マージナル 原作:萩尾望都(サウンド・ファンタジードラマ)

格付:B
  • 作品 : マージナル
  • 番組 : サウンド・ファンタジードラマ
  • 格付 : B+
  • 分類 : SF(その他)
  • 初出 : 1988年10月31日~11月4日
    各回 : 全5回(各回30分)

  • 原作 : 萩尾望都
  • 脚色 : 岡本螢
  • 音楽 : 細野晴臣、福沢もろ
  • 演出 : 小木哲郎
  • 主演 : 石田純一

2999年。
D因子の蔓延により地球に住む人々の遺伝子は汚染され、女性が生まれなくなっていた。
月のカンパニーの支配の下、たった一人の女性「マザ」のほかは男ばかりの世界。
しかも、そのマザも年老いて十分に子供を供給できなくなっていた。
存続しているのがやっとのギリギリの(マージナルな)世界。
新しいマザの出現を促すために、年老いたマザを暗殺したグリンジャは、逃走する途中で、行き倒れている美しい少年に出会う。
少年は「キラ」という謎の言葉をつぶやくのだが…



いやーいいんですかね、NHKさん。こんな作品放送して。
改めて聴いてみて、そんなことを思ってしまったのが、この「マージナル」。
ご存知、女流SF漫画家の大家・萩尾望都さんの漫画を原作とするラジオドラマです。

相当腐っている

なんといっても「ヒロイン」のキラが「少年」です。
少年ですよ、少女じゃないんです。
少女漫画でヒロインが少年といったらアレですよ。アレの匂いがしますよね。
そう、今風に言えば「腐」、当時の言い方で言えば「やおい」とか「ジュネ」とかそういった、美少年同士のアレが大好きな方向けの作品。
「色子」とか「念者」とかググるとそれ系とわかる用語もいっぱい出てきます。
はい、まんまそんな感じの作品なのです(追記もご参照下さい)。
しかも後半には近親○○(自主規制)の要素まで出てくる始末。
最初に聞いた当時は、いまひとつわかりづらい作品だなあ、と真面目に考えていたのですが、改めて聴いてみると、その道具だての過激さの方が目についてしまいます。

細野晴臣+石田純一

さらに恐ろしいのは、この腐女子向けの作品に、恐れ多くも細野晴臣さんのオリジナル楽曲を付けて、さらに当時34歳でトレンディ俳優として人気の絶頂にあった石田純一さんを主演させ、しかも30分×5回という特別な枠まで用意して放送してしまったということ。
演出の小木哲郎さんは、新井素子さん原作の「いつか猫になる日まで」、菊地秀行さん原作の「風の名はアムネジア」、田中芳樹さん原作の「西風の戦記~セピュロシア・サーガ」などを手掛けられ、アドベンチャーロードにライトノベル(当時の言葉で言えばジュブナイル)を持ち込んだ代表的な演出家のお一人ですが、本作品「マージナル」はその中でもひときわ異彩を放っています。

でもちゃんとしたSF

さて、本作品は冒頭の紹介のとおり、遠い未来の地球を舞台としたSF作品です。
この手の作品の常ですが、地球は荒廃しており人類文明は退行している…ように見えます。
しかし、実は文明が前近代化しているのは地球だけであり、月や火星には高度な科学文明が残されています。
そして、地球の中心モノドールシティの象徴である「マザ」や市長は実は飾りもので、実態は月から派遣された「長官」であるメイヤードがあわれな地球の男たちを支配しているという設定です。
この行き詰った地球を再生するという謎の企てが裏で進行しており、それに一青年であるグリンジャとその同行者となるアシジンが巻き込まれていきます。
その企てのキーとなるのが、「キラ」と呼ばれる少年であり、マザの暗殺事件とキラの発見を契機に一気に事態は動いていくのですが…
…という風に内容はオーソドックスなSFです。
それはそうです。萩尾望都さん原作ですから。

ただしリスナーを選ぶ

ただ全編に漂う退廃的な雰囲気のために、人を選ぶ作品であることも事実です。
人を選ぶといえば、作中で頻繁に「歌」が入るのも、人を選ぶ作品となっている要因だと思います。
歌は主に、キラを演じるシンガーソングライターの越美晴(現:コシミハル)さんと、細野さんと一緒に音楽を担当した福沢諸(福沢もろ)さんが歌っています。
ミュージカル風というほど長いわけではないのですが、ボーカル曲を流しても同時に背景で絵を見せられるアニメと違って、ラジオドラマではボーカルのある曲が流れるとストーリーがほぼ止まってしまうので、好き嫌いがあるところだと思います。
個人的には、どうしてもリズムがゆっくりになってしまうので、あまり好きではないのですが、こういう特色のある作品もたまにはあっても良いと思います。

石田純一さん絶頂期の出演

さて、出演者に話を移しますと、まず主役のグリンジャを演じているのは石田純一さん。
石田さんを一躍スターダムにのし上げた、浅野温子さん・浅野ゆう子さん(いわゆる「W浅野」)主演のトレンディドラマ「抱きしめたい!」が放送されたのが、同じ1988年の7月から9月でしたので、本作放送時はその直後。
まさに人気者への道を駆け上がってる時期でした。
この後、「不倫は文化」(正確には本人の言葉ではないそうですが)という言葉がもとで仕事を干されてしまうとか、バラエティ中心に復活を遂げるとか、20歳以上も年の離れた東尾理子さんと再婚することになるとか、そんな人生が待っているとは思いも寄らなかったことでしょう。

塩沢兼人さんらしい繊細さと激情

また、本作品で陰の主役ともいえる「長官」メイヤードを演じたのが声優の塩沢兼人さん。
「機動戦士ガンダム」のマ・クベなどでも人気の塩沢さんですが、舞台俳優のキャスティングが多いNHK-FMのラジオドラマにおいて、塩沢さんは数少ない重用された専業声優さんでした。
同時期だけでも「妖精作戦」、「少女探偵に明日はない」、「黄昏のベルリン」、「西遊妖猿伝」などに出演されている塩沢さんですが、本作品でも一見冷静そうなものの実は登場人物たちの中でも有数の「過去」と「激情」を抱えているメイヤードを、塩沢さんらしく冷たく、そして熱く演じていらっしゃいます。

脇役も豪華

その他の主な出演者としては、キラを演じた越美晴さん、アシジンを演じた岡本富士太さん、ゴー博士を演じた斎藤晴彦さん、センザイマスターを演じた高木均さん、ナースタースを演じた田島令子さんといったところ。
若山弦蔵さんや亀山助清さん、ナレーションの此島愛子さんもなかなか渋いです。
また、劇団「夢の遊民社」がクレジットされ、田山涼成さんや円城寺あやさんが名前のある役で出演されているほか、出演者として呼ばれることはありませんでしたが、恐らく浅野和之さんと思われる声も聴きとることができました。

川村万梨阿さんの役割は

「聴きとる」といえばよくわからないのが、本作のキャスティングにおける川村万梨阿さん(「トップをねらえ!」のユング・フロイト)の位置づけ。
Wikipediaによれば「エメラダ」役となっていますが、作品を聴いているとエメラダ役でコールされるのは声優の堀川亮さん(現:堀川りょうさん、ドラゴンボールの「ベジータ」、銀河英雄伝説のラインハルト、機動戦士ガンダム0083のコウ)であり、実際に堀川さんが演じているのを確認できます。
このエメラダは(ネタバレ防止のため詳細には書けませんが)、終盤で女性の声で演じられるシーンがわずかにあるので、そこが川村さんの出番なのだと思いますが、短すぎて(そしてかわいらしい演技で)よくわからないうえ、番組終了時の出演者紹介で川村さんのことがコールされることはありません。
では川村さんのお名前が本作品で一切コールされないのかというと、さにあらず。
最終第5回のみ「歌」に越美晴さん、福沢諸さんと同時にコールされています。
「歌」?どこの場面?

CD化されている

最後に本作品、NHK-FMのラジオドラマでは珍しく、CDブック「マージナル」としてCD化されて発売されているようです。
しかも、このドラマ版のほかに、音楽CDが2種類も発売されており、計3商品もあるようです。
音楽CDとは、サントラ盤と思われる「マージナル NHK-FMラジオドラマ・サウンドトラック『ドラマ編』」と、よくわからないけど同じ細野晴臣さんの名前がクレジットされている「マージナル NHK-FMラジオドラマ・オリジナルイメージアルバム」。
さすが細野晴臣さんですね。


2022/4/1追記
巷で話題の萩尾望都さんの自伝「一度きりの大泉の話」を読みました。
その中で驚いたのは萩尾さんが度々「わたしは今でも『少年愛』というものをよくわからないまま」と書いていることです。
萩尾さんが少年を描くのは「少年が自由」であったからであり、BL時代の旗手のひとりであるという自覚は全くないようでした。
確かに本作は「少年どうし」の話ではありませんし、結末におけるキラの扱いを考えても「少年愛もの」ではないのでしょう。
とはいえ聴いていると自然とBL的な雰囲気を感じてしまうのも事実。
作品は作者の中と外に2種類あるのかもしれません。
ところで、この「一度きりの大泉の話」。
なんというか…
そうか萩尾さんは「風と木の歌」も「地球へ…」も読んでいないのか。
どうにもならなかったかもしれないし、今後もどうにもならないのかもしれないし、そもそもこれでよかったのかもしれないけど。
この道しかなかったとしたらなかなかきついですね。
萩尾さんにとっても、竹宮さんにとっても。

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コメント

  1. 雨音 より:

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    お久しぶりです!お世話になっておきながら、恩返しもあまり出来ずにすみませんでした。

    さて、マージナルは原作も読みましたが、女の私が読んでも、難しい作品だなあって思います。
    で、主人公が石田さん・・・。
    何だか聴きにくいドラマだなあと思っていましたが、そこはもう塩沢さん目当てで!(涙)
    このクールな感じが好きなのですが、メイヤードさんが亡くなるシーンがやはり印象的でした。
    オーディオドラマは、何となく演技が直に来る感じがあって好きなのですが、圧倒されました。
    テープを何回も巻き戻して聴いた記憶があります。

    さすがにこの作品も何人か亡くなっていらっしゃいますね・・・。
    仕方ないとは言え、悲しいです。

  2. Hirokazu より:

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    雨音さま

    ご無沙汰しております。
    コメントありがとうございます。
    女性が読んでも難しいというより、女性でも特定の傾向の方しかよくわからない作品のような気がします(笑)
    最近の作品でも「僕たちの宇宙船」とかは、twitterを見ているのと、その傾向の方に随分と刺さっているようです。
    そういう見方もあるということに不覚にも放送時は気が付きませんでした。

    それはさておき、本作品の塩沢さんは熱演ですよね。
    「サラマンダー殲滅」の夏目といい、この時期の塩沢さんは熱いなあ。

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