雨にもまけず粗茶一服 原作:松村栄子(青春アドベンチャー)

格付:B
  • 作品 : 雨にもまけず粗茶一服
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : B
  • 分類 : 職業
  • 初出 : 2016年9月19日~9月30日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 松村栄子
  • 脚色 : 高井浩子
  • 演出 : 吉田努
  • 主演 : 石田法嗣

19歳になった。
受験した大学はみんな落ちた。
ちょっとだけ真面目にやっていたギターだって、正直、プロになれるとは思えない。
なんにもやる気が起きない。
家元ジュニアとして、子供のころからやらされてきた茶道には全く興味がわかない。
親に反発して家を飛び出して、流されるまま京都に来てみたけど…
今の自分が中途半端でカッコ悪いことは、頭の悪い自分でだってわかる。
オレって一体、何がしたいんだろう。



芥川賞作家・松村栄子さん原作の同名の小説「雨にもまけず粗茶一服」を原作とするラジオドラマです。

珍しい芥川賞受賞作家の原作

青春アドベンチャーは基本的にエンターテイメント作品を放送する番組です。
そのため、直木賞作家の作品は多数取り上げられているのですが、純文学作品を対象とする芥川賞を受賞した作家の作品を取り上げることは稀です(翌2017年にも芥川賞作家・津村記久子さんの「エヴリシング・フロウズ」が取り上げられました)。
松村さんの場合、1991年の芥川賞受賞以降、ファンタジー小説(「緑の砂漠」など)や、青春小説(本作など)を多く書かれているそうですので、純文学という枠で語るのは少し違うのかもしれません。
その面では「霧隠れ雲隠れ」の三田誠広さんに似ていますね。

キラキラネーム?

さて、本作品は弓道・剣道・茶道の坂東巴流(ばんどう・ともえりゅう。3つの道を同時に伝えているので「巴」らしい)の跡取り息子として生まれた19歳の少年・友衛遊馬(ともえ・あすま)を主人公とする青春物語です。
「遊馬」と書いて「あすま」と読む名前は、1980~1990年代のアニメ「機動警察パトレイバー」の篠原遊馬(演:古川登志夫さん)が草分けだと私は思っていました。
そしてこの記事を書くために検索してみると、近年、ゲーム・アニメの登場人物名(「プリンス・オブ・ストライド」の「黛遊馬」)や男性俳優の名字(遊馬晃祐・あすまこうすけ)で使われていることがわかり、「キラキラネームが広がっているなあ」との思いを強くしたところでした。

実は由緒正しい読み

しかし、さらに調べてみると、もともと関東地方の古い地名に「遊馬=あすま」というものがあったようです(「武蔵国北足立郡遊馬村・西遊馬村」など)。
放牧地に由来のある地名のようで、名字としては意外と由緒があるのかもしれません。
ちなみに本作品における「遊馬」という名前は、「遊馬村」とは関係なく、彼の祖父が「遊び心がある人間になって欲しい」という願いを込めて付けたという設定です。

軽薄な主人公

しかし、その願いは悪い方に叶ってしまったようです。
冒頭からいきなり「俺らしく生きるんだ!」と宣言を始める主人公に嫌な予感を感じざるを得ないのですが、その後も「大学受験の放棄」、「父親に叱られると祖父に甘える」、「弟に唆されて安易に家出」、「祖先伝来の茶器の無断持ち出し」、「京都人への異常な偏見」など、実にがっかりな言動のオンパレード。
自意識ばかりが過剰で、行動力も責任感もない主人公の姿にどうにも共感できません。

周りの人物にもモヤモヤ感

ではまわりの人間たちはどうかというと、これもまた微妙にモヤモヤ感が残るキャラクターばかり。
頭の固い父親(演:石田圭祐さん)、時代錯誤な女弟子カンナ(演:田実陽子さん)、微妙に小賢しい弟・行馬(演:杉村透海さん)。
その他の茶道関係者や京都の人達、例えばヒロイン翠の父・高田裕(演:有馬自由さん)、坊城哲哉(演:手塚祐介さん)、六角坊不穏(演:得丸伸二さん)、今出川幸麿(演:三谷昌登さん)あたりも微妙にうざい。
特に、ヒロインの京女・高田翠(演:小林さりさん)にあまり好感が持てないのはなぜだろう?
悪意をもって周りを振り回すタイプではないのだけど、何となくイライラさせられ、遊馬の気持ちもわかったりします。

後半は成長物語として好印象

という訳で爽快感がなく、おかしさも中途半端で前半は終わるのですが、後半ではその遊馬が成長を見せ始め、若者の成長物語らしくなっていきます。
いくつかの事件(というほどの大事ではないが)を経て、最後には一回りも二回りも大きくなった遊馬の姿に感動…といいたいところですが、残念ながらそこまでの進展はなし。
自ら道を選び始めた姿までで物語は終了します。
これは続編「風にもまけず粗茶一服」を読めと言うことなのかも知れません。

お茶の魅力がイマイチ伝わらない

という訳で若者の成長物語としてはそれなりの展開だった本作品。
残念だったのは、お茶の魅力が今ひとつ伝わりづらい内容だったこと。
その点で、本職の落語家を起用した青春アドベンチャーのもうひとつの「伝統芸能もの」である「しゃべれどもしゃべれども」ほどのインパクトはなかったと思います。

ダブル石田

さて、色々な役の方を先に紹介してしまいましたが、主人公の遊馬を演じるのは、俳優の石田法嗣さん。
すでに「三匹のおっさん」で(実質的な)主役の清田祐希役を演じていらっしゃいます。
ちなみに父親役の石田圭祐さんとは、同じ「石田」姓ですが、実際も親子という訳ではないようです。
そういえば石田圭祐さん、「砂漠の王子とタンムズの樹」でも父親役でしたね。

ダブル京女

また、ヒロインの高田翠を演じた小林さりさんは、「ミスマガジン2009グランプリ」に選ばれたファッションモデルの方で、近年は女優としても活動されているそう。
実は小林さんは京都府出身とのことで、いかにもNHKらしい拘りですが、実は物語の中盤で登場するやはり京女の準ヒロイン・巴奈彌子を演じる野々すみ花さんも京都府出身のようですので、拘りもなかなか徹底しています。

宝塚女優

ちなみにこの野々すみ花さん、宝塚歌劇団・宙組の元トップ娘役とのこと。
青春アドベンチャーは1990年代に演出の川口泰典さんが元宝塚歌劇団の女優さんを多用し(この辺については川口さんご自身の証言があります)、花組の若葉ひろみさん(紅はこべなど)・森奈みはるさん(ジャンヌなど)、月組のこだま愛さん(ヴァーチャル・ガールなど)、星組の毬藻えりさん(盗まれた街など)といった多くの元トップ娘役の方が出演されました。
その後、元トップ娘役で出演されたのは純名里沙さん(小袖日記)くらいですので、野々さんは青春アドベンチャーでは久しぶりの元トップ娘役ということになります。
ちなみに野々さんは本作品の翌年、「帝冠の恋」にて青春アドベンチャー初主演を飾ることになります。

冒険ものに良作が多い

なお、本作品の演出は「DIVE!!」、「スピリット・リング」、「砂漠の王子とタンムズの樹」、「びりっかすの神さま」など、このブログでも多く作品に高格付けを付けてきた吉田努さんが担当しています。。
青春アドベンチャーの演出を担当され始めた最初の頃には「少年漂流伝」や「645~大化の改新・青春記」など、聴く人により評価が変わる、かなり尖がった作品も多く演出されていたのですが、個人的にはエンターテイメント色が強いファンタジー作品に好印象の作品が多いと思っています。


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コメント

  1. コン より:

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    主人公が家出をして音楽をやると決めたのに途中で友達がいなくなったり、お茶を飲んだりしてまとまりがない作品でした。小林さんの京都弁は可愛かったんですけどね。

  2. Hirokazu より:

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    コンさま

    コメントありがとうございます。
    原作小説には続編があるらしいので、きっと続編でシャキッとするのでしょう、多分…

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