罵詈雑言忠臣蔵 作:池谷雅夫(FMシアター)

格付:B
  • 作品 : 罵詈雑言忠臣蔵
  • 番組 : FMシアター
  • 格付 : B-
  • 分類 : 歴史時代(日本)
  • 初出 : 2018年12月8日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 作  : 池谷雅夫
  • 音楽 : 菅野由弘
  • 演出 : 真銅健嗣
  • 主演 : 江波杏子

時は元禄15年12月15日…の翌日。
赤穂浪士が討ち入って本懐を遂げた吉良邸にまたしても討ち入りの鬨の声が鳴り響く。
吉良は悪者!吉良は嫌い!
世間で巻き起こる轟轟たる赤穂浪士同情論、吉良悪玉論を背景に新たな討ち入りが決行されたのだ。まあつまり便乗討ち入りだ。
この時、上野介の孫である吉良義周の首を求める暴徒の前に敢然と立ちふさがったのが上野介の妻、吉良富子。
あるいは脅し、あるいは宥め、証明書を発行し、家財を提供し、硬軟両面から暴徒に対する富子だが。


本作品「罵詈雑言忠臣蔵」は脚本家・池谷雅夫さんの脚本によるオリジナルオーディオドラマで2018年12月にNHK-FMのFMシアターで放送されました。

日本の12月といえば…

タイトルから(そして放送時期からも)わかるとおり題材は忠臣蔵。
この記事をアップする2024年12月にも元禄赤穂事件を扱った「白狐魔記 元禄の雪」を再放送していますが、やはり日本の12月には忠臣蔵は不可欠ですね。

討ち入り翌日からスタート

しかし本作品には大石内蔵助も吉良上野介も浅野内匠頭も登場しません。
それもそのはず。作品のスタートは討ち入りの翌日。
そしてその3日後、さらにまた2日後が舞台なのです。
主人公は吉良上野介の妻・富子。
ホームページの作品紹介を見た私は冒頭のあらすじのとおり、吉良へのヘイト一色になった世間に彼女が立ち向かい吉良側からみた真実を貫いてく物語…だと思って期待していたのですがちょっと違いました。

なにか違う

ネットで他人を叩くことが娯楽と化しつつある現代社会を、討ち入り直後の江戸の世論に例えることによって風刺するというような方向性もないことはないのですが、結局登場人物たちのパーソナルな事情、ありていに就職難とか、積年の恨み・辛みが各キャラの行動を促しているだけ。
後半明らかになる富子など登場人物たちの行動原理についても一応「意外な真実」を提示する形ではあるものの、結局すべての行動や言動がエゴ由来としか思えず、なんだか上野介の欠席裁判みたいに感じてしまいました。
風刺って言った当人が自らも傷を負うような気持ちでやらないと単なるいじめだと思います(個人の感想です。作品ファンのみなさまスミマセン)。

社会風刺は主題ではない?

個人的には、登場人物たちのパーソナルな物語にするか(個人的に年寄り二人の変なラブドラマは閉口)、社会的な問題提起をするのか、どちらか絞った方がよかったようにも感じました。
というかホームページの記載が脚本家さんの本意と違ったミスリードなだけかもしれませんが。

名女優最後の演技

さて本作品の主な出演者は江波杏子さん、尾美としのりさん、岡本富士太さんのお三方。
特に吉良富子を演じる江波杏子さんが主演なのですが、実は江波京子さんの享年は2018年10月27日、そして本作品の紹介放送日は2018年12月8日…
つまり本作品の初回放送時にはすでに逝去されています。
というか以下の記事によると、本作品は江波さんが急逝されるわずか5日前に収録された、まさに遺作とのこと。

デイリー新潮・10月逝去「江波杏子さん」”声”の遺作が今夜放送 上野介の妻演じる

作品への評価はともなく本作品の堂々たる演技は「女賭博シリーズ」で名を挙げたベテラン女優の面目躍如。
わずか5日後に逝去されるとはとても思えない演技です。

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