- 作品 : 妖異金瓶梅
- 番組 : 青春アドベンチャー
- 格付 : AA-
- 分類 : 推理
- 初出 : 2003年1月20日~1月31日
- 回数 : 全10回(各回15分)
- 原作 : 山田風太郎
- 脚色 : 原田裕文
- 演出 : 真銅健嗣
- 主演 : 深沢敦
中国・明の時代。
山東省の豪商・西門慶(さいもん・けい)の屋敷には、8人の妻と多くの使用人がいた。
しかし、金と欲にまみれた西門慶のこと。
妻といっても、金と権力にものを言わせて奪い取った美女達であり、屋敷内はミエや欲望や嫉妬が渦巻く、苦しみの世界であった。
特に、第5夫人である潘金蓮(はん・きんれん)は、絶世の美女であり、風にも耐えない風情でありながら、実は自らの欲望のためには何事も躊躇しない女であった。
このような環境で事件が起こらない方がおかしい。
主人公の応伯爵(おう・はくしゃく)は放蕩が過ぎて一代で身を持ち崩した末に、幇間(※)として、西門慶に養われている男である。
その立場から事件に無関係でいられない応伯爵は、不承不承、様々な事件の真相を探り始めるのだが…
(※)ほうかん、たいこもち
宴席やお座敷などの酒席において主や客の機嫌をとり、自ら芸を見せ、さらに芸者・舞妓を助けて場を盛り上げる職業(wikipediaより)
山田風太郎さん原作の推理小説を原作とするラジオドラマです。
山田さんといえば「忍法帖」シリーズを始めとした伝奇小説!
本作品もタイトルに「妖異」と入っていることから、私はてっきり伝奇ものだと思って聴き始めたのですが、さにあらず。
1~2回ごとに一つの短編になっている連作短編のミステリーでした。
山田さんの作家人生をなぞる展開
調べるまで知らなかったのですが、山田さんは伝奇小説家として大成する前に、推理小説家としても著名であったとのこと。
しかも、この「妖異金瓶梅」を発表した頃を転換点として伝奇小説を書くようになっていったのだそうです。
そういう視点から聴いてみると、本作品の前半は上で書いたように連作短編形式のミステリーなのですが、後半は、ある大きな事件が起き、ミステリーと言うよりも、冒険もの、伝奇ものの色が濃くなります。
まるで山田さんの作家人生における作品ジャンルの変遷をなぞるようなストーリー展開です。
意図したものかはわかりませんが、とても興味深いですね。
舞台は中国、実はミステリー
ところで「金瓶梅」ですが、いわずと知れた中国四大奇書の一つとも言われる、明代の小説です。
元祖「金瓶梅」は、金・酒・色事をテーマにしたバリバリの大衆小説ですが、本作品はその舞台や登場人物を拝借しつつ、見事な推理ものに仕立て上げています。
本作品の探偵役は、西門慶の幇間である応伯爵。
この応伯爵が、西門慶の女達(一部男を含む)が巻き起こす事件を解き明かしていきます。
一筋縄ではいかない
解き明かすと言ってもそれは遊び人の幇間のすることですので、必ずしもハッピーエンドにはなりません。
しかし、この応伯爵、人生の酸いも甘いもかみわけているから、犯人の動機がすぐ推測できますし、トリックにもよく気がつき、なかなかの名探偵です。
本作の前半の各エピソードはそれぞれが1~2回で終わる短いものなのですが、良く聴いていると短い中にもちゃんと伏線も貼ってあり、意外ときちんとした推理ものになっています。
推理系が好きな人にも聴きごたえのある作品だと思います。
後半の展開にもちゃんと裏がある
ところが終盤に近づくにつれ作品内容が少し変わっていきます。
前半からチラチラと顔を出す「水滸伝」の登場人物達が前面にでてきて、緻密な短編推理ものというより長編の活劇風の展開になっていきます。
実は最初に後半を聴いていたときには「前半の展開の方が面白かったなあ」と思いました。
しかし最後まで聴いてみると、大味で行き当たりばったりな展開に見えた後半の事件にもちゃんと裏があったことが明らかになり、この作品らしい、猟奇的で、でもちょっと悲しいエンディングを迎えます。
人を選ぶ内容かも
と言うわけでなかなか楽しめた作品なのですが、気になる点もありました。
全般に色事が強く絡んだ内容であり、起こる事件も結構、猟奇的です。
人間の欲望がどぎつく描かれていますので、人を選ぶ作品であるのも確かだと思います。
2013年放送の「DINER(ダイナー)」も「こんな作品、良くNHKが放送したなあ」という血なまぐさい作品ですが、本作品もNHKらしくない作品です。
明代の文学
ちなみに、明代は中国で庶民のための文学が花開いた時代として知られています。
「金瓶梅」以外の4大奇書の残りの三作である「水滸伝」、「西遊記」、「三国志演義」のほか、「封神演義」も元代から明代にかけての作品です。
青春アドベンチャーとの関連においても、本作品のベースとなった「金瓶梅」のほか、「西遊記」と「封神演義」をベースとして翻案された作品が、ラジオドラマ化されています。
前者については諸星大二郎さんの「西遊妖猿伝」と「続・西遊妖猿伝」。
後者については安能務さんの「封神演義」。
明代の文学の後世に対する影響力の大きさは絶大ですね。
ちょっと心配
出演者は主役の応伯爵が俳優の深沢敦さん。
物語の語り手(=ナレーション役)でもあります。
女っぽい役の多い深沢さんは篠井英介さん、大谷亮介さんとともに「3軒茶屋婦人会」というユニットで女形にこだわった芝居をしているそうですが、この篠井さんと大谷さんがそろって出演しているのが「菩薩花 羽州ぼろ鳶組」になります。
そして希代の姦婦・潘金蓮を演じるのは余貴美子さん。
個人的にはもう少し可憐な感じの声の方が演じると、内面とのギャップが出て面白かったのではないかとも思いますが、くせ者である金蓮は余さんのようなベテランさんが演じる方が良いのかも知れません。
ちなみに余さんは、2006年には西條奈加さん原作の「金春屋ゴメス」で怪女・ゴメス親分を演じています。
潘金蓮もゴメス親分も極めて個性の強い役です。
余さんが青春アドベンチャーという番組を、一体どういう番組だと思っているのか心配です。
個性的な作品には個性的なスタッフ
スタッフは脚色は原田裕文さんで、脚色が真銅健嗣さん。
原田さんの脚色作品は本作品の他、本格的な社会派作品の「光の島」、何だか訳が分からない「有頂天家族」、そしてゲーム「ぼくの夏休み」チックな優しい内容の「光」ととても個性的なラインナップです。
また、演出の真銅さんも「封神演義」、「赤と黒」、「ドラマ古事記」などの大作を始めとして個性の強い作品を多く担当されている方。
本作が独特なのはスタッフの面からも頷けます。
コメント