターとして有名になった方ですが、「引越しのサカイ」は大阪府堺市の企業だったのですね。知らなかった。
ただ実際に話を進める実質的な登場人物たちは各話ごとに入れ替わりますので、主要キャストを演じる俳優さんも各話ごとに入れ替わります。
乃木坂46の久保史緒里さん出演
本作品で特に言及したいのは女性陣。
第1話(美弥子)・第3話(奈津子)では久保史緒里さんがヒロインを、第2話・第4話(雛子)では谷村美月さんが主役を演じています。
谷村さんは「ミラーボール」や「ニコイナ食堂」、「なにわ純情ナイトメア」で言及しているのでもはや何も言う必要はないのですが、乃木坂46の久保史緒里さん、悪くないじゃないですか。
2021年には同じ元乃木坂46の井上小百合さんが「世界から歌が消える前に」に出演されていますが、こちらも悪くない。
久保さんを現役アイドルという色眼鏡で見ていたわけではないのですが、経歴を見てもさほど演技経験が豊富とは思えません。
でも堂々たるものです。
もう少し聞いてみたかった気もします。
また、第2話・第4話の裏主役ともいえる中崎(北田)信子を演じた柊子さんも朝ドラ「まれ」での助演で注目を浴びた方です。
意外と女性陣が目立つ作品ですね。
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