これは王国のかぎ 原作:荻原規子(青春アドベンチャー)

格付:A
  • 作品 : これは王国のかぎ
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A
  • 分類 : 異世界
  • 初出 : 2000年3月13日~3月31日
  • 回数 : 全15回(各回15分)
  • 原作 : 荻原規子
  • 脚色 : 入山さと子
  • 演出 : 藤井靖
  • 主演 : 池澤春菜

失恋して泣き寝入りをした15歳の女の子・上田ひろみは目を覚ますと砂漠にいた。
目の前にはターバンを巻いた青年。
彼がいうには、ひろみは今まさに壺から飛びだしてきたところであり、彼を助けるために呼び出された魔神であるはずだという。
全く身に覚えのないひろみだが、自分が空を飛ぶ不思議な力を持っていることに気がつく。
元に世界に戻っても自分の居場所がないと感じていたひろみは、彼、ハールーンとともに、このアラビアンナイトの世界を旅することを決める。



荻原規子さんの小説を原作とするラジオドラマです。
青春アドベンチャー系列で初めて取り上げられた荻原さんの作品は、1989年放送の「空色勾玉」(当時の番組名はアドベンチャーロード)で、この作品は荻原さんご自身のデビュー作でもありました。
一方、本作品は、原作小説が「オペレーション太陽(ソル)」などとと同じ理論社の「ファンタジーの冒険」というシリーズから出ていることからもわかるとおり、「空色勾玉」などと比較すると、やや低年齢向きの児童文学またはジュブナイル作品だと思います。
ちなみに荻原さんの初アニメ化作品は2013年にアニメ化された「RDGレッドデータガール」(注:初アニメ作品について読者の方より指摘がありました。コメントをご覧ください)。

空色勾玉との比較

作品は違いますが、アニメ化の20年以上前にラジオドラマ化されているわけで、さすがにNHKラジオドラマスタッフは先物買いが上手いです(この辺についてはこの記事参照)。
ただし、「空色勾玉」は文庫版で541頁の大作を10回(15分×10回)でラジオドラマ化しています。
そのため、かなり駆け足な展開で、正直、ダイジェスト版を聴いているように感じられる出来です。
それに対して、荻原さん2作目の原作作品である本作品は、文庫版352頁の原作を15回(15分×15回)でラジオドラマ化しており、かなり余裕のあるつくりです。
空色勾玉」が好評だった(らしい)お陰か、かなり恵まれた作品です。

魔法の存在する異世界

さて、ひろみ(この世界ではハールーンによって名付けられた魔神としての名前「ジャニ」で呼ばれることが多い)が旅する世界は、中世の中東に近い世界です。
ただしこの世界には魔法が存在しますので、ひろみはタイムトラベルしたわけではなく、架空の異世界に紛れ込んだことになります。
現代日本の若者が異世界に迷い込む、というストーリーは、既に紹介作品では「西風の戦記」(1988年、田中芳樹さん原作)があります。
しかし、「西風の戦記」の舞台が架空の世界とはいえ、魔法などの超常現象が一切起こらない、現実に準じた世界であるのに対し、本作品は魔法が当然のものとして存在する世界であり、かなり雰囲気が違います。

大冒険?陰謀劇?

ひろみはこの異世界に、いわば逃げ込んできた訳であり、実はハールーンもまた、様々なしがらみのある生家から冒険を求めて飛びだしてきたところでした。
このふたりが一緒に港から広い世界に向けて船出することになるわけで、私としては、当然、様々な国や島を巡る、恋と魔法と冒険の物語が続く…と思ったのです。
しかし、実は物語は中盤前に意外な展開を迎え、王都における王位継承を巡る争いが中心になっていきます。
少し意外な展開でした。
しかし、かといってドロドロした本格的な陰謀劇が続くのかというとそうでもありません。

気持ちが良い作品

「空色勾玉」の主人公・狭也(さや)の場合、ひろみと同じ明るい性格の少女でありつつも、出生に秘密があったり、ふたつの勢力の間で葛藤したり、信じた少女に裏切られたりなど、重い要素もありました。
しかし、本作品のひろみはあくまで伸びやかに冒険を楽しんでいます。
特にこのラジオドラマ版は、エンディングテーマを始めとする音楽に比較的軽やかな曲が多いこと、また、作品中で使われるSEも「キラキラリン!」的なものが多いことから、一層、低年齢向きの印象を受けます。
そのため、冒険ものとしては食い足りない、また宮廷ものとしては子供向け過ぎるというやや中途半端な印象を持たざるを得ませんでした。
しかし、主人公のひろみが素直な女の子であること、その他の登場人物達も悪役も含めて嫌みな人物が少ないこと、綺麗なエンディングで締められていること等から、アラビアンナイトの雰囲気を気持ち良く堪能することができる作品になっていると思います。

娘は出演者、父は原作者

さて、出演者についてですが、主人公のひろみ=ジャニは池澤春菜さんが演じています。
私は詳しくないのですが、アニメで有名な声優さんのようです。
ちなみ池澤春菜さんは、芥川賞作家・池澤夏樹さんの娘さんとのこと。
池澤夏樹さんといえば、青春アドベンチャーでは「南の島のティオ」と「氷山の南」の2作が原作として採用されています。
父親は原作者、娘は出演者。
青春アドベンチャーと不思議な縁のある親子ですね。

舞台俳優、声優…様々な出演者

また、ひろみの相手役であるハールーンは、当時キャラメルボックスに所属していた俳優の細見大輔さん(2013年「いまはむかし~竹取異聞~」で主演)が演じており、そしてもうひとりの相手役であるラシードは、声優として有名な佐々木望さんと白鳥由里さん(なぜふたりで演じているかは聴いてのお楽しみ)が演じていらっしゃいます。
結構豪華ですね。
その他、アニメ・吹き替えの声優、歌手として幅広い活動をしている坂本真綾さん(ミリアム/アズハル役)もご出演されています。
後に坂本さんは「ツングース特命隊」でヒロインをされるほか、2020年ごろの青春アドベンチャーの常連出演者になっていくことになります。
アニメ系の声優さんが好きな方にはなかなか豪華な配役。
一方、主人公側の大物であるにダンダーン大臣役を東京放送劇団(こちらの記事をご参照下さい)出身の超ベテランの川久保潔さんが、敵方の大物であるジャーバル宰相役をこれまたベテランの堀勝之祐さんが演じているのが渋い。
終盤にはこのふたりの対決のシーンもあります。

千葉繁さんにも注目

そして「砂漠の行者」役として出演されているのが千葉繁さん。
素っ頓狂な声で過剰な演技をされるのが、とても上手いベテランの声優さんです。
千葉さんといえば「機動警察パトレイバー」の斯波繁夫(シバシゲオ)役。
名前から分かるとおりこのキャラクター自体、千葉さんが演じることが前提でつくられたキャラクターで、特に整備班が中心となったパトレイバーのいくつかの話(「特車二科 壊滅す!」や「火の七日間」など)では、まさに千葉さんの怪しい魅力が全開でした。
青春アドベンチャー系の作品ではあまりお声を聞かないのですが、「アルバイト探偵」(大沢在昌さん原作・1989年放送。アドベンチャーロード作品)に出演されていました。
その他、桜井敏治さん(「ふしぎの海のナディア」のハンソン役など)もちょい役で出演されており、青春アドベンチャーでは比較的少ない、アニメ色の強い出演陣です。


【30周年記念全作品アンケート】
2022年に当ブログが独自に実施した、青春アドベンチャー30周年記念・全466作品アンケートにおいて、本作品が15票を獲得して4位(タイ)となりました。
リスナーの感想等の詳細はこちらをご覧ください。



コメント

  1. 匿名 より:

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    荻原規子さんの初のアニメ化は2006年の「西の善き魔女」ですよ。
    有名なアニメではないので知らない人が多いのも仕方がないと思いますが。

  2. Hirokazu より:

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    どなたかわかりませんが、ご指摘ありがとうございます。

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