- 作品 : 魔岩伝説
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : A
- 分類 : 伝奇(海外)
- 初出 : 2011年5月30日~6月17日
- 回数 : 全15回(各回15分)
- 原作 : 荒山徹
- 脚色 : 荒木敏子
- 演出 : 真銅健嗣
- 主演 : 細見大輔
時は江戸時代後期の文化8年。
50年ぶりの朝鮮通信使の来訪を控えた江戸で、若侍・遠山金四郎景元は一人の若い女を救う。
その女性・春香(チュニャン)は朝鮮通信使に関する重大な秘密を知っているという。
春香に誘われ朝鮮へと渡った景元を待っていたのは剣術と魔術が交差する一大活劇。
そして景元が知ることになる歴代朝鮮王朝が秘めてきた謎と徳川幕府との密約。
名奉行として後世に名を残すことになる「遠山の金さん」の若き日の大冒険。
荒山徹さんの伝奇小説を原作とするラジオドラマです。
伝奇小説とは、普通の時代小説とは異なり忍術や魔術などの超常の要素を取り込んだ、おどろおどろしくも痛快な作品群の総称で、現代の伝奇小説作家として最も有名なのはやはり山田風太郎さんでしょう。
私の中では、山田さん原作の「魔界転生」の映画で、沢田研二さん演じる天草四郎が、ド派手な衣装とド派手なメイクで飛び回っていたのが伝奇ものの原風景です。
ちなみに山田風太郎さんの作品としては「妖異金瓶梅」が青春アドベンチャー化されています。
なお、個人的に伝奇小説で一番のお気に入りは半村良さんの「産霊山秘録」です。
どこかで紹介したいような、したくないような…
ところで、本ブログでは、この伝奇小説を原作とする作品、やはり「歴史時代系」と呼ぶには少し躊躇してしまう内容で、それなりに該当作品もありそうなので、考えた末に「伝奇系」というジャンルを新設しました。
遠山の金さんは実在した
さて、本作は遠山金四郎景元という実在の人物が主人公です。
しかし彼は、水戸黄門や大石内蔵助、大岡越前などと同様に、佐藤賢一さん関連の記事でも紹介した「実在の人物がモデルでありながらフィクションとしての人間像の方が一般化してしまった人々」の一人です。
しかし、実際の人物も庶民に愛された人物であったのは確かのようで、若く未熟な景元が後に「遠山の金さん」と呼ばれるほどの人物になるに至るきっかけの物語として面白い位置づけの作品だと思いました。
史実の遠山金四郎は、みなもと太郎さんの「風雲児たち」(16巻あたり)に面白おかしく書かれています。
気になる方はこちらも是非。
柳生vs朝鮮魔術師
さて、本作品の紹介に戻りますと本作品の内容はまさに典型的な伝奇ものですが、主な舞台が対馬や朝鮮なので、通常の伝奇ものであれば忍者や妖術師(山伏や伴天連、法師)などが担う役割を、朝鮮の魔術師達が受け持っています。
忍術にも勝るとも劣らないほど胡散臭い朝鮮魔術が大活躍します。
一方の剣術についても公儀の刺客である隻眼の剣士・柳生卍兵衛(ばんべえ)など、まさにコテコテ伝奇風の人物も登場します。
やはり伝奇ものに柳生は良く合いますね。
鳥居耀蔵がちょっと気の毒
それにしても本作にも登場する鳥居耀蔵、「悪いけど強くてそれなりに筋は通っている」という描かれ方をされることが多い柳生一門と比較していつも悪役ばかり割り振られている印象です。
最近は再評価ばやりで、田沼意次や徳川綱吉、柳澤吉保といった従来時代劇では悪役か少なくとも良い描かれ方をされていなかった人物が随分、好意的に描かれるようになりました。
青春アドベンチャー化された「尾張春風伝」の徳川宗春などもこの流れだと思います。
しかし、鳥居耀蔵は一向に再評価される兆しがありません。
自業自得かもしれませんが、ここまで悪役ばかりだとちょっと気の毒になってしまいます。
気になる点が3つほど
ところで作品を聴いていてちょっと気になったのが、春香が属する「ある組織」が景元たちを朝鮮まで呼んだ動機。
ネタばれになるのであまり書きませんが、景元が幕臣という立場を離れて考えたとしても、とても納得できる理由とは思えませんでした。
この辺は原作でどうなっているのか折を見て確認して見たいものです、
あと登場人物たちが主人公のことを気軽に実名の「景元」と呼びかけるのもちょっと気になりました。
通常は通称の「金四郎」で呼びかけるはずだと思います。
「金四郎」という通称はあまりに「遠山の金さん」を連想してしまうので避けたのかもしれませんし、娯楽作品なので、この辺の細かいところは楽しく読めればそれで良いと思うのですが、ちゃんと通称で呼んだ方が雰囲気が出ると思うのですが。
まあ、余計なお世話ですね。
あと正直な話、本作のようなサイキックバトルを描く作品はやはり映像が欲しいなあ、とちょっと感じてしまいました。
ラジオドラマの評論としては言ってはならないことかもしれませんが。
とはいえ面白い
とはいえ、朝鮮王朝の歴史的な背景や、「徳川」や「世良田」といったちょっと変わった苗字のいわれ、そして日光東照宮の扱いなど、多少無理はあるのかもしれませんが、なかなか面白い趣向です。
また、最初はかなり頼りなく「なっ!なんと!?」というキメ台詞?を連発する景元が、終盤はぐっと力強さを増すのも青年の成長物語として正統的です。
さらに「正しいことは必ず受け継ぐものが現れる」というメッセージも好感が持てます。
個人的に少し気なる部分もありましたが、超能力が絡んだ伝奇ものとして素直に楽しめる作品だと思います。
細見さんの派手な演技がよくあう
さて、出演者の話に移りますと、主人公の遠山金四郎景元役は元キャラメルボックスの細見大輔さんが演じていらっしゃいます。
青春アドベンチャーでは「これは王国のかぎ」や「いまはむかし~竹取異聞」にも出演されています。
ヒロインの春香(チュニョン)役は加藤忍さん。
それにしても韓国ドラマなどを見るといつも思うのですが、人物名がカタカナでしか頭に入ってこず、どうにも名前が覚えられない…
同じカタカナでも、欧米人の方がたくさんの人名ストックが記憶にある分、頭に入り安い。
これは慣れるしかないのかも知れません。
中村梅雀さんが効いている
その他、景元の父・景晋を懐かしの磯部勉さんが演じていらっしゃるのが個人的にはポイントが高いところです。
最後に本作品のキャストで注目すべきはやはり語りの中村梅雀さん。
本作品はナレーションの多さがやや気なる脚本なのですが、中村さんの語りがとても良い雰囲気を醸し出していると思います。
それにしても歌舞伎役者出身で、多くの大河ドラマ(功名が辻など)や2時間ドラマ(信濃のコロンボなど)に出演している有名俳優をナレーションに起用していて、最初はちょっともったいないと感じました。
しかし、実は最後にちょっとした仕掛けがあり、中村さんにぴったりのシーンが用意されています。
この辺は聞いてのお楽しみということにします。
ちなみに本作品には「機動戦士ガンダムMS IGLOO」の主役オリヴァー・マイを演じた石川英郎さんが出演されているはずなのですが…
気が付きませんでした。
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