高天原探題 原作:三島浩司(青春アドベンチャー)

格付:A
  • 作品 : 高天原探題
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A+
  • 分類 : SF(日本)
  • 初出 : 2019年3月11日~3月22日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 三島浩司
  • 脚色 : 山本雄史
  • 音楽 : 森悠也
  • 演出 : 木村明広
  • 主演 : 橋本淳

僕はあの時、清美を救わなければ良かったのだろうか。
7年前、京都・桂川の河辺に、どこからともなく降り注いだ大量の土砂。
確かにあの時を境に世界は変わってしまった。
異能者「玄主」(ゲンシュ)と、人知を超えた弁別不能体「不忍」(シノバズ)により再起不能にされた多くの人々。
しかし、目の前で生き埋めになった少女を救わないなんて選択肢があったとは思えない。
たまたまその最初の出現場所に僕が居合わせたからといって、今日の事態に僕が責任をとらないといけないとも思えない。
そう、責任ではない。
責任をとるために僕は「不可識存在問題対処専門委員会」(俗称「高天原探題」)に入ったわけではない。
僕は単に再会したかったのだ。
あの少女に。



ここ数年、NHK-FMの青春アドベンチャーでは、春先にNHK大阪局がSF小説をラジオドラマ化することが、恒例になっています。

大阪局SFシリーズ

具体的には、

そして本作品「高天原(たかあまはら※)探題」であり、この4作品全ては山本雄史さん脚色による作品です(「know」のみ西村有加さんと共同名義)。
ちなみにこのうち「know」を除く3作品は演出(木村明広さん)や音楽(森悠也さん)も同じ。
そして内容面をみても、4作品のうち3作品が「日本人の手によるSFといえばコレ」というくらい有名な早川書房の「ハヤカワ文庫JA」で発刊された作品であることからもわかるとおり、いろいろな意味で割と分かりやすくSFしている作品群です。

(※)一般的には「たかまがはら」ですが、読み方には諸説あり、「たかまが」は中世以降に広まった読み方で、「たかあま」の方が原音に近い可能性が高いとのこと。正直、私は「たかまがはら」と思い込んでいたので、「役者さんの活舌、悪いなあ」と失礼なことを思いながら聴いていましたが原作では明確に「たかあまはら」とルビを振っています。

「設定房」?

ただ、「分かりやすくSFしている」ということが、すなわち「分かりやすいラジオドラマ」であることを意味しません。
ただでさえSFは科学用語や専門用語が出てきやすい傾向にあります(近年の作品だと「小惑星2162DSの謎」に顕著)。
それに加えて若い書き手による作品の場合、よく言えば先鋭的な、悪い言えば独りよがりの、作者が勝手に設定した変な概念による独自の造語も頻出しがち(最近だと「know」に顕著)。
ただ、最近はラノベ界隈で「設定房」(自分独自の世界観や設定を複雑に作り上げることに悦に入ってしまう痛い人々のこと)なる言葉もあるわけですが、少し遡ればアシモフの「ファウンデーション」(銀河帝国興亡史)やトールキンの「中つ国」(指輪物語)なんて、かなり拗らせた房設定(←褒めています)な訳で、古今東西、オタクの考えることなんてさして変わらず、それをことさらに言い立てることに然したる意味はないのかも知れません。

いきなり「ジカイシャ」などと言われても…

で、何が言いたいかというと本作品「高天原探題」でもよくわからない単語が連発されるのです。
しかもメディアが音だけのラジオドラマであることが相性として最悪。
小説であれば充てられている漢字で、ある程度の意味は推測できるのですが、ラジオだとそれもできない。
今回のラジオドラマでも作中でどんな漢字が使われているのかちゃんと説明されているのはキンケイ(禁傾)くらい。
まあ、フンボ(墳墓)、シッケン(執権)、レンショ(連署)、シノバズ(不忍)、クビキ(頸木)、そしてヒカン(被官)あたりまでは、私の浅い歴史知識と、貧困な連想力でもなんとか連想できました。
しかし、ゲンシュ(玄主)、ジカイシャ(持戒者)、クスコロ(久須衣)、ツムカリ(都牟刈)の銅剣、バスコルとか…わかりませんってば。

リスナー置いてけぼり

いや、字を見れば、説明を受ければ、せめてゆっくり考える時間があれば、わかるものもありますけど、これがまたラジオドラマの場合、小説と違ってボーとしているだけで物語はどんどん進んでいくため、ゆっくり振り返っている余裕はなし。
結局、消化不良のまま置いていかれてしまうことになります。
そもそも「動機を殺されて行動不全に陥る」とか難しい言い方をしなくても「精神攻撃を受けて正気を保てなくなる」じゃダメなのか…

で、何がすごいってこのラジオドラマ、このあたりの丁寧な説明をほとんど放棄してしまっていること。
上記の「小惑星2162DSの謎」なんかは、何とかわかってもらおうという脚本家の強い意志を感じたのですが、本作の場合、上で書いたようにキンケイ以外(クスコロもさっと説明あり)ほとんど説明していません。
よって、「ながら聞き」がほとんどできない不親切設計、あるいはハード設定。
ここまで行くと潔いです。

アニメにありそうな設定

しかも内容が何となく深夜アニメっぽいんですよね。
私は具体的には「PSYCO-PASS」くらいしか思いつかなかったのですが、「普通の人間が変容した異能者」(しかも自我喪失状態)や、「人類の知る物理法則を超越した敵」を討伐するって設定、アニメに結構ありそうじゃないですか。
敵を討伐する手段が金属棒で殴るだけっていうのも「ネガティブハッピー・チェーンソーエッジ」や「ひぐらしのなく頃に」を想起させるし…
そもそも「八号玄主」って言い方…「エヴァ」ですか…

オタク臭いが…アリ。

…褒めてないですか?
確かに褒めていないようにみえますねえ。
でも意外といいんですよね、この作品。
仕方なく集中して聞いているからか、あるいは森悠也さんの音楽がいいからか(「時砂の王」にちょっと似ていてヒロイック)、あるいは私も結局、オタクだからか?
なんか、アリですよ、アリなんです。これ。
NHKでもたまにはアリでしょう、こういったオタク臭い作品。
ただ、最後まで聴いても結局、何が何だかわかりませんでしたけど…

ぼんやり主人公

さて、本作品の主演は、2017年の「あおなり道場始末」以来2度目の橋本淳さん。
「あおなり道場始末」の権平(ごんべい)はかなりぼんやりとしたキャラクターだったため、本作品はそれなりに印象が違うのですが、正直、本作品の主人公・寺沢俊樹(てらさわとしき)もイマイチ輪郭がはっきりしないキャラクター。
彼がヒロインの皆戸清美(みなときよみ)に執着する理由がイマイチわかりません。
単なる一目惚れなのか?
しかも、結局、ラストで本当にボンヤリ(?)したキャラクターになっちゃいましたしね。

可愛いから許す

また、ヒロインの皆戸清美(みなと・きよみ)を演じるのは、女優の村上穂乃佳さん。
こういう声のかわいい人(実は外見も美人だけどラジオドラマでは関係ないか)に「いいもんね」とか言わせるあたりが、この作品のオタク臭さを倍加させていると思うのですが…
まあいい。可愛いから許す。

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