- 作品 : わたしは真悟
- 番組 : サウンド夢工房
- 格付 : AA
- 分類 : SF(日本)
- 初出 : 1991年10月14日~11月1日
- 回数 : 全15回(各回15分)
- 原作 : 楳図かずお
- 脚色 : じんのひろあき
- 演出 : 川口泰典、原田和典
- 主演 : あづみれいか、前田悠衣
小学校の社会科見学で来た町工場の片隅で、悟(さとる)は真鈴(まりん)と出会う。
貧しい家庭に育つ悟と外交官の娘・真鈴を結びつけたものは、何の変哲もない産業用ロボット「モンロー」だった。
夜中の工場に忍び込んでモンローを操作する時間はふたりにとってかけがえのないものになったが、真鈴は父親の海外赴任に伴ってイギリスに行くことになってしまう。
大人たちの都合を受け入れられないふたりは、結婚して子供をつくること決意し家から逃げ出す。
しかし、具体的にどうしたらよいのかがわからず、結局、東京タワーの天辺で進退窮まってしまう。
そしてふたりが東京タワーの天辺から飛び降りたときに奇跡が起きる。
「奇跡は誰にでも一度おきる。だがおきたことには誰も気がつかない。」
「おろち」などの恐怖漫画や「まことちゃん」などのギャグ漫画で有名な楳図かずおさん原作の作品です。
楳図さん原作の作品としてはアドベンチャーロード時代に「漂流教室」もラジオドラマ化しているようです。
そちらも聞きたいのですが音源をどこかで入手できないものでしょうか。
まことちゃんハウス
話が横道にそれますが私、吉祥寺にある楳図さんのご自宅を外から拝見したことがあります。
色彩が周囲から浮いていると建築時に近所からクレームがついたという有名なお宅ですが、実際見てみると全く気にならない上品なお宅でした。
SFだけど
さて、本作についてですが、楳図さんの絵そのものが恐怖感満載ではありますが、本作は恐怖漫画ではなく、コンピュータやロボット、機械生命体といった要素で構成されたSF系の作品です。
ただし、「意識」とは何か、「子ども」とは何かといった形而上的な問題が主題であり、科学考証のような形而下的な部分の精緻さが売りの作品ではありません。
というより、どうやって真悟が意識を持ったのか、真鈴はヨーロッパで何に巻き込まれてしまったのかという、物語の重要な部分が客観的に語られていないため、ハッキリ言って、何がどうなっているのか私には良くわからない部分もたくさんありました。
よくわからないけどエモーショナル
しかし、何が何だかよくわからないのに、真鈴の「子供の時間が終わってしまう」とか、真悟の「私は行く。父のそばへ。母の言葉を持って。」いう叫びが不思議と心を打つ作品です。
幼い心が持った純粋な願いなのですが、楳図さんのつくった常人の予想を超える展開や、出演したあづみれいかさんと前田悠衣さんのエキセントリックな演技と相まって不思議な迫力を醸し出しています。
脚色の妙
結末も、分かったようなわからないような強引な結末ですが、これで良いと思えるのが不思議です。
実際、本作品は、原作には存在する真悟側の物語がばっさりと省略されているほか、かなり登場人物も整理されています。
この辺、じんのひろあきさんらしい大胆な省略だと思います。
しかし、原作は文庫版で7巻の作品ですので、この番組枠ではやや多めの回数(連続15回)とはいえ、漫画原作のラジオドラマ化というあまり相性の良くない組み合わせであることもあり、さすがにやや無理のある構成になっていると推測します。
スタッフご努力が結実
とはいえ「極めて癖のある楳図ワールドを楳図さんの絵なしで再現する」という困難なミッションに挑まれた、じんのさんや演出の川口泰典さん、原田和典さん、そして音響効果等を含めたスタッフの努力には敬意を表します。
ちなみに、じんのさんのtweetによれば、この作品はじんのさんが持ち込んだ企画とのこと。
チャレンジャーだな、じんのさん。
@holdme4knight 古本屋さんで全巻まとめ買いして、それをぶらさげてNHKのディレクターの机に持っていきました。「これ、やりたいんですけど」って(^_^;)
— じんのひろあき (@HIROAKIJINNO) 2016年4月20日
また、じんのさんからは以下のtweetも頂きました。
愛ですね。
ありがとうございます
ラジオ(オーディオ)ドラマはNHKさんTBSさん合わせて200本弱書かせていただきましたが、わたしの中でラジオドラマの特性を一番うまく使いきれたなと思うのが「わたしは真悟」なんです— じんのひろあき映画唇からナイフ5/25お披露目上映会@中野 (@akirujagawa) 2018年4月28日
2人3役
さて、出演者につきましては、主役の3人のうち「悟」をあづみれいかさんが、「真鈴」を前田悠衣さんが演じています。おふたりとも宝塚ご出身の方のようで、特に前田さんはこの時期の常連出演者でした。
また、「真悟」はあづみれいかさんと前田悠衣さんがふたりで声を合わせて演じており、これが作品に独特の雰囲気を与えています。
わからなくてもいいじゃない
NHK-FMのラジオドラマは「マージナル」(1988年・萩尾望都さん原作)のように、時々、意味がつかみづらいエキセントリックな作品を放送することがあります。
この作品も私には楳図さんの意図した形而上的なメッセージの100分の1も汲み取れていない気がしますし、どの部分をお勧めすれば良いのかすら自分でもはっきり理解することができません。
しかし、独特の雰囲気のある作品で、このような作品が苦手な方でも一聴の価値があると思います。
※補足※
2016年の舞台版「わたしは真悟」(高畑充希さん・門脇麦さんダブル主演)の情報はこちらです。
【30周年記念全作品アンケート】
2022年に当ブログが独自に実施した青春アドベンチャー30周年記念・全466作品アンケートにおいて、本作品に主演している前田悠衣さんが13票を獲得して出演者編の1位となりました。
リスナーの感想等の詳細はこちらをご覧ください。
【じんのひろあき脚本の他の作品】
スピーディーな展開、的を絞った見せ場。
青春アドベンチャー初期の名脚色家・じんのひろあきさんの担当作品一覧はこちらです。
【川口泰典演出の他の作品】
紹介作品数が多いため、専用の記事を設けています。
こちらをご覧ください。
傑作がたくさんありますよ。
コメント
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
青春アドベンチャーのアンケートに参加させていただきました!
ただ残念ながら、自分の思い出す作品がことごとく青春アドベンチャー以外だったので(自分の年齢に)驚いてしまいました。
布団の中で聴いていた中でも、印象深かったのがこの「わたしは真悟」。子どもながらに涙しながら聴いていたのを覚えています。大人になってからこの原作者が楳図かずお氏だったと知り、驚いたことも思い出しました。
こうして思い返していると、また聴きたくなります。
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
あいあいさま
コメントありがとうございます。
確かにとても印象的な作品でしたよね。
ただ、私自身は感動もあったけど、よくわからないという印象も強かったです。