なにわ純情ナイトメア 作:蔭岡翔(青春アドベンチャー)

格付:B
  • 作品 : なにわ純情ナイトメア
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : B-
  • 分類 : ホラー
  • 初出 : 2018年8月20日~8月24日
  • 回数 : 全5回(各回15分)
  • 作  : 蔭岡翔
  • 音楽 : 内山修作
  • 演出 : 小島史敬
  • 主演 : 小野賢章

梅田再開発ビルの内装工事を受注した祝勝会の席上で、上司から逆玉の話を持ちかけられた主人公・徳永浩一。
しかし、彼には大阪で同棲中の彼女がいた。
確かに功績が認められたのは嬉しいし、東京に戻るつもりだったのも事実。
それに、最近彼女とあまり上手くいっていない。
しかし、上司の「見合いを断ることは論外!」という態度は、正直、困る。
鬱々とした気分の帰り道、飲み直そうと見慣れぬ屋台に立ち寄った浩一は、そこに絶世の美女の女将を見つけたのだが…



本作品「なにわ純情ナイトメア」は蔭岡翔さんによるオリジナル脚本のラジオドラマです。
8月という放送時期に合わせたのか、青春アドベンチャーには珍しいホラー系の作品でした。
ちなみに蔭岡さんは2021年に「負け犬たちのミッドナイト・バス」の脚本も書かれています。
2017年の青春アドベンチャーはオリジナル脚本の作品が1作品もないという珍しい年だったのですが、2018年は3月の「メゾン・ド・関ケ原」、本作品に続いて、次の作品「暁のハルモニア」もオリジナル脚本となっています。

数少ないホラー作品だが

さて、冒頭に本作品は「ホラー系の作品」と書きましたらが、「ホラー作品」と明言できないのが厳しいところ。
正直言って、聞いていて全く怖くないのです。
そもそも青春アドベンチャーの四半世紀に及ぶ長い歴史の中でも本格的に怖い作品は「アクアリウムの夜」(2002年)くらいで、一応ホラー作品と銘打たれた「夏の魔術」(1997年)や「魔女たちのたそがれ」(1999年)もあまり怖くはない。
最近では「泥の子と狭い家の物語」(2013年)と「あの人のカナリア」(2016年「あなたに似た自画像」中の一編)くらいですが、前者は怖いのは前半だけ、後者は「怖い」というより「気味が悪い」かな。
とにかく青春アドベンチャーのホラー系作品全般に不作です。
是非、夏は本当に怖いホラー作品を放送して欲しいです。
金魚姫」(2017年)の中に少しだけあった怖い演出を聞いていると、本当に怖がらせようと思えば、ラジオドラマって相当怖い作品が作れると思うのですが。

大阪七墓とは

さて、脱線してしまったので、本作品の話に戻ります。
本作品は、至る所で亡霊が大発生してしまった現代の大阪を巡りつつ怨霊を鎮めていくという話です。
作品の舞台としては今まさに第2期の開発がスタートしつつある梅田駅北口の再開発(通称「梅田北ヤード」=「うめきた」)や、その工事に伴う一部が再発見されたことにより話題となった「大阪七墓」を利用しています。
ちなみに今でこそ繁華街のイメージの強い梅田ですが、語源は「埋田」でありもともとは湿地帯だったらしく、墓地があったというのも納得ではあります。
この「大阪七墓」(おおさかななはか)とは、江戸時代に大阪周辺にあった七つの墓地のことで、江戸時代にはこの七墓を巡回して功徳を得ることが「大阪七墓巡り」として観光的に盛り上がっていたのだそうです。

大阪の観光地巡り

同じように江戸時代に流行った「お伊勢参り」や中世ヨーロッパの「エルサレム巡礼」と似たようなものだったのでしょうか。
本作品では、主人公の浩一とヒロインの初(はつ。実は幽霊)が、「千日」(せんにち)→「小橋」(おばせ)→「蒲生」(がもう)→「葭原」(よしはら)→「飛田」(とびた)→「南浜」(みなみはま)→「梅田」(うめだ)の順に大阪七墓を巡っています。
千日前に刑場があったことや、蒲生(京橋)の立ち飲みストリート、飛田新地の歓楽街などが上手く取り入れられており、名所めぐり的な面白さもあります。
また、大阪を舞台にした人形浄瑠璃の名作「曽根崎心中」(近松門左衛門)が物語の下敷きになっており、記事冒頭の粗筋に書いた浩一の逆玉の話も曽根崎心中に結び付けるための伏線になっているのはなかかなか面白い趣向でした。

もやもやが残る

ただ、いかんせん怖くないのが致命的。
そして、毎回毎回、何となくのゴーストハントが続き、バタバタと全5回で終了。
夏にホラーという企画には大賛成なのですが、困難に打ち勝っていく浩一の成長物語としての要素や、悪霊退治というエンターテイメントものとしての爽快感?など多くのものを求め過ぎた結果、どれも中途半端な内容になってしまったように感じます。
王妃の帰還」に続き担当された内山修作さんの、ホラーチックだったり荘厳だったりする音楽も空回りの感が否めません。
そもそも序盤に異様な存在感のあった、コング桑田さんの演じる幽霊?が特に見せ場もなく退場したのはなぜなのでしょうか…

子役時代から出演・小野賢章さん

さて、本作品で主役の徳永浩一を演じたのは俳優・声優の小野賢章さん。
子役時代の2001年にミュージカルライオンキングのヤングシンバ(主人公の幼少期)を演じた小野さんですが、青春アドベンチャーでは子役から俳優への端境期である2006年に「風神秘抄」で主演。
その後、「ハリーポッター」のハリー役を吹き替えた後に、近年では2015年の「シブちゃん」で青春アドベンチャー・凱旋主演(?)をされています。

代表作はきっとこれから

個人的な感想としては「風神秘抄」は良作だったと思うのですが、近年の主演作はいまひとつピンとこない作品ばかり。
アニメでは最近、宇宙世紀ガンダムの最新作「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」への主演が決まったばかり。
いつも熱演されるだけに青春アドベンチャーでも「風神秘抄」に変わる新たな代表作となる作品に巡り合えることを祈っています。

ヒロインは芸達者な谷村美月さん

一方、ヒロインの初を演じているのは谷村美月さん。
本作品では浩一の恋人・由佳を演じる岡本玲さんとダブルヒロイン的な位置づけです。
大阪出身であることを生かした「ニコイナ食堂」(2015年)も印象的ですが、やはり一番は近年のFMシアターでは良作との評価が高いミラーボール」でしょうか。
谷村さんの恨みがましくも艶っぽい声を聴けるのが本作最大の成果なのかもしれません。

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