- 作品 : 世界から歌が消える前に
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : B+
- 分類 : SF(その他)
- 初出 : 2021年12月20日~12月24日
- 回数 : 全5回(各回15分)
- 作 : 今井雅子
- 音楽 : 和田貴史
- 演出 : 山崎涼子
- 主演 : 井上小百合
私の名前はペイトン・ジョイス。
かつては100万人のフォロワーがいる歌い手だったけど、ライブ配信の度に視聴者数が減っていくプレッシャーに耐え切れず活動を停止。
今は、私を追い落としたデゼール・プロジェクのデリバリースタッフとして働いている。
私だけじゃない。
食事や歌、映画から何から何まで、今はデゼール・プロジェクのプロダクツが世界を席巻している。
合い言葉は「もう迷わない、悩まない」「みんなと同じなら間違えない」。
でも、歌を口ずさんでいる私を見て、ある子どもが発した言葉に私は衝撃を受けた。
「ねえ、それなあに?今のが歌?人間も歌うの?」
本作品「世界から歌が消える前に」は今井雅子さんによるオリジナル脚本のラジオドラマです。
タイトルに「歌」といえば
青春アドベンチャーで今井さんが手がけるオリジナル脚本の長編はこれが2作目。
1作目は2016年放送の「走れ歌鉄!」だったため、2作品連続でタイトルに「歌」が入っていることになります。
まきりかさんが脚本と音楽をともに担当された「時めがめ金沢うた絵巻」「輪廻転Payうた絵巻」など、近年ミュージカル風の作品が増えてきた青春アドベンチャーですが、「走れ歌鉄!」は2016年時点では久々のミュージカル風の作品で、終盤、思いがけない出演者までが歌い出すのが印象的でした。
歌も演技も
本作品も、元アイドル(乃木坂46)の井上小百合さんや歌手として芸能界にデビューした夏木マリさん、歌手活動を続けている入野自由さんといった歌えるメンバーを揃えた作品で、実際、作中でかなり歌が入ります。
とはいえ基本的にはストレートプレイの作品なので俳優としての演技も求められます。
主演の井上小百合さんはNHK-FMではFMシアター「手を振る仕事」(2021年4月)に次いで2作品目の出演なのですが、主役であることに加え、演技と歌の双方を求められるこの仕事に相当プレッシャーを感じていた様子は以下のツイートからも窺えます。
不安で眠れなかったお仕事が無事終わり、安堵。
昨日は丸一日頑張りました!⺣̤̬すごいな〜!という方たちに囲まれて、大変勉強になりました
あ〜貴重な時間だったー!!????????そして、2、3年振りに藤井隆さんと現場が一緒に!
やっぱり最高に面白くて魅力的な方でした
(直前までマスクしてたよ〜の図) pic.twitter.com/FgvpzNEm3Z— 井上小百合 (@syr_1214) November 30, 2021
みんなと同じなら間違えない
さて、本作品はいわゆるディストピアもの。
舞台は、Dr.デゼールなる人物が考えたデゼール・プロジェクトで周到に計算された商品が行き渡りストレスなく生活できる世界。
その一方で娯楽は最適化されたAIが提供するものとなり、映画や劇場などが徐々に衰退している最中です。
それどころか芸術性の発露はむしろ不純物として排除する風潮すらあります。
そんな状況に危機感を持ち再び歌い始めたペイトンですが…という、まあ如何にもありがちがディストピアもの。
また、みんなで歌ってハッピーエンドというのは流石にふわふわしすぎだとも感じました。
実は多様性礼賛ではない
ただ本作の印象は意外と悪くありません。
その理由の一つは、ただ単純に多様性を賛美する内容ではないこと。
人との差異を尊び過ぎると、それは容易に差別へも転化しうること、そしていずれの方向に向かうにしろ、同調圧力は暴走しがちであることは「泥棒をつかまえろ!」などでも描かれていたとおりだと思います。
また、リアル感のないふわふわな世界描写、物語展開についても、出演者の声や音楽がすべてファンタージ志向で統一されているので、全体的に統一感のある雰囲気になっていることも評価できるとおもいます。
ただ個人的には、虚構のファンタジー世界ではあるけどリアルな悲惨が仄見える「走れ歌鉄!」の方が好きかな。
元乃木坂46・井上小百合さん
さて、本作品の主役ペイトンを演じたのは上記で書いたとおりアイドルグループ乃木坂46出身の井上小百合さん。
乃木坂46の関係者の青春アドベンチャー出演は「阪堺電車177号の追憶」の久保史緒里さん以来だと思います。
井上さん、アニメでも使われそうなかわいい声の持ち主(2024年「火星ダーク・バラード」ではヒロイン役です)ですが、さすが歌うことを職業にしていただけあり、歌シーンにも十分対応しています。
しかしそれ以上に歌がうまいなあと思わせられたのが声優の入野自由さん(ガブリエル役)。
料理人兼ラッパーという役なのですが、ラップが堂に入っています。
その他の出演者
その他、全5回の短い作品のために、女優の夏木マリさん(大女優シャネン役)、コメディアンの藤井隆さん(休業中の舞台役者エリオ役)、そして「マルモのおきて」で芦田愛菜さんとともに大人気だった鈴木福さん(2022年「滅びの前のシャングリラ」主演)まで揃えしまったのは何とも豪華。
特に鈴木福さん(役どころはナイショ)は最終回しか目立った活躍をしないという贅沢な使い方です。
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