- 作品 : ヤッさん
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : A+
- 分類 : 旅とグルメ
- 初出 : 2010年5月8日~5月14日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : 原宏一
- 脚色 : 富永智紀
- 音楽 : 大河内元規
- 演出 : 小島史敬
- 主演 : 瀬川亮
上京してIT企業に就職したものの、あっという間にドロップアウトしてホームレスにまで落ちぶれてしまった青年・タカオ。
段ボールにくるまってわずかな暖を取っていた彼を、段ボールごと蹴りつけるオヤジがいた。
彼の名は“ヤッさん”。
ヤッさんは、築地市場や銀座界隈では知らぬものがいない伝説の食通ホームレスだが、身綺麗にして銀座の高級料理店を闊歩する様はとてもホームレスには見えない。
これは“ホームレス哲学”の体現者であるヤッさんと、彼に巻き込まれて思いも寄らない人生の変転を体験することになる青年・タカオの物語である。
「ヤッさん」といっても「やっさん」こと横山やすしさんではありません!
…あれ?ひょっとして若い方は横山やすしさんをご存じないのでしょうか?
まっ、まあ、何はともあれ話を進めますと、本作品は東京中の名だたる高級料理店に顔パスで入れる謎のホームレス“ヤッさん”を巡る騒動を描いた小説が原作となっています。
ホームレスは生き方!
本作品の第一の特徴はとにかくこの“ヤッさん”のキャラクターが強烈なこと。
このラジオドラマでは、唐十郎さんのお気に入りであった名優・小林薫さんの演技を得て、ヤッさんの人物像が一層くっきりしている感を受けます。
とにかく印象的なキャラクターで、作品冒頭で気力の欠ける主人公・タカオを蹴飛ばして登場するやいなや、独自のホームレス格言を連発します。
- 「段ボールはホームレスにとって堕落の象徴。俺たちの基本は野宿だ!」
- 「臭いホームレスはこれからの時代、生き残れないぞ!」
- 「ホームレスは伊達や酔狂でやってるんじゃねえ。ホームレスは自由人としての俺の生き方なんだ!」
などなど。
現代のファンタジー
豪放磊落、そして人情に厚い。
そして、築地に精通し、東京中の名店のシェフから信頼されているというヤッさん。
第2話あたりから徐々に、彼の謎 -なぜ高級料理店でただ飯を食えるのか- が明らかになっていきます。
基本的には荒唐無稽なあり得ないキャラクターなのですが、一種のファンタジーとしてそんな生き方もありかな?と思える程度にはちゃんと理屈付けされているのも好印象です。
大河内元規さんのオリジナル音楽も作品の雰囲気にあっており、聴いていて楽しくなるなかなかの快作でした。
「僕たちの宇宙船」とは違う瀬川さん
さて、一方の主役であるタカオを演じているのは瀬川亮さん。
瀬川さんは2013年の「僕たちの宇宙船」では準主役のリンダを演じていますが、リンダ役が、触れると壊れそうな緊張感のある役だったのに対して、本作品では無気力・無思慮な青年を演じており、役の雰囲気が違うのに驚きます。
このタカオ、番組の冒頭では無気力だし、中盤でも大失態を演じてしまうのですが、ヤッさんの薫陶を得たからか、終盤にはなかなかの活躍ぶりです。
この辺もこの作品の楽しいところです。
調べてみるとこの作品の原作には「神楽坂のマリエ ヤッさんⅡ」なる続編もあるようです。
本作品の出来なら続編も聴いてみたいものです。
「カレーライフ」の富永さん
さて、スタッフについてみると、脚本の富永智紀さんは1998年から2010年まで青春アドベンチャーの長編の脚色を9作品担当されている方です。
2002年の「カレーライフ」の好印象が残っていますが、考えてみるとこれって本作品と同じグルメ関連の作品ですね。
日常舞台が多い小島さん
また、演出の小島史敬さんは2007年から2013年まで青春アドベンチャーで8作品の演出を担当されている方ですが、すべて現代日本を舞台とした作品ばかり。
中には、傑作(?)「バスパニック」や怪作(?)「DINER」など、冒険色・アクション色が強い作品もありますが、基本的には日常生活に近い舞台の作品を得意とされている方です。
そういえば「バスパニック」もパニックの時間帯以外の描き方が良いのが良作になった要因の一つだと思います。
ちなみに2008年の「バードケージ 一億円を使い切れ」は同じ富永・小島コンビの作品です。
※2016/7/17追記
2016/7/22からテレビ東京系列で「ヤッさん 築地発!おいしい事件簿」と題してTVドラマが始まります。
またしても青春アドベンチャーが先行し、TVドラマ化が後追いした例ができました。
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