ツングース特命隊 原作:山田正紀(青春アドベンチャー)

格付:A
  • 作品 : ツングース特命隊
  • 番組 : 青春アドベンチャー
  • 格付 : A
  • 分類 : 冒険(秘境漂流)
  • 初出 : 2013年7月1日~7月12日
  • 回数 : 全10回(各回15分)
  • 原作 : 山田正紀
  • 脚色 : 小林雄次
  • 演出 : 藤井靖
  • 主演 : 北村有起哉

1914年、朝鮮で武器商人をしている武藤は、伝説的な謀略家として後生に名を残すことになる明石元二郎陸軍大佐から呼び出しを受ける。
明石は武藤に対し、6年前にシベリア奥地・ツングースで起こった謎の大爆発を探るために、現地に潜入せよという。
明石は謎の大爆発がロシアの核兵器開発に関係するものではないかと疑っていたのだ。
武藤は要請を断ったが、明石の脅しにより、この探索行を受け入れざるを得なくなってしまう。
人跡未踏の秘境、正体不明の事件、信用のおけない同行者、探索行に横槍を入れる怪しい連中、そして大国の陰謀。
数々の不安材料があるなか、武藤は大爆発の真相を探るために現地へと向かう…



SF作家・山田正紀さんの小説を原作とするラジオドラマです。
青春アドベンチャー系の番組(番組の歴史についてはこちら)における山田作品のラジオドラマ化は、「アドベンチャーロード」時代の1987年に放送された「謀殺の弾丸特急」以来ですので、何と26年ぶりです。
ただし「ツングース特命隊」の原作自体が1980年に発表された作品であり、最近の作品をピックアップしたわけではありません。

やればできるじゃん

個人的には、山田さんといえば「神狩り」であり、「氷河民族」であり、「弥勒戦争」であり、「襲撃のメロディ」です。
過去、こちらの記事でも「是非山田作品を青春アドベンチャー化してほしい」と書きましたが、実際のところ、これらの作品が発表されたのはいずれも1975年から1976年頃。
さすがにこんな昔の作品が今後青春アドベンチャーに取り上げられることはないだろうなあ、と思っていたところ、この作品が放送され、さらに2015年には「チョウたちの時間」も制作されました。。
これだけ古い作品を採用することがあるのだとすると、「『神狩り』をラジオドラマに!」とか「『謀殺の弾丸特急』の再放送を!」などとあらぬ希望を持ってしまいます(「神狩り」についてはこちらもご参照下さい。)

ロスト・ワールドリスペクト

さて、本作品は山田さんの書かれる代表的な作品ジャンルの一つである秘境冒険ものです。
山田さんはコナン・ドイルの「ロスト・ワールド」(これも青春アドベンチャー化されています。記事はこちら。)が大好きだそうで、本作品の他にも、「崑崙遊撃隊」や「魔境密命隊」と言った秘境冒険ものの作品を書かれています(「崑崙遊撃隊」のみ既読)。
確かに、今一つ仲が良くない一行で秘境を踏査するという点で、山田秘境冒険ものと「ロスト・ワールド」は同じ構造です。

シリアス度はロスト・ワールド以上

ただし「ロスト・ワールド」の一行の仲が悪いのは、学問上の対立や登場人物のエキセントリックな性格のためであり、ある意味、牧歌的です。
それに対して、山田作品の登場人物達が「仲が悪い」のは、国家的な政略が背景にあるからであり、よりシリアスです。
本作品でも、軍人と元軍人が身分を隠して潜入することに加え、その他の同行者達にも何らかの裏の事情がありそうで、予断を許しません。
もともと山田作品の登場人物達は、屈折した性格と特異な能力を併せ持つ、一筋縄ではいかない連中ばかりです。
そのために、一行の先行きは予断を許さず、ハラハラした展開が続きます。
ところで本作品、概ね冒険ものなのですが、途中から一層「ロスト・ワールド」になっていき、終盤にはSF的な要素が加わります。
ただ、その展開が急で、ちょっと馴染めない感を受けました。

定番でよかった気も

また、最終的には、人間を超える知性の存在を想像させるという点で、「神狩り」や「襲撃のメロディ」と同じ初期山田作品らしい面もあります。
ただ、上記の両作品が、如何にも駆け出しの若手作家らしい「敵わないほど強大な敵と、敢えて戦う」というシニカルさと向こう気にあふれた作品であるのに対し、本作ではそういった気負いは感じませんでした。
どうせ昔の作品を取り上げるのであれば、もっといかにも山田作品らしいもの、例えば「神狩り」や「氷河民族」ではいけなかったのでしょうか。
同じ秘境冒険ものなら、定評のある「崑崙遊撃隊」で良かった気もします。
まあ、個人的には読んだことのない作品だったので、お得感はありましたが。

39歳?

さて、本作品の主役である武藤を演じるのは俳優の北村有起哉さん。
舞台を中心に活躍されていた方ですが、最近はTVドラマにも積極的のようです。
放送時点で39歳のはずですが、なかなか渋い声です。

2代目沖田艦長

また、序盤に登場する明石大佐役で文学座所属の俳優・菅生隆之さんが出演されています。
声優としては洋画の吹き替えが有名で、アル・パチーノなどの大物の持ち役がある方ですが、最近、リメイクされた宇宙戦艦ヤマト(宇宙戦艦ヤマト2199)で、沖田艦長役を担当されています。
沖田艦長と言えば名優・納谷悟朗さんなのですが、菅生さんの沖田艦長もなかなか渋くて好感触です。
納谷さんは本年(2013年)亡くなられてしまいましたが、このような名優には長生きして欲しいものです。
ちなみにこの「宇宙戦艦ヤマト2199」、主要な役すべてで担当声優さんを入れ替えているのですが、どの配役も違和感を感じません。
新作スタッフの旧作への愛が感じられる配役です(ただし、少しだけ旧作への愛が深すぎて思い切ったことができていない感じも受けました。)

せっかくの坂本真綾さんだけど

また、本作品のヒロインのマリアは、アニメでも吹き替えでも実績のある坂本真綾さんが演じていらっしゃいます。
これは王国のかぎ」や「1492年のマリア」などにも出演されている坂本さんですが、本作品のマリアはあまりアクの強くない、やや影が薄いキャラクターなので、折角の坂本さんの出演がちょっともったいない感じではあります。
ちなみに本作にはロシア人声優のジェーニャさんも出演されています。
「美少女戦士セーラームーン」で日本のアニメを好きになり来日してから本作の時点で8年目。
アニメ「ガールズ&パンツァー劇場版」でクラーラ役を射止めるのは本作の3年後になります。
それにしても「嘘か真か」の上坂すみれさんといい、この面(どの面?)では妙に気が利いた配役ですね。

小林雄次さん初脚本

スタッフは、脚色が小林雄次さんで、演出が藤井靖さんです。
藤井靖さんは2013年だけでも4作目の担当となるお馴染みの方ですが、一方の小林さんは恐らく本作品が青春アドベンチャー初脚色の方です。
主に円谷プロの特撮作品などの脚本を手がけていらっしゃるようですので、本作品にはぴったりの人選だと思います。


コメント

  1. 鬼灯 より:

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    普通に「これ死ぬでしょ」という終わりなので、全体的に良かった分だけラストがちょっと。
    奇跡が起きて無事に浮上したとしても、ずぶ濡れの武藤は凍死しそうですし。

  2. Hirokazu より:

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    鬼灯さま

    コメントありがとうございます。
    確かにこの作品、終盤になるにつれイマイチ感が増してくるんですよね。
    山田正紀作品全般の傾向としてすっきりしない終わり方の作品が多いのですけど、本作品はそれともちょっと違う感じ。
    ちょっと残念です。

    > 普通に「これ死ぬでしょ」という終わりなので、全体的に良かった分だけラストがちょっと。
    > 奇跡が起きて無事に浮上したとしても、ずぶ濡れの武藤は凍死しそうですし。

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