レディ・トラベラー1920 作:小林雄次(青春アドベンチャー)

格付:B
  • 作品 : レディ・トラベラー1920
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : B+
  • 分類 : 冒険(秘境漂流)
  • 初出 : 2020年11月16日~11月27日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 作  : 小林雄次
  • 音楽 : 川田瑠夏
  • 演出 : 藤井靖
  • 主演 : 野々すみ花

冒険家として世界を渡り歩いた叔母のバーバラ・マーキュリーは他界から1年たった今でもジュリーのアイドルだ。
大英博物館でアシスタントキュレーター(学芸員)をしているのも叔母をリスペクトすればこそだ。
だけどジュリーの本当の夢はキュレーターではない。
伯母と同じようにジャングルを旅し、川でヒルに血を吸われ、凶暴なワニと戦い、人肉を食べる恐ろしい部族とも交流すること。保護者である叔父は許してくれないけど。
でもジュリーは見つけてしまったのだ、叔母の残した手記を。
そこには叔母がオランダ領東インドにあるジャクラ島で体験した「私の生涯、最も印象深い旅」について書かれていた。
巨大な翼、真っ赤に光る目、鋭い牙、長いしっぽ、見上げるような巨体をもつ、伝説に言うドラゴンそのものの怪物に出会ったというのだ。


本作品「レディ・トラベラー1920」は小林雄次さん脚本のラジオドラマです。
小林雄次さんが青春アドベンチャーに関与するのは「ツングース特命隊」(山田正紀さん原作)、「小惑星2162DSの冒険」(林譲治さん原作)について3作品目ですが、本作品は小林さんが青春アドベンチャー向けに書き下ろした初めてのオリジナル脚本になります。

怪獣ものは得意

もともと小林さんは円谷プロダクションの特撮作品に多くかかわってきた方で、「怪獣」が登場する本作品はいかにも小林さんらしいともいえます。
ただこの作品に登場する「怪獣」が本当にドラゴン的な、またはキングギドラ的な、あるいはブロントサウルス的な怪獣なのかというとちょっと(かなり)違う。
詳しくは作品を聴いてのお楽しみです。

活発な女性たち

さて、本作品「レディ・トラベラー1920」は20世紀初頭を生きた英国人女性ジュディ・ウォリスを主人公とする作品です。
ハイカラーの白いブラウスや分厚い黒のロングスカートを身にまとい未開の地を闊歩する「レディ・トラベラー」。
過去の青春アドベンチャーでも「ヴィクトリア朝怪奇冒険譚」や「カルパチア綺想曲」など同様のモチーフの作品はあったのですが、何となく現実離れしているイメージがありました。

レディトラベラーは実在した

しかしこの記事を書くにあたり改めて調べてみると、大英帝国の威光を背景として19世紀末に世界中を旅した「レディ・トラベラー」と呼ばれた一群の女性たちが実際にいたとのこと。
明治時代の日本の旅行記を書いたことで有名なイザベラ・バードもそういった女性の代表格なのだそうです。知らなかった。
末尾に紹介した書籍によればイザベラ・バードのほかにも、インドと北アフリカを旅したファニー・バロック・ワークマンや西アフリカ奥地に分け入ったメアリ・キングズリなど、淑女としてのスタイルを崩さずに世界を渡り歩いていたそう。
事実は小説よりも…ですかね。

舞台設定を十分に生かせたか

ただ、本作品の舞台は、彼女たちレディ・トラベラーが最も輝いていた時代より少し後に設定されています。
そういう意味で主人公ジュディは「遅れてきたレディトラベラー」。
作品冒頭でその時代を「世界大戦の終結から2年。イギリスは90万人以上の戦死者を出し大きな打撃を受けていた。加えてスペイン風邪の世界的パンデミックによりかつて栄華を極めた大英帝国の輝きは消え去ろうとしていた。」と紹介しています。
敢えて舞台をこの時代に設定したことに何らかの意図があるのではないかと思って聴いていたのですが、そうでもないようです。
この辺は少し残念でした。

野々すみ花さん主演2作品目

さて、本作品の主人公ジュディを演じるのは元宝塚歌劇団のトップ娘役で女優の野々すみ花さん。
青春アドベンチャーでは「雨にもまけず粗茶一服」、「ハプスブルクの宝剣」、「カーミラ」などすでに多くの作品に出演されていますが、主演は「帝冠の恋」以来でしょうか。

脇役設定を十分に生かせたか

本作品では現地のガラパ族の女性で案内役となるマルナを演じた壮一帆さん(宝塚雪組トップスター)とともに元宝塚組です。
その他、ジュディの旅の同行者となる3人の男性、アメリカ人の探検家ウィリアム・アームストロング(演:谷田歩さん)、日本人の生物学者で巴投げが得意な空手家?・吹原誠(演:大山真志さん)、キザなフランス人植物学者エミール・ミシュレ(演:大場泰正さん)が濃いキャラ付けがなされているものの、怪獣の「見え方」以外にあまりキャラクターの違いを生かせていなかったのも少し残念でした。


【パクス・ブリタニカの時代を舞台にした作品】
大英帝国の最盛期である19世紀から20世紀初頭にかけてのイギリスを舞台にした作品を整理しました。
ヴィクトリア朝から第1次世界大戦の勃発するジョージ5世時代まで。
あの作品とこの作品の設定年代の順番は?こちらをご覧ください。





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