- 作品 : ニコルの塔
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : B
- 分類 : 幻想(その他)
- 初出 : 2015年2月16日~2月27日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : 小森香折
- 脚色 : 大河内聡
- 音楽 : 山本清香
- 演出 : 木村明広
- 主演 : 能登麻美子
「すべてを受け入れよ。疑問を抱くのをやめよ。考えることより従うことが、私たちの勤め…」
少女ニコルは、毎日、寄宿舎から自転車に乗って塔へと向かう。
塔で「地球のマント」に刺繍するため。
ただ黙って、指定図どおりの図柄を刺繍するため。
しかし、何かが起こり始める。
刺繍の図柄の猫が語り掛けてくる。
今まで見えなかった景色が見えてくる。
不思議な男の子が現れる。
そして何かを知っていたと思われる友人が行方不明に。
ここはどこ?私は本当は誰なの?
スペイン生まれの画家レメディオス・バロの3枚の絵「塔へ向かう」、「地球のマントに刺繍して」、「逃亡」に触発されて書いたという、小森香折さんの児童文学作品「ニコルの塔」を原作とするラジオドラマです。
バロって誰?
レメディオス・バロはミステリアスな作風を特徴とするシュルレアリスムの画家ですので、当ラジオドラマも、アニメで活躍されている人気声優さんを起用したり、山本清香さんのファンタジックでありながら重厚なオリジナル音楽を採用することによって、全体がどこか謎めいた雰囲気で演出されています。
人気声優多数起用
さて、本ラジオドラマ「ニコルの塔」の最大の特徴は、冒頭に書いたようにアニメファンから見るとかなり豪華に人気声優さんを採用している(らしい)ことです。
正直、私はたまたま川澄綾子さんを知っていたくらいなのですが、主役のニコルを演じる能登麻美子さんのほか、真相究明のカギを握る友人シオンを演じる白石涼子さんや、終盤2話で主演に近い扱いとなる小林沙苗さんは、人気のある声優さんだそうですし、他にも日笠山亜美さんなども声優メインで活動されている方だそうです。
木村明広さんの声優起用
本作品を演出している木村明広さんは、今までも「二分間の冒険」(田村睦心さん)、「世界の終りの魔法使い」(野中藍さんなど)、「やけっぱちのマリア」(竹内順子さん)、「エイレーネーの瞳」(斎賀みつきさん)といった作品で、積極的にアニメ声優さんを起用していますが、本作品では「いまはむかし~竹取異聞~」に続き、能登さんをメインキャラクター役に抜擢しています。
私は能登さんについてよく知らなかったのですが、とても透明感のあるきれいな声の方ですね。
FM向きの声、というのは変な表現でしょうか。
長澤奈央さんが年下
ちなみに、本作品では、修道院の寄宿舎(とされている場所)で生活する少女たちを、これらの声優さんたちが演じているのですが、みなさん大体30代半ばであり、この寄宿舎を管理するオジマ先生役を演じる長澤奈央さんより、多少ですがむしろ年長です。
私のように作品だけ聴いている人間に、この辺の不自然さを全く感じさせないのは、さすがにプロの声優さんだと思います。
山本清香さんの音楽がいい
また、冒頭に挙げたとおり、もうひとつの本作品の特徴は、映画、テレビなどで多くの主題歌や劇伴を作曲している山本清香さんが作曲したオリジナル音楽。
ラジオドラマには(当然ですが)映像がないので、特に本作品のような舞台設定が定かでない作品において音楽の占める位置づけはとても大きい。
そのため、山本さんの、繊細でありながらスケール感のある音楽が、本作品のイメージアップに寄与しているところもまた大きいと思います。
最近の楽曲
青春アドベンチャーは(恐らく作品数が多いことから)、作品ごとのオリジナル音楽は作らないことが多いのですが、「白狐魔記 洛中の火」(日高哲英さん)、「ニコイナ食堂」(澁江夏奈さん)と本作品を含めて3作品連続でオリジナル音楽の作品です。
その前の「予言村の転校生」は既存曲を利用した番組でしたが、(恐らくの選曲の黒田賢一さんだと思いますが)作中歌をきちんとつくっていました。
なかなか頑張っています。
(外部サイト:山本さんブログ)http://ameblo.jp/382tune/entry-11989966512.html
前半はおとなしい展開
さて、本作品の概ねのストーリーは冒頭に紹介したとおりですが、ニコルが何かを気づき始めたことにより、一見、平穏に見える、箱庭のような世界のところどころにほころびが生じていきます。
先生を始めとする大人たちは何を隠しているのか、「向こうの世界」とは何なのか、シオンの双子の姉妹は実在するのか。
山本さんの幻想的な音楽と相まって、どこか底の方に恐怖感を秘めたような雰囲気でストーリーは進行していきますが、前半は結局、謎の方向性すらわからない状況で終わりました。
正直、「どこか不自然な世界。記憶が改ざんされている?」というのは割と良くある話ですし、前半は同じような展開を繰り返す平板な内容でした。
終盤の超展開
ここで溜まったマグマのようなエネルギーが後半どのようにはじけていくのか、それとも「小惑星美術館」や「永遠の森・博物館惑星」のようなよくわからない展開のまま終わってしまうのか、楽しみなような怖いような気持ちで後半戦を迎えたのですが、第8話で話は思いも寄らない方向に急展開します。
実際、冒頭の作品紹介で書いている作品ジャンルを変えようかと思うほどの唐突さだったわけですが、思えば、修道院創立の伝説に出てくるのが「聖レメディオス」だったり、途中で登場するピンと伸びたひげが特徴の猫の名前が「サルバトーレ」だったりするのが伏線だったのでしょうか。
実はストーリーはほぼこの第8話までで終わっており、残りの2話はニコルとは別の登場人物から見た種明かし?の回なのですが、あまりに大胆な種明かしなので、人を選ぶ展開であることは間違いないと思います。
これどうなんでしょう?
個人的には、前半のあまりに平板な展開の印象が強いことと、結局、舞台となった世界を取り巻く謎、例えば、黒幕は誰だったのか(そもそも黒幕などという存在はいたのか)、少女に刺繍をさせていたことにどんな意味があったのか、などいまいち釈然としない部分が残り、あまり高い格付けにはしませんでした(ファンの皆様、すみません)。
蜩つながり
でも、最後に2話は、番組名をコールする担当者を変えたり、第8回のエンディングを他の回とちょっと変えたり、今までとは雰囲気の違った蜩の淋しい鳴き声を効果的に使ったり、細かいところで凝った演出がなされており、結構、気にいっていたりします。
それにしても蜩の声って何であんなに切ないのですかね。
実は本作品とほぼ並行して、次の放送作品「know~知っている」にあわせて「アルファベットで始まる作品つながり」で紹介する「G戦場ヘヴンズドア」を聴いていたのですが、こちらでも蜩の声が印象的な回があるんですよね。
と思っていたら、たまたま約1か月後に、その名も「蜩ノ記」という作品の再放送が発表されたことは、個人的にちょっとした驚きでした。
私以外にはどうでも良い、というか、単なるこじつけ的な話ではありますが。
【30周年記念全作品アンケート】
2022年に当ブログが独自に実施した、青春アドベンチャー30周年記念・全466作品アンケートにおいて、本作品が8票を獲得して15位タイとなりました。
リスナーの感想等の詳細はこちらをご覧ください。
コメント
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
最終回放送後すぐさまこれほど深く明瞭で、背景(内容、製作、番組)をも考察された記事をお書きになることに驚嘆です。
衝撃の第8回終盤(演出含む)と
それ以降、張り巡らされた伏線が解かれる様は圧巻でした。
(レメディオス・バロは知らなかったので)
サルバトーレに舞台の時代との違和感ありましたが
こう来るとは。
乾くるみ作品を読みますので
この系統は好きなのですが
ここまでの振り幅はなかなか体験できませんね。
8回分の○○感を、
絵画でまとめ切っている辺りは巧妙で納得しました。
私は絵を知りませんでしたが、見てみて納得。
もちろん制作過程においては順序が逆なのでしょうけれど
読者はむしろ知らない方が面白いですね。
僭越ながら誤記ご注進
・初出の日付
・エンディングが変わるのは衝撃の第8回
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
森さま
コメント、ありがとうございます。
そしてご指摘ありがとうございました。本文は修正しました。
たまに読み返してみると、やたらと誤字脱字が多く自分でもいやになります。
特に新作に関する記事は、ろくに推敲もしていないので、誤字脱字だけでなく、文章の不整合、事実誤認、思い込み等々、多々あろうと思います。
ご不快になられたらご容赦ください。
さて、私も本作品、あまり好きなジャンルではないのですが、よくまとめているなあというのは完全に同意です。
それにしてもこういう原作、どうやって探してくるんでしょうね。
SECRET: 0
PASS: 1f32aa4c9a1d2ea010adcf2348166a04
主人公ニコルにだけ焦点を絞ればメデタシメデタシなんだろうけど、半歩引いた場所から眺めるとかなり不明瞭な話ですよね。
ザザ達はどうなったのかとか、結局ニコルはシオンの鳥かごを見失ったままなのでシオリは戻って来れなかったんじゃないかとか、なんか鳥達が契約の終了を喜んでいたけどそもそも契約もその内容もアブラクサスの方から持ちかけた事じゃないのかとか、そもそも鳥の王を目覚めさせる事とニコル=ナオが現世に復帰する事の因果関係が最後まで不明だったとか、目覚めたナオコは大怪我してるんじゃないのかとかとか。
サルバドールのような存在が"たまたま"事件前から身近に居たというのも不自然、というか御都合的ですしね。(それを言ったらサオリの超能力もなのですが)
世界観的な謎も他の登場人物達もまるっと放置したまま、主人公だけのハッピーエンド(なのか?)に着陸しがちなのは、一種の悪癖だと思います。
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
鬼灯さま
コメントありがとうございます。
確かに曖昧ですよね、この作品。
読者(リスナー)が考える余地を残してくれているのかも知れませんが、作者の自己満足という気がしないでもなく。
もちろんそれがいいという方を否定する気は全くないのですが、もう少し論理的な展開の方がいいなとは、私も思います。