琥珀(こはく)のひと 作:新井まさみ(FMシアター)

格付:A
  • 作品 : 琥珀(こはく)のひと
  • 番組 : FMシアター
  • 格付 : A-
  • 分類 : 日常
  • 初出 : 2022年6月4日
  • 回数 : 全1回(50分)
  • 作  : 新井まさみ
  • 音楽 : 青葉市子
  • 演出 : 内藤朝樹
  • 主演 : 石橋蓮司

極寒の奥日光にまた春がやってくる。
ただ、このあたりには観光するものはなにもない。
地元の人間ですらめったに通らない山道を若い女性が歩いているのはやはり不審だ。
そう考えてモーリーこと矢部吉森は彼女に声を掛けたが、彼女は自分に会いに来たという。
確かに国産メープルシロップは珍しい。
ふもとで聞けばこの山に行けば会えると言われるのも確かだろう。
しかし、若い女性がメープルシロップの製造現場を見るためだけに、老人がひとりで暮らす雪深い山中まで来るものだろうか。


本作品「琥珀(こはく)のひと」は新井まさみさんのオリジナル脚本によるオーディオドラマで、2022年にNHK宇都宮局が制作しNHK-FMのFMシアターで放送されました(翌年再放送)。

脚本、新井まさみ

FMシアターにおける新井まさみさんといえば、TVドラマ化もされた評価の高い「エンディング・カット」(2016年、芦田愛菜さん主演)のほか、「ふたりの娘」(2016年)もなかなかの良作でした。
家族関係をベースにした落ち着いた作風ながら、飽きの来ない展開で聞かせる脚本を書かれる方という印象なのですが、本作品もそのイメージを裏切らない作品です。

「ロロ・ジョングランの歌声」も

ちなみにこの記事を書くに当たり確認していたところ、新井まさみさんは青春アドベンチャーにて松村美香さん原作の「ロロ・ジョングランの歌声」の脚色も担当されていたことに気がつきました。
いろいろな意味で前代未聞だった「ロロ・ジョングランの歌声」(詳しくは紹介記事をご覧下さい)ですが、少なくとも緊張感が途切れない良作でした。
新井さん、エンタメもいけますね。青春アドベンチャーでも期待したいです。

濁りながらも光を通す

さて、本作品のタイトルに入っている「琥珀」とはいうまでもなく樹木の樹脂が化石化した宝石の一種ですが、ここではメープルシロップを示しています。
と同時に、苦いながらも人生経験を積み重ね、濁りながらも光を通すような存在になった老人たちを暗喩する言葉でもあります。

人生は琥珀

主人公の矢部吉森は戦争孤児であり漁師として苦しい年月を重ねた末に311の福島原子力発電所により離職を余儀なくされます。
その後も兄弟同然に育った親友の死、その親族からの中傷等に耐えながら今を一生懸命に生きています。
老い、悔い、後悔といった思いとともに、書物や親友の残したものに光を見いだしている。
その姿そのものが琥珀なのでしょう。

落ち着いた作品

ストーリーは、主人公・矢部吉森と彼を訪ねてきた衛藤海音が、メープルシロップを煮詰めながら語り合う一晩の物語で、その途中に過去の回想が挟み込まれるというオーソドックスな構成です。
ただ(陳腐な言葉ですが)、音楽や効果音を含めて、風景が浮かぶ、感触が感じられる作品になっており、テーマなども特に目新しいものはないのですが、静かで印象的な作品になっています。

石橋蓮司さんと志田彩良さん

さて、本作品の主演はベテラン俳優の石橋蓮司さん。
本記事は石橋さんが「襲大鳳 羽州ぼろ鳶組」にゲスト出演されたことを記念して書いたものなのですが、そちらでも書いたとおりNHK-FMのオーディオドラマには「封神演義」をはじめ昔から多くの作品に出演されています。
また準主役ともいえる衛藤海音を演じたのは女優の志田彩良さん。
このおふたりで作品の多くの部分を演じられています。

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