白狐魔記 元禄の雪 原作:斉藤洋(青春アドベンチャー)

格付:A
  • 作品 : 白狐魔記 元禄の雪
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A+
  • 分類 : 伝奇(日本)
  • 初出 : 2016年12月5日~12月16日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 斉藤洋
  • 脚色 : 藤井香織
  • 音楽 : 日高哲英
  • 演出 : 藤井靖
  • 主演 : 成河

天草の乱から60年。
さすがに人間との付き合いに疲れた妖狐・白狐魔丸(しらこま・まる)は故郷の白駒山に引きこもり続けていた。
一方、師匠の仙人は何やらいそいそと江戸に出かけていく生活を続けている。
白狐魔丸が聞くと、江戸で最近はやりの歌舞伎などの芝居に夢中なのだそうだ。
「芝居はいい!」
とても隠者とは思えない仙人ののぼせぶりに呆れ気味の白狐魔丸。
しかし間もなく彼は、まさに芝居の中に紛れ込んでしまったような、ある数奇な事件に巻き込まれていくことになる。
彼らと出会ったのは、播州・赤穂。
そして事件の発端は、江戸城・松の廊下。



平安末期に生まれ、武士の時代に寄り添って生きてきた狐・白狐魔丸のラジオドラマもこれが第6弾。
これで原作すべてを消化してしまったので、一応の最終作になります(注:2019年に続編小説が発刊されました)。
人間の中でもとりわけ武士に強い興味を抱いてきた白狐魔丸ですので、ある意味、武士の生き方の完成形ともいえる元禄赤穂事件、いわゆる「忠臣蔵」を舞台に終わるというのはひとつの美しい姿なのかもしれません。

一部出演者が継続

さて、本シリーズは作品ごとに時代が移り変わっていくため、主人公の白狐魔丸(演:成河さん)、もう一人(一匹?)の狐・ツネ姫(演:坂本真綾さん)、師匠の仙人(演:今井朋彦さん)、それにナレーション(坂口理恵さん)以外は、毎回登場人物も、それに合わせて出演者も入れ替えになります。
しかし、今回は、前作「天草の霧」における「白狐魔丸の友人ポジション」だった南蛮堂煙之丞が演者を武谷公雄さんそのままに序盤に再登場したり、「洛中の火」で楠木正成を演じた渡辺徹さんが正成とそっくりという設定の大石内蔵助役で再登場するなど、何となくシリーズ最終作であることを意識したつくりになっています。

レギュラー出演者は手慣れたもの

一方、レギュラーキャラたちは今までの作品と比べて随分のびのびとしており、これもシリーズ最終作であることを感じさせます。
今まで散々、恨みつらみを巻き散らしてきたツネ姫も、憑き物が落ちたように(狐から憑き物が落ちるというのも妙な表現ですが)大らかになりました。
演じている坂本真綾さんも力が抜けたようないい演技です。
また、仙人も、劇中で歌舞伎役者を見て「我々も他人に化身しているではないか。(役者も狐も)似たようなものだ」などと、ざっくりとした性格が加速しています。
こんなセリフを本職の役者である今井朋彦さんに言わせるあたり、これは笑うべき場面だったのかもしれませんが、いずれにしろ長期シリーズを演じきったみなさんが何となくリラックスしているように感じられたのが不思議なところでした。
リラックスといえば、時代が生類憐みの令の綱吉治世下ですので、主人公の白狐魔丸も狐や犬の姿で出歩いても今までで一番安全であり、過ごしやすい時代になっています。
そのため、白狐魔丸もどことなくリラックスしているように感じます。

討ち入りの日に放送するという奇跡

とはいえ、好奇心から事件に首を突っ込んでしまい、善意から人の運命を変えてしまうという白狐魔丸の癖は今までどおり。
今回の舞台は元禄赤穂事件、いわゆる「忠臣蔵」。
実際に吉良邸への討ち入りが行われた12月14日の放送で、作品中でも討ち入りを描くという神業のようなNHKスタッフのテクニックが披露されました。

白狐魔丸、またやっちゃった

それはさておき、今回は、忠臣蔵のターニングポイントに白狐魔丸が登場し、結果的に歴史を「討ち入り」へと導いてしまいます。
途中で「これはいつものパターンだ、やばい。」と思った白狐魔丸は介入を自制するようになりますが、時すでに遅し。
この「歴史上の有名な事件の背後には白狐魔丸がいた!」という構造が、私が何となくこのシリーズを好きになり切れない原因だった(と最近ふと気が付いた)のですが、今回は実際にあった事件とはいえ、どちからといえば半ば現実から遊離したフィクションとも言える「忠臣蔵」の事件であったため、あまり違和感は感じませんでした。
前作「天草の霧」は外連味溢れるB級アニメ的な内容で割と好きな作品でしたが、本作は現実の事件をベースとしつつ物語化された「忠臣蔵・外伝」的な作品であり、歴史から微妙に距離があることから少し引いて楽しく聴くことができました。

キーとなる「白狐魔丸の友人」

さて、この白狐魔記シリーズ、その性質上、多くの歴史上の有名人物が登場します。
本作では浅野内匠頭(演:大山真志さん)や大石内蔵助などが登場するのですが、各時代で白狐魔丸が特に仲良くなる人物は、歴史上の超有名人物の周囲にいる、ちょっとマイナーな人物という共通点があります。
これを先ほど「白狐魔丸の友人ポジション」と称したのですが、例えば「源平の風」では源義経ではなく佐藤忠信を中心に描かれていましたし、「蒙古の波」では竹崎季長が大活躍。
戦国の雲」の不動丸役や、「天草の霧」の南蛮堂煙之丞のように(恐らく)フィクションの人物が務めることもあります。

大高源吾をクローズアップ

本作品「元禄の雪」でこのポジションにあるのは、村上新悟さんが演じる大高源吾。
原典である忠臣蔵でも登場する人物ですが、義士銘々伝(忠臣蔵の一部で、四十七士の一人一人のエピソードを追った「外伝」または「列伝」的な部分)での、俳人・宝井其角とのエピソードは有名なものの、一般的な忠臣蔵ではあまりメインに据えられることのないキャラクターです。
本作品では村上新悟さんの渋い低音が効果的で、理知的で冷静な大高源吾がとても印象的な役になっています。

やっぱり最後は幕末では?

さて、冒頭に書いたように「忠臣蔵」で美しく終わった本シリーズですが、武士という存在の「発生から終焉までを描く」という観点からみれば、武士という存在の消滅を描く幕末編が最後でよかった気もします。
かつて1990年代の青春アドベンチャーで放送された「ランドオーヴァーシリーズ」は、一旦原作をすべて(第1巻「魔法の王国売ります」~第4巻「大魔王の逆襲」)を消化しきったあとに、原作の続編が翻訳・刊行されました。
そして、その後、この第5弾「見習い魔女にご用心」も無事に追加でラジオドラマ化されるという経緯をたどりました(そのため第4弾放送と第5弾放送の間に4年半のインターバルがあります)。
本作品もいずれ原作の続編が出たら追加でラジオドラマ化されるかもしれませんね。
ただし、原作者の斉藤洋さんは、現在「アーサー王の世界」という別の長期シリーズをスタートさせているようです。
そのため、この白狐魔記シリーズの続編はもう出ないのかもしれません(上記注のとおり続編が刊行されました。さてどうなりますことやら)。

【白狐魔記シリーズ】

  1. 源平の風
  2. 蒙古の波
  3. 洛中の火
  4. 戦国の雲
  5. 天草の霧
  6. 元禄の雪(本作品)

(補足)
本作品は、当ブログが年末に実施した2016年のリスナー人気投票で第4位の得票を得ました。
本作品のほかに人気だった作品にご関心のある方は別記事をご参照ください。



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