- 作品 : 死にたがりの君に贈る物語
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : AA-
- 分類 : サスペンス
- 初出 : 2024年1月8日~1月19日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : 綾崎隼
- 脚色 : 木村暉
- 演出 : 小島史敬
- 主演 : 望月歩
人気作家・ミマサカリオリが死んだ。
正確にはSNSでそう発表された。詳細は不明だ。出版社も沈黙している。
確かなのは、最新刊が大炎上した代表作「Swallowtail Waltz」(スワロウテイル・ワルツ)シリーズは最終巻を残して未完になったということだ。
ミマサカリオリの小説は、生き辛い人々に希望の光を与えたとも、弱者が傷をなめあっているだけとも言われる。
僕にとっては完全に前者だ。
だからこの企画に参加することにした。
「Swallowtail Waltz」の舞台になった廃校で作品と同様に共同生活をする。
確かにこんなことをしても作品の結末に近づける保証はない。
でも「Swallowtail Waltz」の続きが読めない世界で、この企画に参加するほかに何を希望に生きていけばいいんだ。
本作品「死にたがりの君に贈る物語」、実は私にとってテーマがあまり好きな方向性の作品ではないんですよね。
ただ格付けはかなり良く付けました。
この辺を説明するには後半のストーリー展開まで踏み込まないといけないので後記のネタバレ部分(折りたたみ)で書くとして、まずは作品の概要を書きたいと思います。
原作者について
本作品は綾崎隼さん原作の「青春ミステリ」を原作とするオーディオドラマです。
綾崎隼さんは2009年に第16回電撃小説大賞選考委員奨励賞を受賞してデビューされた方。
電撃小説大賞と聞くとライトノベル、ライトノベルと聞くと異世界ファンタジーを連想してしまいますが、綾崎さんは青春もの、恋愛もの、スポーツもの、そしてミステリーなどを主戦場とする作家さんで、最近の典型的なライトノベル作家とは少し傾向が違います。
未完の小説の結末
ストーリーは冒頭の粗筋のとおり、急逝した人気作家のファンたちが集まって作品世界同様の共同生活をすることによって未完の小説の結末を探そうとするところから始まります。
「いや共同生活を再現したからって物語の結末なんかわかるの?」というツッコミもあると思うのですが、そういうことを考えちゃうようなアツイ(イタイ?)ファンが集まっちゃたのだから仕方がない。
なにせ登場人物たちがお互いに自分たちを「Swallowtail Waltz」の登場人物たちに例えあっちゃうんですよ。
うーん、むずむずする。
7人のメインキャスト
で集まったのがこの7人。
- 広瀬優也…2浪してFラン大学に入った大学2年生。主人公。
- 塚田圭志…元アパレル企業の爽やかサラリーマン。この企画の主催者。
- 稲垣琢磨…体格が良く体育会系・サバイバル系。大学院2年。
- 清野恭平…児童養護施設で暮らす高校3年生。イケメン。
- 山際恵美…おっとりした性格、見た目の26歳の家事手伝い。
- 佐藤友子…言動が過激で支離滅裂な23歳のフリーター。
- 中里純恋(すみれ):いかにもミマサカリオリファンぽい内気な16歳(高校中退)。
こうして主要登場人物を書き出すと、2年前に放送された「六人の噓つきな大学生」を思い出しますね。そういえば演出は同じ小島史敬さんで大阪局の制作ということも同じ。
「六人の噓つきな大学生」は最近の青春アドベンチャーのミステリー風サスペンスではピカイチの良作でしたが、本作品は同系統の作品と考えてよいのでしょうか。
何を解き明かすのか
実はこれがわかりづらいのです。
まずミステリーでありながら解き明かすべきものが何かがわからづらい。
一応、冒頭に「未完の小説の結末」というものが示されるのですが、そのための共同生活中に目的が「職員室に置かれていた原稿」の謎にすり替わっていく。
その他、塚田圭志はなぜこんな会を開いたのか、清野恭平はなぜ嘘に拘るのか、佐藤友子はなぜこれほど攻撃的なのか、佐藤友子の支離滅裂な言動になぜ全員が素直に振り回されるのか、山際恵美はなぜこれほど消耗するのか、そもそも上記のプロフィールは本当なのか。
意味ありげな多くの事柄がロクに説明されないまま後半に突入します。
後半の展開
そして奇しくも「六人の噓つきな大学生」と同じように第7回スタート時点で場面が大きく変わります。
が、さすがにここから先はネタバレなので以下の折りたたんだところに記載します。
ネタバレを避けたい方は開かないようにして下さいね。
また冒頭に書いたように私は本作品のストーリーに必ずしも好意的ではありません。
本作品の「信者」の方も開かないようにお願いいたします。
ネタバレ・否定的なことを読みたく方は開かないでください
さて、「六人の噓つきな大学生」と似た要素は他にもあります。例えば、
- 動機(「六人の」でいえば封筒を置いた動機、本作品でいえば共同生活を始めた動機)に表と裏があること
- 議論を主導するリーダーが状況を誘導しようとしていること
- 途中で主人公(語り手)が男性から女性に代わること
- 登場人物たちの会話が段々と聞くのがつらいほキツくなっていくこと
などです。
ただ本作品は真犯人の動機があまりにも独りよがりすぎる。
「六人の~」の真犯人もかなり拗らせちゃっていましたが、本作品の犯人?は全方位に悪意を隠さずにぶつけ続けるため、聞いていて本当にしんどい。
彼女にはそうなるだけの理由があり同情に値するとは思うのですが、その理由が予想の範囲内というのもちょっと。
なにより、あの理不尽な罵倒の連鎖を2週間近く聞かされる身になって欲しい。
その他、
- メインキャストが7人もいる割には各人の存在意義がよくわらない(この辺は時間の制約のあるオーディオドラマ版の限界なのかもしれません)
- 主人公交代にどのくらいの意味があったのかがわからない(とはいえ最初から最後までイオリや純恋が主人公だった場合のどぎつさを想像するとこれでよかったとは思いますが)
なども気になりました。
なによりこの内容の作品を(当たり前ですが)作家自身が書いちゃうのってどうなのだろう。
作家のハラワタをあまりぶちまけられてもなあ。
だいたいこういう風に書かれるとこの作品に対して批評もしづらくなるし、結局、ミマサカリオリには才能があったから救われただけのようにも思える(才能がないと京アニ事件の犯人みたいになってしまう?)
…などと色々考えてしまったのですが、私自身、生きづらさを感じながらなんとか毎日やり過ごしている身として、きついながらも毎日興味が持続し聴き続けてしまったのは事実なので格付けは上記のとおりとしました。
それに上記の疑問に対してほぼ全てきちんとした作者からの回答があったことには好感が持てました。
ただ、最後まで聴いてもミステリー的に何か予想外のことは起こりませんでしたし、この作品に共感して生きづらさが解消しそうな気もしませんでした。
総じて、何だかモヤモヤが残ったのですが、この辺はあくまで個人の感想ということでご容赦ください。
出演者
さて、本作品の主人公である広瀬優也を演じるのは俳優の望月歩(もちづき・あゆむ)さん。
2000年9月生まれの23歳なので、21歳の優也とほぼ同年代です。
2014年に宮部みゆきさん原作の映画「ソロモンの偽証」で俳優デビューされた方です。
他の6人を演じるのは大塚宣幸さん、山形匠さん、安齋拓真さん、立川茜さん、岡野衣桜さん、尾碕真花さん。
このうち尾碕真花さんは2012年に第13回全日本国民的美少女コンテストで審査員特別賞を受賞された方で、スーパー戦隊シリーズ「騎士竜戦隊リュウソウジャー」でヒロイン役を演じた方です。
そんな方に言葉遣いが極めて乱暴で終始荒んだ言動を繰り返す役をやらせてよかっただろうかと思っちゃうほど思い切った演技です。
サブタイトル
最後に各回のサブタイトルを記載しますと以下のとおりです。
いかにも本作らしいリリカルなサブタイトルが並んでいますね。
- あなたが死んでしまったその後で
- いくつの嘘をあなたはついていますか
- あなたはきっとここに居る
- 壊れゆく共同生活
- さよならも言えない
- あなたへの愛と生活の終わりと
- ことの始まり
- ある小説家の死、そして
- 愛がすべてなのだとしても
- それでも生きていく
コメント
はじめまして
昨年は能登麻美子さん主演の「嘘の木」ぐらいしか青春アドベンチャーはまともにきけません。
元日、NHKの「らじるらじる」でFMを聞いていたら、突然の緊急地震速報。
令和6年はとんでもない幕開けになりました。
地震大国日本に安全な場所はないんだなあ等と思いながら、青春アドベンチャー本年第1作目を聞きました。
この作品、私からしたら尾崎真花さんの好演に好感が持てた作品です。
こうやって、ドラマの感想などを語れるのも幸せなんだろうなあと思う今日このごろです。
きまぐれさま
コメントありがとうございます。
地震に事故に戦争。
この後は平和な一年であって欲しいものです。