- 作品 : それは誠
- 番組 : FMシアター
- 格付 : A+
- 分類 : 旅とグルメ
- 初出 : 2024年6月1日
- 回数 : 全1回(50分)
- 原作 : 乗代雄介
- 脚色 : 樋口ミユ
- 音楽 : 後藤沙希乃
- 演出 : 小見山佳典
- 主演 : 山﨑光
東京へ向かう修学旅行の班行動。
高校生2年生の佐田誠の行きたい場所はうらわ美術館だった。でも行かない。
亡くなった母と所縁のある美術館よりも行かなければならない場所があるのだ。
もちろん同じ班のみなに迷惑はかけられないからひとりでいくつもりだ。
でも班行動である以上、単独行動する時点で迷惑はかけざるを得ない。
紛糾した話し合いだが、誠が事情の一端を話したことにより徐々にこの単独行動は皆の理解を得られ始めた。
そして当日、途中から単独行動を始める誠。
しかし旅は予想できなかった方向を向かい始めて…
本作品「それは誠」はNHK-FMのFMシアターで放送されたオーディオドラマです。
原作は乗代雄介さんの小説であり、FMシアターでは少数派の原作のある作品です。
乗代さんは5回(第162回・第164回・第166回・第169回・第172回)芥川賞の候補になったことのある作家さんで、このうち第169回は本作品の原作小説でエントリーされています。
高校生7人の冒険
さて本作品の主要登場人物は主人公の佐田誠を始めとした7人の高校生男女(男子4人・女子3人)。
修学旅行の自由行動で同一の班になったこの7人の、修学旅行前の話し合いと修学旅行中の言動で物語はつづられていきます。
ちなみにこの7人の属性とキャストは以下のとおり。
- 佐田誠(演:山﨑光さん):祖父母と暮らす
- 蔵並研吾(演:奥田一平さん):特待生で不祥事を嫌う
- 大日向隼人(演:武田桂さん):スクールカースト上位の陽キャ
- 松帆一郎(演:手塚祐介さん):吃音持ちで体も弱い
- 小川楓(演:川床明日香さん):クラスの人気者
- 井上奈緒(演:白勢未生さん):班長でやるときはやる
- 畠中結衣(演:冠野智美さん):小太り
実際に誠に同行するのはこのうち約半分なのですが、修学旅行前のシーンもしっかり描くことにより、同行しないメンバーもしっかり存在感を発揮しています。
実はベテラン
ところで少し話がそれますが、実は主演の山﨑光さんとヒロイン?役の川床明日香さんが役の実年齢に近い20歳・21歳(当時)であるのに対し、他の5人は結構ベテランの俳優さん。
特に畠中結衣を演じる冠野智美さんは松の母親役も兼ねています(言われないと分からないくらい演じ分けているのがお見事)。
手塚さん(夢胡蝶~羽州ぼろ鳶組など)とか冠野さん(砂漠の王子とタンムズの樹など)とか当ブログでも出演作を多く紹介しているオーディオドラマ慣れした方々であり、この辺の周りを固める俳優さんの安定感が本作品の良さを引き出しているひとつの原因だと思います。
1日の冒険
なにはともあれ誠のわがままから始まったこの冒険。
徐々に同行者が増えていき、結局、約半分が誠の目的地である日野に行くことになります。
その過程で徐々に明らかになる彼らの思い。
それはわかりやすく激しいものではなく、それどころか本人にもはっきりと説明できるようなものでもありません。
しかしこの短い旅の過程でどうしても溢れてしまった思いは彼らの人生に思い出としてきっと深く刻まれたのだと思います。
エンタメ色もある
まあそんな感じの一種の青春小説なのですが、同時に一種のロードムービー(ロードノベル)的な雰囲気もあり、東京駅・千葉・埼玉・東京都下を結ぶJR武蔵野線を使ったトリック(言い過ぎ?)の趣もあり、エンタメ的にもなかなか洒落た良作です。
「花になる」
あと本作にはモチーフとなったであろう曲が存在しており、それは奥田民生さんの「花になる」です。
曲中に「それは誠」という歌詞がある曲なのですが、このオーディオドラマ版では、ごく一部ですが「花になる」を登場人物に詠わせたりハミングさせたりしています。
この辺、オーディオドラマの特性を生かした演出だと思います。
本作品は当ブログで実施した2024年リスナーアンケートのFMシアター・作品編で第3位の得票を得ました。
リスナーの感想等は以下をご覧ください。

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